ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年4号
CSCMP報告
従来型購買から戦略的調達への転換

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

CSCMP報告2005 APRIL 2006 76 サプライヤーの合理化から着手 このセッションの目的は次の三点。
?組織における変化の展開について 学び、?真にワールドクラスなサプ ライチェーンに求められる要素を理 解し、?従来型の購買部署を本物の サプライマネジメント組織に転換す る上での困難と、それを乗り越えた ときに得られる利益が何かを認識し てもらうこと――だ。
セスナという会社について簡単に 説明しておこう。
ビジネスジェット 機メーカーである当社の創業は一九 二七年。
八五年にジェネラルダイナ ミクスに買収され、九二年にはテク ストロンの傘下に移った。
従業員数 は一万二〇〇〇人。
〇四 年度の売り 上げは二五億ドルと好調で、〇五年 度、〇六年度とも更なる伸びを見込 んでいる。
親会社であるテクストロ ンは年商一〇〇億ドルの複合大企業 で、約四〇の国と地域に四万五〇〇 〇人の従業員を抱えている。
傘下に は当社の他にベルヘリコプター・ Jacobsen ・ Kautex ・ Lycomin ・ EZ- GO ・ Greenlee が名を連ねている。
統合されたサプライチェーンを目 指して当社が取り組みを始めたのは 数年前。
その後、戦略的な調達を推 進し、サプライヤーの総数を改善前 の二五%まで集約した。
それだけで なく、サプライチェーンのプロセス と全体的なパフォーマンス――品 質・信頼性・デリバリー・コストパ フォーマンスを大幅に向上させた。
我々が最終的な目標として掲げて いるのは「顧客の満足」と「株主の 利益」だ。
顧客が我々に期待するの は何だろう。
品質や信頼性・価格・ デリバリー・サービス・機能性など、 いわば航空 機のパーソナリティーだ。
株主が期待するのは投資への見返り、 つまりROIC(投下資本利益率: Return On Invested Capital ) だ 。
顧客の満足と株主の利益というこの 二つの目標はリンクしている。
と言 うのも、顧客を満足させることでビ ジネスを成長させ、マーケットシェ アを高め、株主に報いることができ るようになるからだ。
顧客を大切に 扱うことは、ビジネスを大切に扱う ことを意味する。
そしてその目標の 達成には統合されたサプライチェー ンの実現が不可欠だ。
ビジネスを成功させようと考える なら、今はもはや企業対企業で競争 する時代ではなく、サプライチェーン 対サプライチェーンで競争する時代だ ということを認識して欲しい。
メーカ ーはサプライヤーの選定を誤れば競争 に敗れる ことになる。
従ってどのサプ ライヤーがベストかを常に見極めてい かなければならない。
アウトソーシン グやローカルソーシングなど全てのア クティビティがサプライチェーンの枠 組みに含まれる。
そうしたサプライチ ェーンの全体図を見渡してこそ、具体 サプライヤーを選別し育成することで、サプライチェーンの 効率化に成功。
品質の安定した部品が、必要なときに必要なだ け手に入るようになった。
部品の品質問題による不具合が減少 し、製品の信頼性が向上。
適切な在庫管理で在庫回転率も改善。
あらゆる無駄を省いて大幅なコスト削減を実現した。
従来型購買から戦略的調達への転換 セスナ・エアクラフト社 ブレント・エドミニステン ディレクター セスナ・エアクラフト社の ブレント・エドミニステン ディレクター 77 APRIL 2006 的な目標や戦略、それを進めていく プロセスの策定が可能になる。
統合されたサプライチェーンに対 する我々のビジョンは、目標・戦 略・プロセス・データといったサプ ライチェーンにおける全ての要素が 完全にリンクすることだ。
このビジ ョンをサプライチェーン全体に行き 渡らせ、完全に統合されたプロセス を追求している。
