ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
進化のゆくえ
主役業態と成長企業を見極めろ

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JANUARY 2006 54 い手として成長したイオンやイトーヨーカ堂の ような総合量販店(GMS)の台頭によって、 小売業界の主役業態は交代した。
八〇年代になると、新たに台頭してきた専門 店との競争にさらされてGMSの業績が伸び悩 みはじめた。
バブル経済の崩壊とともにマイカ ル、西友、ダイエーなど大手企業の経営が相次 いで破綻。
GMSの中では勝ち組とされるイオ ンとイトーヨーカ堂の業績も低迷しはじめた。
GMSという業態も、もはや小売業界の主役 の座から降りつつある。
代わって現在、主役と なっているのは各種の専門店チェ ーンだ。
このように日本の小売業界の主役業態は、百 貨店→GMS→専門店と変わってきた。
一連 現在の主役業態は専門店 小売業への理解を深めるには、小売店舗の 姿である「業態」と、それらの業態で構成され る商品別の「業界」を整理して考える必要があ る。
多種多様な小売企業を一緒くたに見てい ては、内部で起こっている変化も分からないし、 将来を見通すことも難しい。
本稿では、個別企 業の事例を交えながら、小売業界全体の動き を俯瞰してみたい。
ここ半世紀のあいだに繰り広げられてきた小 売業界の主役交代劇はあわただしかった。
かつ ては百貨店が圧倒的なトップ業態として君臨し た。
それが一九六〇年代に?流通革命〞の担 の変化はまず「総合型小売業」から「専門店型小売業」への交代として認識すべきだ。
専門 型というと、総合型に比べて小規模の企業を 想像するかもしれないが、必ずしもそうではな い。
たしかに百貨店やGMSと比べると一店舗 あたりの規模は小さくなるが、店舗数が多いた め売上高そのものが小さいとは限らない。
専門型小売業の実力を見極めるうえで重要 なことは、企業の売上高を単純比較するのでは なく、特定の商品分野における売上高を比べる ことだ。
たとえば日本最大のGMSであるイオ ンと、日本最大の家電専門店チェーンであるヤ マダ電機の総売上を見 ると、イオンの方が大き い。
しかし、家電製品の売上高だけを見ればヤ プリモ・リサーチ・ジャパン 鈴木孝之 代表  第16回 主役業態と成長企業を見極めろめまぐるしく展開する小売業の主役交代劇には、ある種の必然性がある。
これから勝ち残っていくためには、メーカーの販売代理機能を担う従来型 の小売業から脱皮して、自ら中間流通をコントロールしていかなければな らない。
今回は?業態〞という切り口から、小売企業の将来を見極めるコ ツを伝授する。
55 JANUARY 2006 マダ電機の方が圧倒的に多い。
GMSが得意とする肌着や日常衣料の分野 でも、衣料品チェーンのしまむらには叶わない。
カジュアルウエアも同様で、この分野の売上規 模はユニクロのファーストリテイリングが断ト ツで大きい。
他にも、家具・ホームファッショ ンのニトリ、紳士服の青山商事、子供・ベビー 用品の西松屋チェーン、メガネの三城、スポー ツ用品のゼビオなど、それぞれの商品分野にナ ンバーワン専門店が存在している。
全体の売上規模こそ大きいGMSではある が、部門別の売り上げとなると、多くの分野で 専門店チェーンの後塵を拝している。
GMSが 今 でも強みを発揮しているのは食品部門ぐらい で、衣料品と住居用品を含む非食品部門では すでに主役の座を明け渡している。
百貨店やGMSなどの総合型小売業から、専 門型小売業へと主役が代わるのは、消費の成 熟にともなう必然的な結果だ。
今後の日本で、 再び総合型小売業態が主役になる可能性は極 めて低いはずだ。
総合型小売業の店舗には何でもある。
いわば ?よろず屋〞で、一カ所で何でも揃う利便性 (ワン・ストップ・ショッピング)を特徴とし ている。
