ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年4号
海外Report
仏ジオディス五年間のリストラを終えて上昇気流に中国をターゲットにアジア拡大を狙う

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2006 44 不採算部門を売却 「五年にわたる大規模なリストラが、ここに きてコンスタントに利益が上がるかたちで実 を結んできた。
ようやく企業内のリストラと いう内向きの作業に一段落をつけることがで きた。
これからは荷主企業の要望が高まって いるサプライチェーンへの対応や海外ネット ワークの拡充に一層力を注いで生きたい」 そう語るのはジオディスのフランコ・ブラ ンシュCEO(最高経営責任者)だ。
同社の二〇〇五年決算は、売上高三五億九 六〇〇万ユーロ(五〇三四億円、前年同期比 六・七%増)、営業利益八五〇〇万ユーロ(一 一九億円、同三五%減)で、最終利益三二〇 〇万ユーロ(四四億八〇〇〇万円、同七〇・ 七%減)となった。
パリ 郊外に本社を構えるジオディスは、フ ランス国内外に約二万三〇〇〇人の従業員を 抱え、ヨーロッパ各国とアジア一〇カ国に子 会社を持つ。
売上高はフランスでナンバーワ ン。
ヨーロッパの物流業界誌が選ぶランキン グ(Strategie Logistique 誌の二〇〇三年十 二月号)では、ドイツポストやシェンカー、エ クセル(現ドイツポスト)に次いで四位にラ ンクされたこともある実力派でもある。
業務内容は、路線(特別積み合わせ)業務 (エクスプレス業務を含む)、貸し切り業務と いったトラック輸送がメーンとなり、そのほ かに3PL業務、フォワーディング業務、リ バースロジスティクス業務などの部門を用意 している。
ジオディス・グループの起源をたどれば、現 在のジオディスの中核となるカルバーソンが、 フランス東部の港町ル・アーブルで通関業務 を始めた一九〇四年にまでさかのぼることが できる。
五〇年代に入りフ ランス国鉄がカル バーソンを買収。
八〇年代にはカルバーソン 仏ジオディス 五年間のリストラを終えて上昇気流に 中国をターゲットにアジア拡大を狙う 日本で「ジオディス」というフランスの物流業者の名前を耳にする機会は 少ない。
しかしフランス国内では売上高ナンバーワンで、ヨーロッパでも五 本の指に入る実力を持っている。
フランス国鉄(SNCF)の子会社だった 同社は九六年に株式を上場した。
その後、大幅な内部刷新を行った結果、コ ンスタントに利益が上がる体制が整った。
ケーススタディ ジオディスのフランコ・ブラ ンシュCEO 45 APRIL 2006 として株式上場を果たした。
現在のジオディス・グループができるのは 一九九五年のこと。
フランス国鉄が傘下の物 流子会社をカルバーソンに集約して、社名を ジオディスと改めた。
翌九六年に大株主であ ったフランス国鉄の保有株式を五〇%以下に おさえることで、ジオディスとして株式を上 場した。
現在のフランス国鉄の保有株式は四 五%だ。
上場初年度にあたる九六年の売上高は二二 億九六〇〇万ユーロ(三二一四億円)で、そ の一〇年後にあたる二〇〇五年と比べると、 売上高は五六・六%増加したことになる。
し かし、上場からの一〇年間は決して順風満帆というわけではなかった。
山あり谷ありの末 に、ようやく最近になって上昇気流に乗り始 めたといったところだ。
経営の苦戦は上場初年度から始まっていた。
九六年の決算は売上高二二億九六〇〇万ユー ロに対して、最終損失で三億七二〇〇万ユー ロ(五二〇億円)という大幅な赤字を出した。
その後三年間はどうにか黒字を維持するが、 二〇〇〇年、二〇〇一年と二年連続で赤字決 算を余儀なくされた。
その経営の責任を取るかたちで二〇〇一年、 経営陣が一新した。
トップの会長職に外部か らピエール・ブラユ氏を招き 入れ、ナンバー 2のCEO職には、それまでカルバーソン部 門のCEOであったブランシュ氏が社内から 昇格した。
「ここ五年の売上高の数字を並べてみると、 それほど大きな変化はないように見えるかも しれない。