旧来の購買組織から脱却 従来型購買を行っていた九八年当 時、セスナの購買と言えば典型的な 「ただ買うだけ」の機能しか果たし ていなかった。
サプライチェーンに 関する戦略的なプロセスはなく、戦 略的な調達ルートもなかった。
サプ ライヤーとの関係は、必ずしもいい ものとは言えなかった。
契約単価が 平均で毎年三〜四%上昇する一方で、 入荷する部品の不具合率は五〇〇〇 〇PPM(Parts Per Million: 一〇 〇万分の一)と高く、オンタイムの デリバリーは六五%という有様だっ た。
そのような状態にありながらも、 当社は中小型航空機業界で五〇%超 のマーケットシェアを持ち業界ナン バーワンの地位を誇っていた。
その ため、社内では「成功しているのに、 なぜ変わる必要があるのか」という 声にぶつかることもしばしばだった。
組織を変革するには、理解とビジ ョン・統合されたアプローチ・事業 の所有と展開・業績の維持・継続的 な計測確認が必要だ。
ただし、こう したテクニカルな面だけではなく、 それを支える人々とその文化にも注 目しなければ改革は成功しないとい うことを忘れないで欲しい。
人々を 動かすことは容易ではなく、数年単 位の時間を要することもある。
だが、 この点を重視しない改革は、失敗に 終わるか、たとえ一時的に成功した ように見えても、その成功は長 くは 続かない。
内部の人間の意識を変えるととも に、サプライヤーに我々のビジョン を理解してもらうための努力も怠ら なかった。
取引高上位一五社には、 直接出向いての説明も行った。
計画 を実現するためにはコミュニケーシ ョンを怠ってはならない。
我々はサ プライヤーと積極的にコミュニケー ションをとり、我々のビジョンとそ れを実行する価値を理解してくれる ように働きかけた。
組織の変革には、キーとなる五つ の要素がある。
ビジョン・スキル・ インセンティブ・リソース(ヒト・ モノ・カネ)・アクションプランだ。
この五つの要素が完全に揃ってこそ 飛躍的な変 化が現実のものとなる。
ビジョンの欠如は混乱を、スキルの 欠如は不安を、アクションプランの 欠如は誤ったスタートを、リソース の欠如は挫折を招くことになり、イ ンセンティブが欠如すれば変化の程 度は緩やかなレベルに留まってしま う。
五つの要素のうちどれが欠けて も改革は成功しない。
さて、我々が辿った道を具体的に に紹介していこう。
まずは既存のプロセスを再編する ことから始めた。
我が社がビジネス において株主と顧客を最重要視して いるのは先に述べた。
経営目標が何 であ り、その実現のために何をすべ きか。
企業経営の視点では優先順位 をどのように付けるべきか。
何かを 行う時には、そうした最終的なゴー ルを常に意識することが大切だ。
戦略的な調達を進める大枠として 「マチュリティー・パス・デベロップ メント(Maturity Path Development: 成熟・発展の道)」というプ ロセスを構築した。
このプロセスは ?サプライヤーを選別し、?取り引 きする価値のあるサプライヤーと提 サプライヤーの選別 フェーズ1 フェーズ2 フェーズ3 フェーズ4 サプライヤーとパートナーシップを構築 サプライヤーのパフォーマンス向上を促進 サプライヤーを自社に統合 コモディティーごとにベストサプライヤーを選定 選定サプライヤーと長期契約を締結し取り引きを集中 デリバリー・在庫・コスト・品質および信頼面での向上 電子商取引・VMI・開発段階からの協力・サプライヤーの強化 改善 選別 提携 統合 図1 戦略的な調達を進めるプロセス CSCMP報告2005 APRIL 2006 78 携を進めながら、?サプライヤーの パフォーマンスを向上させ、?最終 的には我々と一体化したレベルに発 展させる――という四つのフェーズ で構成される( 前頁図1 )。
フェーズ?の選別では、サプライ ヤーを「グロウスパートナー」 (○)・「プロビジョナルパートナ ー」(△)・「フェイズアウト」(×) の三グループに分類する。
