ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年3号
国際物流
外航海運会社の“針路”を探る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2006 76 外航海運会社は好調な業績が続いていま す。
BRICsをはじめとする世界経済の 拡大によってエネルギー・資源の旺盛な輸 送需要は当面続くと目されています。
しか し、業界が抱えている課題や問題は少なく ありません。
対応を間違えないことが明る い未来への第一歩です。
連載の最終回は外 航海運の現状と課題を整理し、外航海運業 の将来像を考えてみましょう。
BRICsの成長が追い風に 世界経済の拡大基調を背景に、原油、鉄鉱 石、石炭を中心としたエネルギー・資源の旺 盛な海上輸送需要が続くと見られています。
また、BRICsや、工業化をベースに新た に経済発展を遂げる国が加わることでコンテ ナ輸送も増送が見込まれるなど、外航海運に おける需要面の環境は今後も良い状態が続く でしょう。
米国の経済成長率は二〇〇六年以降も三% 以上の水準を維持し、BRICs諸国の経済 も好調に推移することが確実視されています。
当面、世界の経済 は拡大を続けると思われま す。
中国の貿易総額は二〇〇四年に一兆ドルを 突破し、日本を抜いて世界第三位に躍り出ま した。
自動車販売台数は輸入車を含めて五九 二万台になり、日本の五八五万台を抜き、米 国に次いで世界第二位となりました。
中国の世界経済における地位はますます高 まっています。
二〇〇五年の実質GDP成長 率は九%を超えており、外資系企業や民営企 業を中心に輸出が堅調に伸びています。
鉄鋼、 セメント、石炭などの生産能力は国内需要をすでに上回っているにもかかわらず、現在も 大型プロジェクトが進んでおり、過剰生産の 懸念から中期的には経済成長への影響が心配 されるものの、当面の経済減速はないと考え られます。
中国以外のBRICs諸国も好調です。
例 えばロシアは原油価格が高値で推移している ことから高成長が期待できます。
二〇〇五年 第3四半期のインドのGDP成長率は前年同 期比 八ポイント上昇と高い水準でした。
最近 はIT産業だけでなく、日用品、自動車、製 薬、鉄鋼、エネルギーや金融などあらゆる分 野で活況を呈しています。
インド国内の投資 案件も急増しています。
インド企業の海外進 出も本格化しているようです。
タイやシンガポールをはじめとする国々と のFTAもインド経済にとってはプラスに作 用しています。
ブラジル経済も緩やかながら 回復基調にあります。
また、最近はBRIC sの「s」が南アフリカを指す、と言われる ようになるなど南アフリカがにわかにクロー ズアップされています。
南アフリカはアフリ カ地域として初めてサッカーのワールドカッ プが開催されることが決まっています。
ポ ストBRICsとしてTVTも注目を集 めています。
TVTは トルコ(T)、ベトナム (V)、タイ(T)の三 カ国を指します。
先進 国以外で、人口五〇〇 〇万人以上、経済成長 率五%以上が三年以上 続いているのは四カ国 です。
そのうち政情が 不安定でカントリーリ スクの大きいパキスタ ンを除いた三カ国がT VTです。
中でもEU 加盟交渉が昨年一〇月 にスタートしたトルコ は、欧州・中東・中央 アジアの中間に位置し、 EUとはすでに関税同盟を結んでおり、農産 物を除けば関税はゼロ です。
EU諸国はトル コを 生産拠点にすべく 積極的な投資を行って います。
TVTの中で もとりわけトルコへの 期待が高まっています。
各国の工業化と経済 の拡大による電力、資源の需要増加が続きま す。
中国の原油、鉄鉱石輸入のための船舶需 要は引き続き旺盛です。
中国の鉄鉱石の輸入 外航海運会社の“針路”を探る 《最終回》 国際物流の基礎知識 商船三井 森隆行 営業調査室主任研究員 B(Brazil) R(Russia) I(India) C(China) s(S.Africa) T(Thailand) V(Vietnam) T(Turkey) 面積(千平方km) 8,547 17,075 3,287 9,600 1,219 513 331 779 人口(万人) 17,847 14,825 107,300 129,227 4,530 6,396 8,090 7,071 GDP(億ドル) 4,923 4,329 4,743 14,166 1,599 1,432 380 2,397 GDP/1人(ドル) 2,720 2,987 483 1,083 2,780 2,239 483 3,412 (データは、2003年) BRICsとTVTの経済指標 77 MARCH 2006 を例にとっても、二〇〇〇年には七〇〇〇万 トンであった輸入量が二〇〇四年には二億八 〇〇万トンに急増しています。