しかし売上高の中身は大きく違っ ている。
儲かる事業を取り込んで、採算割れ の取引からは手を引いた。
その結果、ようや く利益が生まれるようになった」(ブランシュ CEO) まずは不採算部門を売却したり、あるいは 撤退したりした。
国 別に見るとイギリスの業 績が目立って悪かった。
「エクスタンド」とい うイギリス国内の宅配便会社を持っていたが、 市場で十分に競争するためには拠点拡充への 大規模な投資が必要で利益が出るメドが立た なかった。
そこでこの会社をイギリス郵政省 に売却した。
さらにイギリスの子会社「ユナイテッド・ キャリー」を閉鎖した。
二つ合わせて二〇〇 〇人を超す大所帯の不採算部門を切り離した ことで身軽になった。
またアルゼンチンやメ キシコなどの子会社も閉鎖し、その後は主力 であるフランス本国の建て直しを図った。
ジオディスが発足から厳しい経営状態に直 面した最大の理由は、それまで別々だった企 業の連合体として出発したことにあった。
ジ オディスという看板は掲げたものの、中身は 依然として旧会社のままで、セクショナリズ ムに陥り、部門間の連携もほとんどとれてい ないという状態だった。
ジオディスの違う部門同士が、同じ荷主企業を取り合うケースも 見受けられた。
寄り合い所帯の名残は、現在の年次報告書 に見ることができる。
ジ オディス・グループ は、フランスだけでも七〇社からなり、フラ ンス以外のヨーロッパやアジアを合わせると 約一〇〇社の企業から成り立っている。
資生堂やNECの業務を受注 経営陣が刷新された直後に導入された改革 案は、部門(旧会社)ごとに採算性を管理す るという仕組みを捨てて、地域ごとの組織に 140 120 100 80 60 40 20 0 2000年 2003年 2005年 (単位:ユーロ) 出典:ロイター 2006年2月22日まで ジオディスの業績 ジオディスの株価推移 3,600 3,400 3,200 3,000 0 '00 '01 '02 '03 '04 '05 150 100 50 0 −50 −100 −150 −26.9 −137.9 2.0 22.1 32.3 110.3 3,414 3,497 3,251 3,216 3,370 3,596 (単位:百万ユーロ) 売上高 最終損益 APRIL 2006 46 移行することだった。
それまで本社に集中し ていた権限と責任を、各地域に委譲した。
各 地域は予算と権限を持ち、自ら行動するよう 求められた。
ジオディスが全社を挙げて追求したのは顧 客満足度(CS)の向上だった。
それまでジ オディスのグループ内にばらばらに存在して いたサービスを自由に組み合わせることで、荷 主の要望に最大限こたえるようにした。
また 社外の独立した調査会社を使って、定期的に CSに関するアンケート結果を集計して、C S向上の進 捗状況を測った。
CS向上の一環として、荷主の産業別に社 内に専門のチームを編成した。
対象となる産 業は、ハイテク、自動車、衣料品、日用雑貨、 酒類、航空など多岐にわたる。
「(リストラ前は)荷主のサプライチェーン を取り込む3PL業務にそれほど力を入れて こなかった。
しかし産業ごとの専門チームは、 細分化していく荷主のニーズを的確につかみ、 業務に反映させるとともに、高度なノウハウ を社内に蓄積することで収益の高い取引を獲 得することにつなげる役割 を担っている」(ブ ランシュCEO) こうした荷主のサプライチェーンを取り込 もうとする試みは、着実に成果を上げている。
3PL部門で獲得した荷主としては、IBM やデル、カルフールなどの欧米系の国際企業 に加えて、資生堂やNECなどの日系企業も ある。
資生堂からは二〇〇四年にドイツでのセン ター業務とドイツ国内六〇〇〇カ所への配送 業務を請け負っている。
NECからは同じく 二〇〇四年にスコットランドで、調達物流を 受託した。
NECとの取引はフランスの二カ 所のセンターに続き、三件目の受注 となった。
パリ近郊のエクスプレス・ハブ拠点 荷主の要望に沿うかたちで3PL事業が伸 びてきたとはいえ、依然として経営の中軸と なっているのは、トラック輸送である。