基準とな るのは「STARS(Supplier Tracking And Rating System: サ プライヤー実績評価システム)」と 「ボルドリッジ賞」だ。
STARSは過去のパフォーマン スを評価する基準であり、品質(不 良率)・信頼性(市場に出てからの パフォーマンスレベル)・指定納期 順守率・コスト(前年比引き下げ・ 引き上げ率)の実績データに基づい ている( 図2 )。
一方のボルドリッ ジ賞の基準は現在のパフォーマンス を評価するのに用いた。
リーダーシ ップ・戦略上の計画・顧客と市場に 対する姿勢・情報と分析・人材に対 する姿勢などを評価の対象とするも ので 、パフォーマンスの潜在性を探 る指標としても有効だ( 図3 )。
フェーズ?は、サプライヤーとの パートナーシップ構築だ。
長期契約 の交渉を通じて、より多くのビジネ スをベストサプライヤーに集中させ ていく。
次のフェーズ?で、サプライヤー のパフォーマンスを向上させる。
そ の手段として用いているのが「SV IP(Supplier Value Improvement Process:サプライヤーの価値向上 プロセス)」だ。
SVIPとは、セ スナ社が従来用いていたVA/VE ( Value Analysis Value Engineering: 価値の分析・価値の工学)に、親会 社であるテクストロンが用いてきた シックスシグマを組み合わせて発展 させたプロセスだ。
VA/VEとは、 代替可能な低コストの材料を検討し たり意味のない特色を排除したりす ることによりコストを削減するプロ セスだ。
コスト削減を目指すVA/ VEとパフォーマンス向上を目指す シックスシグマから生まれたSVI Pは、品質・信頼性・納期順守・コ スト面での向上を実現する強力なプ ロセスだと言える。
最終段階のフェーズ?に達したサ プライヤーは、セスナと一体化した 状態になる。
それはパズルのピース とピースのような関係であり、そこ では極め てレベルの高いコラボレー ションが行われる。
製品デザインや 代替部材の検討を社内だけで行うの ではなく、サプライヤーの意見を積 極的に取り込むのだ。
そのように知 識やアイデアを行き来させることで、 お互いのレベルを高めながらサプラ イチェーンの効率化を図ることが可 能となる。
対サプライヤーのプロセスを整備 する一方で、社内ではコモディティ ー別に専門の部門横断チームを編成 した。
エアーフレーム向けやシステ ム向けなど直接部材を扱うコモディ ティーチームが六つ、間接部材とサ ービスを扱うチームが一つの計七チ ームで、チームを構成するメンバー 格付け 区分 品質 信頼性 納期順守率 価格 1 2 3 4 5 優 良 可 境界線上 不可 不具合率 250PPM未満 不具合率 2,500PPM未満 不具合率 10,000PPM未満 不具合率 20,000PPM未満 不具合率 20,000PPM超 100%オンタイム 最低98%は オンタイム 最低95%は オンタイム 最低92%は オンタイム 92%未満で オンタイム 長期契約あり 対前年比2%以上引下 長期契約あり 対前年比1〜2%引下 対前年比 0〜0.9%引下 物価上昇率の 50%未満の引上率 物価上昇率の 50%超の引上率 フィールドでの パフォーマンス レベル100% フィールドでの パフォーマンス レベル最低98% フィールドでの パフォーマンス レベル最低95% フィールドでの パフォーマンス レベル最低92% フィールドでの パフォーマンス レベル92%未満 図2 サプライヤー選別の基準1(STARS) 79 APRIL 2006 は製品デザイン・サプライマネジメ ント・製造・技術・品質管理・製品 サポート・財務など各分野からの代 表だ。
優良サプライヤーをセスナ社 のデザインや製造プロセスに統合す ることを目指し、選別・提携・改 善・統合の戦略調達プロセスを実行 している。
サプライヤーと直に接す る彼らは改革プロセスを支える実行 部隊だ。
コモディティー別戦略チームは、 コモディティーというモノの視点か らだけでなく、プロセスの視点から もサプライヤーと改善に取り組んで いる。