このことは、 世界第二の消費国となった石油についても言 えます。
また、BRICsやTVTの経済発展の特 徴は工業化と工業製品の輸出です。
エネルギ ー・資源の輸送、つまりタンカーやバルクキ ャリアだけでなく、コンテナ輸送においても 荷動きは増加すると見込まれます。
二〇〇六 年以降、大型コンテナ船の大量竣工が予定さ れていますが、荷動きもそれと同じように活 発化することから、当面は需給が大きく崩れ ることはないでしょう。
このように外航海運を取り巻く経済環境は 非常にいい状態が続くでしょう。
しかし、外 航海運という産業内の競争だけでなく、今後は陸・空を巻き込んだ競争が激化すると考え られます。
こうした状況下、いくら経済環境 がいいからといって、舵取りを間違えれば、 決して輝かしい未来はありません。
次に、現 在の日本の外航海運会社が置かれている国内 と海外、同業種・異業種の競争環境について 解説します。
コンテナ部門の舵取りがカギに 日本の大手外航海運会社は、タンカー、L NG専用船、自動車専用船、不定期船から コンテナ船まであらゆる種類の船を運航して います。
一方、外国の船会社では中国のCO SCOなど一部の船会社を除けば、ある特定 の船に特化しているのが一般的です。
その結果、総合的に見れば、運航船腹量や 売上高で商船三井、日本郵船や川崎汽船が 群を抜いています。
全船種の運航船舶規模の 世界ランク(重量トン)は、商船三井が第一 位、日本郵船が第三位、川崎汽船が第七位 と上位を占めています。
し かし現在、一番競争の激しいコンテナ輸 送の分野では必ずしも邦船三社は上位にあり ません。
この分野では、マースク・シーラン ド・P&ONLが運航船舶規模(TEUベ ース)で二位のMSC(スイス)を大きく引 き離しています。
四位に台湾のエバーグリー ン、CMA・CGM(仏)、APL(NOL・ シンガポール)、韓進海運(韓国)、COSC O(中国)、CSCL(中国)と続き、第十 位にようやく日本郵船が顔を出します。
川崎 汽船は十二位、商船三井は十三位です。
マースク・シーランドは昨年、P&ONL を買収し、単独で規模の拡大と質の高いサー ビスの提供を図っています。
MSC、CM A・CGM、エ バーグリーンも同様に単独路 線です。
これに対して、日本の船社はアライ アンスによって規模の経済の追求とサービス の質的向上を実現しようという戦略です。
し かし、グランドアライアンスの一員であると 同時に、昨年にデルマスを買収したハパグロ イドのように、買収による規模の拡大も並行 して進めています。
アライアンスといってもその内容は様々で す。
CKHYグループのように緩やかな結合 を目指すグループも存在します。
それらの船 社はそれぞれが船隊規模の拡大を図り、単独 でも航路を維持する力を持っています。
中国 のCOSCOやCSCLもコンテナ船隊の規 模 で見れば第八位、第九位と日本の船社を超 えています。
現在のコンテナ航路は規模がなければ質の 高いサービスを構築できないのが現状です。
今後は、中国の船社が質においても日本船社 の競争相手として台頭してくるでしょう。
日 859 647 410 408 339 301 282 280 235 231 225 211 200 187 172152 145 118 92 船隊規模ランキング コンテナ船(船別・05年4月時点) 1,000 (1,000TEU) 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 ワ ン ハ イ ハンブルグズード 現代商船 ジムイスラエル 陽明海運 ハパグロイド 商船三井 川崎汽船 OOCL 日本郵船 CSCL COSOO 韓進海運 APL CMA/CGM PONL MSC Maersk Sealand Evergrren /LP 出所:MDS Transmodal "Containership Databank",April 2005 MARCH 2006 78 本郵船が属するグランドアライアンスでは、 P&ONLがマースク・シーランドに買収さ れ、グランドアライアンスから抜けることに なりましたが、サービスの質を落とさないた めに商船三井の属するTNWAとの提携に踏 み切りました。