ところが消費行動が成 熟し、消費者の 求めるものがレベルアップしてくると、特定分 野の商品を幅広く揃えた、専門度の高い小売 店へのニーズが高まる。
ようするに百貨店やG MSは、多様な専門店が成長するまでの間の 主役であり、専門店の成長とともにその座を譲 らざるを得ない。
専門店が小売業の主役業態になりつつある という状況は、先進国では共通の現象となって いる。
世界最大の小売業である米ウォルマートが展開する、衣食住三部門を備えた「スーパー センター」という総合大型店はむしろ例外的な 存在だ。
スーパーセンターという業態について は後述するが、ウォルマートにばかり目を奪 わ れていると、総合型から専門型へとシフトして いく消費の原則を見落としかねない。
百貨店はなぜ凋落したのか 別の見方をすると、中国など消費の成熟度 の低い地域では、百貨店やGMSなどの総合 小売業態の存在がまだ有効ということになる。
これも消費行動の成熟と、多様な専門店の成 長によって変わっていくはずだが、中国のよう な国ではまだ当面は、総合型小売業が強い競 争力を発揮していくことになるだろう。
では、同じ総合型でありながら、かつて百貨 店という業態がGMSに主役の座を奪われたの は、なぜだったのか。
これはGMSとの直接対 決に敗れたとみるよりは、専門店の台頭によっ て総合型小売業の市場そのものの成長 が鈍化 し、限られたパイを奪い合ううえで百貨店の競 争力がGMSより劣っていたと理解するほうが 正しい。
専門店の成長とともに、百貨店の売場から はカメラ、家電製品、スポーツ用品、日用雑貨、 家庭雑貨用品などの商品が姿を消したり、もし くは売場規模の大幅な縮小に追い込まれた。
い まや欧米でも日本でも、百貨店は主に衣料品 や服飾雑貨などのファッション関連品を中心的 に扱うように変わっている。
いまだに?百貨〞 店という名称を使ってはいるものの、その実体 はトップブランドショップに代表されるハイグ レー ドな専門大型店へと様変わりしつつある。
百貨店がGMSに主役の座を奪われた原因 は、何よりもまず百貨店自身にあった。
小売業 として分類されてはいるが、実は百貨店は?部 分的な小売業〞とでも言うべき存在だ。
自らの リスクで仕入れた商品を販売するのが小売業だ とすると、百貨店は総売上の平均六〜七割を 家賃的な性格を帯びた収入に依存している(こ の数値は個別の企業ごとに異なる)。
この点は、 日本の百貨店という小売業態の実力を見極め るうえで、はっきりと認識しておかなければな らな い。
家賃収入ばかりか、商品の売り上げそのもの も百貨店自身のものではない部分が少なくない。
百貨店の品揃えは多様だが、多くの商品の管 理は売場を貸したテナントに任されている。
テ ナントが百貨店に納める売上歩率は、衣料品 の場合で売上高の三〇%前後で、食品で一〇% 前後だ。
トップブランドショップの場合は、ブ ランド側の立場が強いため売上歩率は低い。
収入構造からみた百貨店は、小売業という より?都心立地のショッピングセンター運営会 社〞といったほうが実体に近い。
テナントの売 り上げをそのまま百貨店の売り 上げとして計上 JANUARY 2006 56 今では百貨店以上に厳しい立場に追い込まれ ている。
大手のGMSで残っているのはイオン、 イトーヨーカ堂、ユニーの三社だけ。
これに続くのが、大阪のイズミヤ、広島のイズミ、四国 のフジ、沖縄のサンエーといった企業だが、い ずれも楽な立場ではない。
イオンとイトーヨーカ堂は、企業グループと してスーパーマーケット(SM)やコンビニエ ンスストア(CVS)などを展開していて、そ の影響力は相変わらず大きい。
だが中心業態で あるGMSについては、非食品部門の不振によ って厳しい状況が続いている。
専門店の成長に 押される非食品分野の収益改善は容易ではな い。
このような状況から、GMSが強い食品部 門と、グループのSM子会社を一体化した「ス ーパーマーケット戦略」に関心が集まっている。