中で もエクスプレス部門は利益率が高い。
稼ぎ頭 ともいえるエクスプレス部門は、フランス国 内に四つの拠点、ヨーロッパ各地に二一五カ 所のデポを持つ。
エクスプレス部門のハブ拠点は、パリ郊外 の本社から車で二〇分ほど北上したところに ある。
自動仕分け機を装備した「ジャンビエ 物流センター」は、延べ床面積一万二五〇〇 平方メートルで、従業員一二〇人が働く 。
発 着するトラックは一日約四〇〇台。
日曜日を 除く週六日稼働で、一日平均五万五〇〇〇個 の貨物が通過していく。
これは同社のエクス プレス部門全体の三分の二の物量に相当する。
センターに貨物が集まり始めるのは毎日午 後六時ごろ。
ジオディスがミルクランで集荷 してくるものもあれば、集荷時間に間に合わ ず荷主自らが運び込んでくる貨物もある。
長 距離便の出発時間は午後九時、午後一〇時半、 午前零時の三便だ。
着地は、フランス国内をはじめヨーロッパ 二一カ国。
二四時間で届くのはフランス、ベ ネ ルクス三国、ドイツ、イギリス。
この二四 時間圏内へと運ばれる貨物が全体の八割を占 める。
その後は距離に応じて四八時間、七二 時間、九六時間以内の配送となる。
センターのプラットフォームには、貴金属 から自動車のバンパーまで様々な貨物が慌た だしく行き交う。
取扱貨物の重量は「一グラ ムから三トンまで」とさまざま。
六割の貨物 は自動仕分け機にのせるが、残りの四割は手 作業で仕分ける。
センター長のジェラルド・ドネ氏は 今後の パリ郊外の「ジャンビエ物流センター」で扱う荷物は1グラムから3トンまでと多岐に渡る 47 APRIL 2006 課題として「一つは現在手作業に頼っている 四割の貨物をできるだけ自動仕分け機で処理 することで作業の効率化を図ること。
もう一 つは、センター内での貨物追跡の精度を高め ること。
最後は、現在十一本ある自動仕分け 機への投入ラインを十三本に増やすことだ」 と指摘する。
中国市場に焦点を合わせる ジオディスは二〇〇五年度中に立てた三カ 年計画で二〇〇七年までに売上高で一〇%増、 利益率で三〇%増(いずれも二〇〇四年の数 字と比べて)を目指すという目標を掲げてい る。
ここにも売上高よりも利益を重視する姿 勢が窺える。
その際、大型のM&A(企業買 収)に頼ることなく、「オーガニック・グロー ス(自力成長)」で成し遂げたいとしている。
「M&Aなら時間をかけずに企業規模を大き くすることができるが、危険も伴う。
異なる 企業文化を統合して 、一つの企業として連携 がとれるようになるまでには多大な時間と労 力がかかるからだ」とブランシュCEOはこ れまでのジオディスがくぐり抜けてきた経験 も踏まえて語る。
加えて、長期借入金もこの二〇〇二年まで の三億ユーロ台(四〇〇億円超)と比べると 大幅に圧縮したが、依然として一億ユーロ (一四〇億円)を超えているため、銀行からこ れ以上M&A資金を借り入れることで金利負 担を増やしたくないという思惑もある。
ジオディスがフランス本土の次に「オーガ ニック・グロース」の源となるように、と力 を入れているのがアジア市場の開拓である。
「アジアでの需要は非常に大きい。
中国やイン ドなどに進出するIT企業や衣料品メーカー、 小売りなどからもアジアに進出してほしいと いう要請が後を絶たない」(ブランシュCE O)。
実際、二〇〇五年十一月には、韓国に進出したフランス大手小売りカルフールから センター業務と韓国内の三一店舗への配送業 務を受注している。
アジアではすでに中国、インド、韓国、タ イなどの九カ国に現地法人を持っている。
日 本では駐在員事務所を構え、通関やフ ォワー ディング業務は日新と西鉄航空に委託してい るという。
アジア市場の中でも力を入れているのが中 国である。
すでに一〇カ所で拠点を構え、最 近になって刷新した上海の衣料品専用のセン ターでは、ラベリングや品質管理を行えるよ うにした。
まだ全体の売上高から見れば、アジアでの 比率は四%に過ぎないが、今後、アジア発着 とアジア域内の貨物量が増えるにつれて、ジ オディスの売上高に占める比率が次第に拡大 していくことは確か だ。
(本誌欧州特派員 横田増生)

購読案内広告案内