つまりアライアンス同士の提 携です。
このように、単独でのサービス構築、アラ イアンス戦略、アライアンス同士の提携など、 その戦略は多様です。
船社間、アライアンス 間の競争はますます激しくなることが予想さ れます。
M&A(企業の買収・合併)によっ てアライアンスの組み替えを余儀なくされる こともあります。
結局は、各社が自らの実力 を高めるほかに方法はな いのです。
そのため にはある程度以上の船隊規模が必要です。
総 合力では圧倒的な力を持つ日本船社ですが、 コンテナ部門では?中堅〞といったところで しょうか。
コンテナ船は海運同盟による秩序が維持さ れていた時代から自由競争の時代に移行して おり、運賃は市況化しています。
現在の業績 が反転する可能性も否定できません。
運航規 模が大きくなっているため、少しの運賃の変 動が収益に大きな影響を及ぼします。
日本の 外航海運企業にとって、コンテナ部門をどう 舵取りするかが喫緊の課題となってくるでし ょう。
航 空貨物をめぐって、陸・海・空の輸送会 社およびフォワーダーと、民営化の決まった 日本郵政公社を巻き込んだ合従連衡が加速し ています。
国内で陸・海・空の異業種による グループ化が進展しているかに見えます。
日 本郵船は日本貨物航空(NCA)を完全子 会社化しました。
日本郵船はもともとグループ傘下に航空貨物フォワーダーである郵船航 空サービスを収めています。
航空貨物が主戦場に 全日本空輸(ANA)はNCAを手放し、 日本郵政公社と共同で新たな航空貨物輸送 会社を立ち上げ、航空貨物に力を入れていく ことになりました。
日本郵政公社との事業の 主たる分野は国際エクスプレス貨物です。
こ の新会社には商船三井と日本通運が資本参加 することが発表されました。
商船三井は近鉄 エクスプレスと資本提携しています。
日本郵 政公社+ANAに商船三井(+商船三井ロ ジスティクス)+近鉄エクスプレス、と日本 通運が加わって、陸・海・空、そして郵便と いった異業種の組み合わせによる一大グルー プが形成されようとしています。
陸運の佐 川急便は国内航空貨物会社「ギ ャラクシーエアラインズ」を設立しました。
これには日本航空(JAL)が協力していま す。
JAL+佐川急便のグループ、そして単 独で陸海空の総合サービスを構築しようとす る日本郵船(+NCA+郵船航空サービス) の三大グループが想定されます。
しかし、それぞれの関係はまちまちです。
JALは独自に貨物機も保有・運航していま すし、佐川急便との関係は、郵政公社とAN Aとの関係とはまったく異なります。
ANA は、国内航空貨物では旅客便のベリー(貨物 室)を使った輸送でヤマト運輸と提携して北 海道や九州に航空貨物を輸送しており、最近 は貨物専用機も導入しました。
日本通運はNCAにも出資しています。
近 く出資比率の引き上げが予定されています。
こうした状況を考えれば、単純に三大グルー プ化が進展するかどうかはまだ不透明です。
世界の主要船社 船隊規模ランキング(短期スポット傭船を含まない) 全船種(連結ベース・傭船を含まない;05年1月時点) 0 5 10 15 20 25 30 商船三井(日本) COSCO(中国) 日本郵船(日本) Frontline(Norway) Ofer Group(Israel) World-wide(香港) 川崎汽船(日本) AP Moller(Denmark) (百万dwt) 百万dwt 隻数 (隻数) 0 100 200 300 400 500 600 700 出所:Lloyds Register Fairplay.Clarkson 79 MARCH 2006 今後、川崎汽船やヤマト運輸の動向にも注視 する必要があるでしょう。
一方、海外に目を向ければドイツポスト、 UPS、フェデックスやTNTなど「国際イ ンテグレーター」と呼ばれる総合物流事業者 が存在します。
特に、国際宅配便の分野では これら大手による市場支配が進んでいます。
今後、日本の外航海運会社が国内の異業種 企業連合とどういう形でかかわるのか。