たとえばイオンは、マックスバリュの名を冠し たSM会社を、北海道から九州まで合計六社 展開しており、将来の統合の可能性とその場 合のスケールメリットが注目されている。
イオンは二〇一〇年に向けた中期計画にお いて、GMS、SM、ドラッグストアの三つの 分野で、それぞれに日本最大の売上高を確保 することをめざしている。
同時に各分野でマー ケットシェア一〇%以上を確保したい考えだ。
出店に加えて積極的なM&Aを行って おり、G MS三兆円、SM二兆円、ドラッグストア一 兆円に達する巨大企業を各分野で誕生させよ うとしている。
しているため、発表されている売上規模も実体 より水膨れしている。
本来の小売業的な性格を 強める努力をしてはいるが、都心型SC運営 会社という性格が抜本的に改まる気配はない。
百貨店の唯一とも言うべき強みは、繁華街 に位置する立地の優位性だ。
しかし、バブル崩 壊後の地価の下落と、東京や大阪などの大都 市中心部の再開発による大型ブランドショップ の出店ラッシュや、郊外大型ショッピングモー ルの開発などによって、立地の優 位性は急速に 失われつつある。
さらに小売業としての百貨店は、返品条件 付取引などの前近代的な取引の改善や、商品 力の強化といった難題を抱えている。
華やかな 見かけとは裏腹に、日本の小売業界でも最低 水準の収益性の改善も待ったなしの状況だし、 経営効率を高めるうえで物流も重要な課題だ。
過去にこうした課題を放置してきたことが、百 貨店が主役業態の座を追われることになった原 因といえる。
ただし、近年の消費者の上質志向や成熟が 百貨店にとって追い風に なっている面もある。
実際、GMSの不振を尻目に、売上高が回復 傾向にある百貨店も存在する。
それでも積もり 積もった課題に自らメスを入れられるかどうか が、百貨店という業態の命運を決めるであろう 状況に変わりはない。
チェーンオペレーションによる成功 いったんは主役業態の座についたGMSだが、 一般に、売上規模が小売業の収益改善に劇 的につながる境界、いわゆるクリティカル・マ スは約一兆円と考えられている。
イオンはそれ ぞれの事業でこの水準の達成をめざしているわ けだが、これを実現できれば、不振のGMS事 業でも利益改善を果たせる可能性が高い。
現在のイオンは、販売力と仕入力の拡大を 背景にメーカーとの直接取引の拡大を図ってい る。
これは規模拡大の当然の帰結であり、今後 は在庫生産性の向上や、物流コストの合理化 などによる商品粗利率の改善につながってくる はずだ。
もっとも、現在 のイオンは中間流通に求める 機能を「物流」に限定している。
同社は直接 取引のなかで、物流を単なるモノの移動として 捉えるのではなく、商取引と一体化した戦略物 流として位置づけた。
この方針に基づいて物流専業者と戦略的なパートナーシップを構築して きたからこそ、物流会社にとってはビジネスチ ャンスとなった。
GMSが百貨店に代わって主役業態になれ た最大の理由は、七〇年代以降の出店の加速 によって売上規模を急拡大したからだ。
GMS の出店は地価の安い郊外が中心で、これが郊 外人口の増加と自動 車社会の進展に合致して いた。
GMSの成長と並んで、食品SMも同じ時 期に急拡大したが、この二つの業態が成長でき たのは、それぞれにチェーンオペレーション手 法の導入に成功したことが大きい。
標準化とシ 57 JANUARY 2006 ステム化によって多店舗運営を可能にしたこと で、百貨店に比べると優位な仕組みを獲得する ことが可能になった。
百貨店のオペレーションは、あくまでも支店 単位が中心だ。
支店の独立性が強く、支店ご とに商品部や管理部門を置いてきた。
GMS やSMのように、店舗数が増加すると本部コス トが低下して、リベートの増加などの収益改善 に表れるという仕組みにはなっていなかった。
GMSがチェーンオペレーションのノウハウを 導入し、それによる規模拡大を中間流通やメー カーとの交渉力強化に結びつけていった点は重 要なポイントだ。
市場規模の大きい食品スーパー 冒頭でも述べたように、いま小売業の主役の 座は、GMSから専門店へと移りつつある。
