ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年2号
管理会計
部門別収支を活用する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2006 78 SCM時代の 新しい 管理会計 前号までは主に施策検討時の管理会計テ クニックについて述べてきた。
検討の結果、 ある施策を実施することになった場合には、 次のステップとして、その施策が計画通りに 進んでいるのかを監視していく必要が出てく る。
また施策の実行と並行して、日々の業務 が滞りなく処理されているのかも常に把握し ておかなくてはならない。
業務運営のために は、それらを把握するモノサシが必要になる。
その一つが部門別の月次収支である。
部門別月次収支については、「あてになら ない」、「所詮かたちだけ」など、日本におい ては欠点ばかりが指摘される傾向にある。
確 かに収支 だけで判断すると問題の生じるケー スはある。
品質、人材育成、顧客サービスな どの実態は収支だけでは表せない。
それら財 務以外の視点も合わせて判断する必要がある。
しかし、それについても今では「バラン ス・スコア・カード」などの解決策が提案さ れている。
SCMでは複数部門にまたがった 管理が要求される。
生産、営業、物流など異 なる部門を横並びで見る場合、「お金」はわ かりやすい共通指標になる。
すべての部門は 会社全体の財務を向上するために業務を遂 行する。
その財務への貢献をタイムリーに把 握するには、やはり部門別の月次収支が最も 適しているのである。
部門別収支が使えないという意見が出るよ うなケースでは、そもそも配賦方法に問題の あ ることが多い。
実際、ロジスティクスとい う観点から個々の企業の詳細について調べて みると、配賦方法に奇妙な点が目立つ。
責任 と権限に応じた部門別収支とはなっていない 点が散見されるのである。
部門別月収支の問題点 物流にかかる経費は、実額をそのまま使用 部門に配賦すると問題を起こすことがある。
典型例の一つがセンターの人件費である。
セ ンターごとに部門別収支を分けている場合に は、社員の人件費についても、そのセンター に勤務する従業員の給与、福利厚生、法定 外福利などの費用の実学を配賦していること が多い。
しかし、社員の給与はその社員が果たす機 能や能力を正確に反映しているわけではない。
むしろ年齢等により変化する年功序列型の賃 金体系の採られていることが多い。
その場合、社員の給与をそ のまま勤務先のセンターに配 賦すると、給与水準の高い要員を多く抱える センターほど部門別収支が悪化してしまう。
このような問題は事務現場でも起こりうる。
例えば受注センターでも、勤続年数が長く、 給与の高い要員の多いところはコストが多く かかることになる。
典型的なものの二つ目に物流センターの土 地・建物にかかる費用がある。
これには二つ のケースがある。
まず自社物件の場合、減価 償却を定率で行ない、それを実額でセンター に配賦すると、完成後数年間はよほどのこと がない限りセンター収支は赤字になる。
その 一方、何の努 力をしなくても年を追うごとに 部門別収支を活用する 業務運営の状況を把握する代表的な方法の一つが部門別の月次 収支だ。
しかし部門別収支は活用法を誤ると、思わぬ弊害を招きか ねない。
各部門の責任と権限が収支結果に的確に反映されるように、 費用の配賦方法を工夫する必要がある。
第11回 梶田ひかる アビーム コンサルティング 製造事業部 マネージャー 79 FEBRUARY 2006 経費が著しく下がるという奇妙な現象が起こ る(注:平成一〇年四月一日以後に取得し た建物は定額法のみしか認められていない)。
このような現象は高額な荷役・保管機器でも 発生する。
また、古い建物の場合は、減価償 却期間が終了したとたんに経費が著しく下が るということが起きる。
賃貸物件では、センターが複数ある場合に 問題が起きる。
センターによって、坪あたり 賃料は異なる。
同じような面積、同じような 建屋構造でも、かかる経費にはかなりな違い が生じる。
それをそのまま実額で配賦しても、 これらのセンターがそれぞれ完全に独立して 業務を行っているのなら、つまりそれぞれの センターが全く異なる荷主 を持って、それぞ れに別個のサービスを提供しているのであれ ば、問題はさほど目立たない。
しかしながら、それが全国均一のサービス を行うための拠点であるとしたら、センター管理者の業績評価は、どこのセンターを担当 するかで大きく左右されてしまうことになる。