我々がどのような計画を進め ているか、課題は何か、プロセスは どのように実行すればよいか、顧客 と株主のために何ができるかという ことに、サプライヤーと一つ一つ向 き合っている。
大幅なコスト削減に成功 当社の全体的な事業計画にサプラ イヤーを統合するプロセスを通じ、 サプライチェーン全体における大幅 なコスト削減に成功した。
サプライ ヤーの選別を行い、ベストサプライ ヤーに取引を集約したことで、調達 先が四分の一に減った。
部品の品質 が大幅に上がり、部品の品質問題に よる不具合が減り、製品テストのや り直し回数が減った。
製品である飛 行機の品質も著しく向上した。
部品 は九九・九%の確率で必要なときに 入手できるようになり、在庫回転率 は一三 %向上した。
一連の改善活動が認められ、二〇 〇三年に『Purchasing 』誌から金メ ダル(Medal of Professional Excellence )を授与された。
非常に喜ば しく光栄なことであるが、我々の活 動はこれで終わるものではない。
サ プライチェーンを取り巻く環境は常 に変化している。
止むことのないコ スト引き下げ要求・中国の台頭をは じめとする世界的な変化・よりよい 製品をより早く手に入れたいという 顧客の要望――。
さらなるコスト削減のために我々 が一年ほど前から始めたのがTCA ( Total Cost of Acquisition )の取 り組みだ。
部品取得までの総コスト を明確に把握することがコスト削減 の鍵となる。
部品コストの引き下げ には、我々が努力すべき部分とサプ ライヤーが努力すべき部分がある。
目に見える材料に掛かる原価だけで はなく、在庫維持や検査に掛かる費 用も含めた総コストを把握し、無駄 を省いていくことがコスト削減につ ながる。
サプライヤー統合の道は、それぞ れの会社の内側だけの話ではない。
真の統合は、我々のグロウスパート ナーの間に シームレスな関係が構築 されたときに実現する。
エンドカス タマーに届く製品のレベルを飛躍的 に向上させるためには、我々とグロ ウスパートナーのコミットメントが 必要だ。
こうした向上や統合は今日言って 明日できることではない。
グロウス パートナーと手を携えて品質・信頼 性・デリバリー・サービス・コストパフォーマンスを高めていかなけれ ばいけないと考えている。
日々高ま る顧客の要求を満たすために、我々 は最も効率的なオペレーションを追 求していく必要がある。
上級管理者が組織をどのように導いているか、また、その組織が社会的 責任をどのように果たしているか。
戦略的な方向付けをどのように行っているか、また、そのためのアクショ ンプランをどのように決定しているか。
顧客と市場の要求や期待をどのように捉え、満たしているか。
プロセスやパフォーマンスのマネジメントシステムを支えるために、デー タや情報をどのように管理し、効果的に用い、分析し、改善しているか。
従業員の可能性をどのように伸ばし、組織の目標に沿った人材に育てて いるか。
キーとなる生産やデリバリー、サポートのプロセスがどのようにデザイン され、管理され、改善されているか。
顧客満足・財務および市場・人材・サプライヤーおよびパートナー・オ ペレーション・ガバナンスおよび社会的な責任といった領域におけるパフ ォーマンスがどのようなものであな改善が行われているか。
図3 サプライヤー選別の基準2(ボルドリッジ賞) ボルドリッジ賞(the Baldrige criteria)は米国国立標準技術研究所 によるパフォーマンス評価基準。
次の7つのカテゴリーで構成される。
2 戦略上の計画 1 リーダーシップ 3 顧客と市場に対する姿勢 4 情報と分析 5 人材に対する姿勢 6 プロセス管理 7 ビジネスの結果 ※このレポートは米CSCMP年次総会 での講義内容を本誌編集部がまとめた ものです。

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