こ こで言う専門店とは「専門店型業態」という 意味で、そこには衣料品専門店はもちろんのこ と、食品SM、ホームセンター、家電専門店、 ドラッグストア、CVS、スポーツ用品専門店 など多岐にわたる業態が含まれている。
専門店は、総合型小売店に比べると取扱ア イテム数が少なく、しかも同一分野の商品であ るため管理しやすい。
品揃えの幅が広いため、 消費者にとって魅力のある売場を作ることもで きる。
総合型小売業態のように、衣食住とも 何でもあるが、買いたいものや欲しいものが何 もないといった状況 には陥りにくい。
さらに、GMSに比べると店舗が小さくて軽 装備のため、設備投資の負担が軽く、多店舗 展開による規模の拡大が比較的容易だ。
こう した構造のため、売上高を伸ばすことによるス ケールメリットが、仕入れの強化や、経費率の低下となって表れやすい。
こうした点にも、時 代とともに専門業態が総合業態に取って代わ る必然性がある。
現在の専門店はその多くが商品名を冠した 業種店で、まだまだ近代化すべき点が少なくな い。
ただし消費の拡大を見込める分野も多く、 大きな成長余地がある。
いま小売業界で最大 のマーケットは食品で、これを食品スーパーが 握っている。
商業統計によるとSMの現在の市 場規模は約一六兆円。
さらにGMSの売り上 げの半分強も食品だから、GMSの市場規模 九兆円のなかの四〜五兆円をここに加えると、 食品スーパーの市場規模は現状で約二〇兆円 ということになる。
SMの本格的な淘汰・統合・再編はこれか らで、今後、イオングループがめざしているよ うな一兆円規模の企業が誕生する公算が大き い。
食品市場の競争は激しいが、その市場規 模を考えれば、収益性の改善によって大幅に利 益 を拡大できる余地は十分にある。
ここでも効 率的な物流システムと情報システムの構築に対 する関心が高まることは間違いない。
SMには、大型の「スーパーSM」、通常サ イズの「SM」、クイーンズ伊勢丹のような都 市型の「上質SM」があるが、それぞれ物件開 発には制約がある。
今後は都市部における小型 のSMが増えてくると思われる。
そうなればコ ンビニとの競合が本格化することになり、コン ビニの進んだシステムに対抗できる仕組みが求 められるようになるはずだ。
市場規模七兆円のCVS業界では、セブン ― イレブン・ジャパンがすべてにおいて突出して いる。
同社に対抗するためにも業界の新たな統 合・再編は必至だ。
筆者は、最終的にはセブ ンイレブン、ローソン、ファミリーマートの三 社に集約されるとみている。
利便性(コンビニエンス)をコンセプトに発 展してきたCVSは、かなり進化した業態とい える。
しかし最近では、進化するスピードが鈍 化してきた印象も受ける。
CVSの今後の課 題は、増加する都市生活者のニーズに応える生 鮮コンビニや、調剤薬局やドラッグストアの一 部の機能を取り込んでいくことだろう。
なかでも生鮮コンビニの成長余地は大きく、この市場が次世代に勝ち残る 小売企業の試金 石になるかもしれない。
また、買い物を取りま とめてくれる「御用聞き」を、近代化・システ ム化した「宅配サービス」に対する需要も最近 は強まっている。
かかりつけ薬局とスーパーセンター 物流と情報システムを生業とする企業が、い ま最も注目すべきは?かかりつけ薬局〞という ビジネスモデルだろう。
これは調剤薬局を併設 したドラッグストアの一業態で、近いうちに一 〇兆円市場になると目されている巨大市場のな JANUARY 2006 58 日常性の強い品揃えをしたディスカウントスト アだ。
専門店が主役になりつつある状況下で、 統合型小売業態であるスーパーセンターがうまく日本に根付くかどうかは注目の的といえるだ ろう。
日本でスーパーセンターに取り組んでいる注 目企業は、イオン、イズミヤのGMS二社と、 PLANT(福井県)、ホームセンターのカイ ンズ(未上場)と同社の親会社でGMSのベ イシア(群馬、未上場)がある。