自ら の市場を海に限定するのか。
それとも陸・空 も含めるのかといった選択を迫られることに なります。
日本郵船は、すでに自らの市場を 陸・海・空すべてと捉えているようです。
N CAを傘下に収めたことがその現れです。
コンテナ輸送はロジスティクス、とりわけグローバル化する経済の中では重要なSCM の構成要素です。
荷主にとっては航空輸送も 海上輸送もSCMを構成する要素の一つに過 ぎません。
その意味において、日本の外航海 運会社にとってコンテナ輸送を続けるかぎり、 航空輸送、陸上輸送を含め、その他の物流サ ービスとの関係を否定することはできません。
荷主からは、陸・海・空のサービスを組み合 わせ た広範で複雑化、高度化したメニューを 揃えることを要求されるでしょう。
生き残る ためには、そうした要求に応えていかなけれ ばなりません。
方法論はひとつではありません。
自前です べて揃えるというのも選択肢の一つです。
昨 年、九五歳で亡くなったP・Fドラッカーの 言葉を借りるなら「新しい時代の国際企業は、 従来の『すべてを自ら保有する形』から『事 業提携や合弁を基盤とした戦略型』にシフト します」というようにアライアンスも有力な 選択肢です。
外航海運業界の立場からみれば、 自ら陸・海・空すべてのモードをカバーしよ うとする日本郵船グループと、日本郵政公社、 全日空や近鉄エクスプレスなどの異業種との アライアンスを中心に据える商船三井とでは、 戦略の違いが顕著に出ているように見えます。
バンカー価格上昇が懸念材料 船舶の運航コストはタンカー、バルクキャ リアなど基本的に荷役費・ 貨物費の発生しな い船舶と、コンテナ船のように荷役費やコン テナ経費などの比率が大きい船舶とではコス ト構成に大きな差があります。
貨物費、港費、 燃料費など船舶の運航に必要な費用を運航費 といいます。
一方、船員費、潤滑油費、船舶 保険料、修繕費など船舶の維持・ 管理に必要 な費用は船舶管理費となります。
船舶管理費 と船舶建造の費用または傭船の場合、庸船料 を合わせて船費とい います。
運航費と船費の割合は全船種の平均でおよ そ四五対五五です。
そして運航費の約三割が 燃料費です。
日本の大手外航海運会社は六〇 〇隻以上の船舶を運航しています。
年間のバ ンカー(船舶用燃料油)の購入量は五〇〇万トン、金額にして一〇〇〇億円に達します。
一番多くバンカーを購入するシンガポールの バンカー価格をみてみますと、二〇〇五年初 めには一八〇〜一九〇ドルでした。
二〇〇六 年一月は三一〇〜三三〇ドルです。
実に一二 〇〜一三〇ドルの値上がりです。
ちなみに、 一ドルのバンカーの価格上昇の損益への影響 は、ある銀行のレポートによると、日本の大 手外航海運会社三社合計で八億四千万円だ そうです。
原油価格とバ ンカー価格の動向は、 外航海運会社の経営に影響するだけに、大き な懸念材料の一つと言えるでしょう。
25 30 35 40 45 50 55 60 65 420 380 340 300 260 180 140 100 (原油、US$/バレル) 原油(Dubai)価格とバンカー(Singapore)価格の推移(2005年) 17 31 28 28 25 23 20 18 29 15 26 24 21 19 1/3 2/ 14 3/ 14 4/ 11 5/9 6/6 7/4 8/ 15 9/ 12 10 / 10 11 /7 12 /5 バンカー 原 油 もり・たかゆき 1975年大阪商船三井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年 丸和運輸機関海外事業本部長、2004年1月より現 職。
主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、「外航 海運のABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸送」 (鳥影社)、「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海運経済学会、日本物流学会、ILT(英)等会 員。
青山学院大学、長崎県立大学等非常勤講師、 東京海洋大学海洋工学部講師

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