顧客に請求できる料率は同じとならざるを得 ないからである。
この問題は特別積み合わせ 便や宅配便のターミナル、共同配送・広域ネ ットワークの拠点、ナショナルブランドメー カーや広域卸売業の配送センターなどで発生 する。
そういった諸条件を考慮せずに一律に全部 門に対して、経費を何%削減、営業利益率 を何%というように予算を設定する と、部門 によっては実現性の乏しい予算になる。
その 結果、「部門別収支はあてにならない」、「予 算を達成しなくても少し怒られるだけ」とな るのである。
部門別収支がその管理者の管理 できない要因によって悪化してしまう場合、 あるいは努力しても改善に限界が見えてしま う場合に、やる気をなくすのは人間の常であ ろう。
目標値となる予算の実現が著しく困難 な場合には、なおさらやる気をなくす。
実際、 逃げ口上もあるのであるから、気に病むのも 若干ですむ。
経営計画に掲げた売上目標、利益目標を 達成 するために、経営者は部門別に月次予 算を策定させる。
しかし、その月次予算がほ とんど達成されないのでは、経営目標の達成 も困難になる。
仮にいずれかの部門が予算を 大幅にクリアし、そのおかげで全社目標を達 成できたとしても、経営の結果とは言いがた い。
あるべき姿は部門別収支予算を各部門が それぞれの権限と責任の範囲内で達成できる ことなのである。
そのためには、部門への費 用配賦方法を、それに適した形にする必要が ある。
三つの配賦テクニック 経費配賦のパターンは大きく三つに分類で きる(図2)。
一つめのパターンは実額をその 図2 損益計算書と部門収支 パターン1 発生した費用をそのまま部門に配賦。
パターン2 一定の基準で費用を部門に配賦。
差 額を他部門で調整。
パターン3 全社損益計算書上にない費目で費用 を各部門に配賦。
部門A収支 全社財務諸表 P/L 売上 経費 利益 部門A収支 売上 経費 利益 部門A収支 売上 経費 利益 発生費用 部門×収支 配賦 費用 配賦 費用 発生 費用 図1 財務会計と部門別会計 全社財務諸表 B/S P/L 責任・権限に連動させて部門別に配賦 部門A収支表 部門B収支表 部門C収支表 部門D収支表 FEBRUARY 2006 80 まま配賦する方法である。
経費が発生したと き、経費伝票にその費用を配賦する部門コー ドを書く。
その費用は伝票上にある費用配賦 部門の収支に計上される。
これがもっとも単 純な部門別への費用配賦の方法である。
本社で管轄する費用についても、各部門が 使用しているリソースに合わせて全部門に配 賦する。
このようにすれば、全社での損益計 算書は各部門の収支表の合計と一致し、シン プルになる。
しかしながら、すべての経費を この方法で配賦すると、先述のような人件費 や建屋経費の問題が生じてくる。
二つめのパターンは、部門 に配賦される費 用と実際にかかった費用とを分けて扱う方法 である。
例えば人件費について、費目別役職 別にレートを決めておき、部門別役職別要員 数にレートを乗じて、その部門に配賦する方 法がこれにあたる。
支払い金利についても、 社内金利レートを設定して各部門の保有資産 に応じて配賦すれば、このパターンとなる。
この場合、社内レートに基づく費用と実際 にかかる費用は一致しない。
そのため、全社 損益計算書の作成にあたって差額を調整する 必要が生じる。
調整の方法としては、実在部 門に配賦、仮 設部門に配賦、あるいは期末に 各部門に再配賦するなどの方法がとられる。
三つめのパターンは、部門別収支にしか現 れない費目を立てるという方法である。
製造 部門が営業部門に対してたてる社内売上、物 流部門が使用部門に対してたてる社内運賃な どがこれにあたる。
この場合、部門別収支の 合計は全社損益計算書とは一致しない。
そも そも部門別の費用を損益計算書と完全に紐付 ける必要はないのである。
上場企業の半数程度は、この三つのパター ンを必要に応じて使い分けていると想定され る。
これらを駆使することにより、責任と権 限に連動した部門別収支管理が可能になる。
固定資産の部門別配賦 自社物件の施設、機器、車両などの費用 配賦について詳述する。
物流管理会計におけ る自社設備の扱いは、一九七七年に当時の 運輸省がまとめた物流コスト算定統一基準に よって、実際残存価格、実際耐用年数を使 用して定額法とすると明記されている。
これ は九二年に発行された旧通産省の物流コスト 算定活用マニュアルでも同様である。
これに則って費用配賦を行うと、全社損益 計算書に計上される減価償却費との間に差 の生じることが多くなる。