日本ではハイコスト構造を嫌った消費者がG MS離れを起こしているところから、スーパー センターが支持される可能性はある。
しかし、 大型店であるために物件開発に時間がかかり、 売上規模の拡大にも時間を要することから、近 未 来の主役業態になれるかどうかは疑問視する 見方が多い。
高齢化社会が進展していくなかで、 歩き回らなければならない大型店より、近くの 中規模店の方に消費者が流れるであろうことも 懸念材料だ。
スーパーセンターが日本で成長できるかどう かのヒントは、西友を買収して子会社化したウ ォルマートが今後、日本で出店する店舗から得 られるのではないか。
これまでの日本における ウォルマートの出店を見る限りあまり支持を得 られていないだけに、今後の同社の出方を注視 したい。
メーカーの販売代理業からの脱皮 今後の日本で、近代化された専門業態が成 かで中核になるであろう業態だ。
市場規模が大 きいのにいまだに多数の小規模企業がひしめき 合っていることや、上位企業への集中が急加速 していること、意欲的な拡大戦略を現実に展 開している企業が存在することなどから、この 分野は目を離せない状況が続いている。
今後?かかりつけ薬局〞は、政府が進める 医薬分業の体制下で地域医療の一端を担って いくことになるはずだ。
高齢化社会、国民総医 療費の抑制、健康でいきいきと暮らすための知 識の提供など、多くの面でこの業態 の重要性が 増していくことになると思われる。
高い社会性と成長性を併せ持ってはいるもの の、ドラッグストア業界が物流や情報システム に関して抱えている課題は多い。
だからこそ物 流企業やIT企業にとっては大きなビジネスチ ャンスがある。
この点では、急速に業界再編が 進む兆しが出てきたホームセンター業界にも同 様のニーズがある。
拡大する「専門店型小売業」のなかで、「総 合型小売業」として唯一とも言っていい可能 性を秘めているのが、アメリカでウォルマート が九〇年代に急展開してGMSから主役の座 を奪った「スーパーセンター」だ。
衣食住三部 門を持 つディスカウントストア業態の一つであ るスーパーセンターの実験的展開は、日本でも すでに始まっている。
GMSがどちらかと言えば都市型の品揃えで ハイコスト・ハイプライスであるのに対して、 スーパーセンターは経費率の低さを強みとする、 長していくであろうことは間違いないが、ビジ ネスモデルとして見た場合には、販売する商品 に関係なく「製造小売業(SPA)」が伸びて いくはずだ。
ユニクロのファーストリテイリン グや、家具・ホームファッションのニトリなど は?製造業的〞な性格を持っている。
伝統的 な小売業とは、明らかに異なるビジネスモデル を実現している。
製造小売業はメーカー、卸、小売りの役割 分担にこ だわらず、この三つの間に存在してい た壁を取り払った業態だ。
非公開会社で話題 となったファッションのワールドは、卸売業か ら直営店を展開する製造小売業へ業態を大転 換した。
これは小売企業が生産から販売に至る 全プロセスを主体的にコントロールしようとい うするもので、背景には、川下に位置する企業 による川上優位に対する反発と、川下企業が商品粗利率を構造的に高めようとする狙いがあ る。
伝統的に小売業は、商品開発とか生産には かかわってこなかった。
しかし「製造小売業」 で先行した企業が、生産から販売に至る までを 自らリスクを負ってコントロールした結果は、 従来の小売業のビジネスモデルでは実現できな かった高い商品粗利率となって表れている。
そして、こうした収益改善を可能にするもの として、バイイングパワー、言い換えると売上 規模の拡大が不可欠であることも学んだ。
売上 規模が大きければ大きいほど、サプライチェー ン全体をコントロールする効果も大きくなる。
59 JANUARY 2006 このような学習の結果が、M&Aを含めた規模 拡大の加速と、業界の統合・再編を積極化す る動きへとつながっている。
製造小売業という新しいビジネスの手法は、 すでに百貨店やGMS、SM、ドラッグストア、 ホームセンター、家電専門店など、すべての小 売業態において程度の差こそあれ取り入れられ ている。
商品開発の取り組みがそれに相当し、 いまやプライベートブランド商品を含む自社開 発商品の売上拡大は小売業の共通政策だ。
こ れはメーカーの販売代理店的な小売業からの脱 皮ともいえる大きな変化である。
このような取り組みを進め るなかで多くの小 売業は、効率的な商品開発のためには、効率 的な物流と情報システムが欠かせないことを学 んできた。
これらが一体となったとき、はじめ て大きな効果があることを実感してきただけに、 意欲的な小売業ほど、今後は物流やITへの 関心を示していくことになるだろう。
小売業の進化がおよぼす影響 前述したように、近代的小売業では単品ま たはカテゴリーの販売力が大きな意味を持って いる。
このことは、カテゴリーレベルでの売上 規模の拡大が、小売業の今後の成長と収益改 善のためには不可欠であることを意味している。
売上規模の目安としては一兆円で、さらに 重要なことはマーケットシェア一〇%近くを握 ると、企業収益に大きな効果があらわれてくる 点だ。
つまり成長企業を見極めるためには、売 上高一兆円またはマーケットシェア一〇%にま で規模を拡大できる業態、企業に注目する必 要がある。
そして、このような小売業の出現は、 結果として日本の流通構造と小売業界のあり方を劇 的に変えていくことになるはずだ。
現に欧米では、小売業の淘汰と統合が自由 競争の下で進んだことで、日本市場と比べれば 遥かに大きい小売企業が各分野に誕生した。
こ れらの巨大小売業は、グローバルな商品調達を 行っており、メーカーとパートナーシップ的な 関係を構築している。
日本よりずっと効率的な 流通構造を擁しており、こうした小売業に負け ない流通構造を構築できなければ日本の小売 業はいずれ外資に惨敗することになる。
そうし た事態に陥らないためにも、淘汰・統合による 小売業界の再編は日本でも避けられまい。
業態ごとに小売 企業の規模が大きくなってい けば、中間流通とメーカーは大きな影響を受け る。
すでにドラッグストアやホームセンターの 統合・再編の動きは、中間流通の再編をも促 している。
?かかりつけ薬局〞の実現には、ド ラッグストア向けと調剤薬局向けの両方の商品 供給能力を持った卸が必要で、このことが伝統 的な?業種卸〞から?業態卸〞への転換を招 いている。
川下の変化に対応できない卸は生き 残れない。
すでに日本でも、それぞれの分野で小売業の 巨大化が進展している。
売上高一兆円を達成 したヤマダ電機や、一兆円を目前にしている小 売企 業の決算を見ると、規模の拡大が商品粗 利率の改善や、経費率の低下となって効果を あらわしはじめていることがわかる。
最終結果 を待つまでもなく勝敗は明らかだ。
企業間格差 が今まで以上に拡大する日は近い。
とくにCVS、ホームセンター、家電専門店 などに、この兆候が鮮明にあらわれている。
売 上高こそ一兆円には遠いが、圧倒的なマーケッ トシェアを握っている衣料品のしまむらなどに も同様の兆候があらわれている。
これらの有力 小売企業は、海外を含むメーカーとの直接的な つながりを拡大する方向にある。
そこでは従来 型の中間流通の存在と必要 性は、着実に薄れ つつある。
(すずき・たかゆき)東京外国語大学卒業。
一九六八年 西友入社。
店長、シカゴ駐在事務所長などを経て、八九 年バークレーズ証券に入社しアナリストに転身。
九〇年 メリルリンチ証券入社。
小売業界担当アナリストとして 日経アナリストランキングで総合部門第二位が二回、小 売部門第一位が三回と常に上位にランクインし、調査部 のファーストバイスプレデント、シニアアナリストを最 後に二〇〇三年に独立。
現在はプリモ・リサーチ・ジャ パン代表。
著書に『イオングループの大変革』(日本実業 出版社)ほか。
週刊誌などでの執筆多数。

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