しかしながら、こ のように配賦しなければ部門別の採算分析は 機能しない。
特に物流業の場合は、これに基 づ いたコストと保管料との比較を行わなけれ ば、料金の妥当性を検証できない。
簡単な数値を使って実際に計算してみよう。
ある機器を一〇〇〇万円で購入、この機器 の法定耐用年数が五年、実際耐用年数が八 年、八年後に八〇万円で転売することが可 能であり、実際に八年後の終わりにこれを転 売したとする。
一方、この機器の導入により 年間二〇〇万円の売り上げが見込めるとする。
これを定額法の減価償却額の実額配賦、定 率法の実額配賦、実際耐用年数―実際残存 価格を用いた定額法による配賦のそれぞれで 年次別に配賦コストと利益を試算したものが 図3である。
定率法償却額を実額配賦した場合は、同 じ機器を使っているのにも関わらず、二年度 目までは赤字、三年度目以降は急速に利益 が増加する。
また、定額法、定率法のいずれ の実額を部 門費用に直課する場合も、法定 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 180 180 180 180 180 0 0 20 20 20 20 20 20 200 200 180 369 233 147 93 58 0 0 20 -169 -33 53 107 142 200 200 180 115 115 115 115 115 115 115 115 85 85 85 85 85 85 85 85 定額法 利益 実際耐用年数、 実際残存価格 ベース 図3 減価償却額と実際耐用年数ベース費用の差 取得価格 1,000万円 法定耐用年数 5年 実際耐用年数 8年 8年後の実際残存価格 80万円 8年間使用し、8年目の最後にこれを売却 この物件による利益 年間200万円 配賦コスト 利益 配賦コスト 利益 配賦コスト 定率法 81 FEBRUARY 2006 耐用年数経過後には費用が発生しなくなる。
そしてその資産の売却時に、簿価と売価の差 額が発生することになる。
資産を長期間保有することにより発生する コストは、部門別収支管理という観点ではコ ントロールできないコストとなる。
このよう な費用は、収支管理上は変動させないことが 望まれる。
パターン2あるいはパターン3の テクニックを使うことでこれは解決できる。
SCM推進のための 部門別収支活用事例 損益計算書上に発生する費目の部門別費 用配賦は、比較的容易に変更することができ る。
ここで紹介したようなテクニックを用い、 責任に応じたコスト配賦を実現している例は 多くある。
物流子会社A社では、現業の各部署に配 賦する施設費用について、坪あたりの単価を 一律にしている。
自社物件/賃貸物件、立 地、センター内のフロアに関わらず、配賦単 価はまったく同じである。
実際には、立地の悪いところは近隣の賃料相場も安い。
高層階になれば上下搬送の分だ け荷役コストは多くかかる。
しかしながら、 坪当たり単価を一律にすることで収支 改善の 余地や方法がわかりやすくなるため、各部門 の管理者は改善に取り組みやすい。
また本社 部門からも、どこの部署に問題があるのかが わかりやすくなる。
センター管理者間の能力 比較も客観的に行いやすくなる。
不満もほと んど出ないという。
家電メーカーB社では在庫削減を推進する 目的で社内保管費を導入した。
通常保管費 は、量に応じた単価が設定されるが、B社で は在庫期間が一定期間を超えたものについて 大きく差をつけた。
例えば在庫期間が六カ月 未満の場合は一ケース一期三〇〇円、それ を超 えると六〇〇円という具合である。
この 料率に応じた保管料を、その在庫の所有者 である各事業部に配賦するようにした。
それ ぞれの事業部では、保管料という形で在庫の 悪さ加減が見えるようになったため、在庫削 減の気運が高まり、在庫は急速に減った。
これらの事例に見られるように、部門別収 支では実額の正確な配賦にこだわる必要はな い。
特に社内の部門間での費用配賦は、B 社のようにかなり大胆に実額と異なる費用を 配賦することもできる。
正確な配賦よりはむ しろ、その部署がコントロールできるところ だ けが変動する、類似する他部門との比較が 容易であるなど、わかりやすい基準を設定す ることが望まれる。
SCM推進に必要となる組織を動かすツ ールの一つとして、部門別の収支配賦方法 を改めて検討してもらいたい。

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