ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
海外Report
ウィンカントン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

37 JANUARY 2006 2970万£ 3330万£ 4320万£ 4450万£ 20 15 10 5 0 ウィンカントンの売上高と営業利益の推移 2001 2002 2003 2004 (年度) (億ポンド) 2002年10月に買収したP&Oトランス・ヨーロピアンの売上高は2002年 度の決算には4カ月分のみ含まれ、売上高が通年で合算となるのは 2003年度から 注) 7億4560万£ 9億9800万£ 16億8050万£ 17億2590万£ 売上高 営業利益 M&Aで欧州本土への進出果たす もともとイギリス国内のみで事業を展開し ていたウィンカントンが、ヨーロッパ大陸へ の進出を果たしたのは二〇〇二年末のことだ った。
同じイギリスのP&Oから、その3P L部門であるP&Oトランス・ヨーロピアン を一五〇〇万ポンド(三〇億円)強で買い取 った。
P&Oトランスは、イギリスのみなら ず、ドイツやフランスを中心としたヨーロッ パ大陸を収入の基盤としていた。
P&Oトランスを配下に収めたのはウィン カントンの八〇年の社歴の中で、最も大規模 なM&A(企業買収)だった。
同社のチャー ルズ・カー 広報部長は、その狙いをこう説明 する。
「このM&Aによって、当社の売り上げは二 倍近くに跳ね上がった。
しかしそれ以上に大 切なことは、たった一回のM&Aで事業の舞 台が、イギリス国内からヨーロッパ大陸へと 広がったことだ。
これはウィンカントンがす でに取引している荷主企業からの強い要望で もあった」 買収のための資金は全額、銀行からの借り 入れによるものだった。
ウィンカントンは、キ ャッシュフローを重視する経営を行っており、 二〇〇四年度の決算では、一〇〇〇万ポンド (二〇億円)超のフ リーキャッシュフローを生 み出している。
このキャッシュを返済にあて た結果、買収から二年で借り入れの三分の二 ウィンカントン 物流子会社から英国を代表する3PLへ M&Aと自社成長で欧州トップを目指す 「ヨーロッパでナンバーワンの3PL(サードパーティー・ロジスティクス)企業に なること」――。
それが、イギリスのウィンカントンが掲げる目標だ。
ドイツポスト やTNTなどと比べると小粒ながらも、売上高一七億ポンド(三四〇〇億円)強のほ とんどを3PL事業で確保している同社は、3PL部門ではヨーロッパで五指に入る。
急激な勢いで合従連衡が進むヨーロッパのロジスティクス市場で、同社はどんな戦略 を掲げてナンバーワンの座を狙おうとしているのだろうか。
JANUARY 2006 38 を返済している。
しかしP&Oトランスの買収直後は、その 買収規模の大きさから、投資に見合ったリタ ーンがあるのだろうかと危ぶむ声もあった。
実 際、それまで二〇〇ペンス前後で推移してい た同社の株価は、M&Aを境に一〇〇ペンス 近くまで落ち込んだ(下図参照)。
「シティー(イギリス金融市場)は当時、ウ ィンカントンが大陸に進出することに否定的 だった。
その頃、ドイツなどの経済が冷え込 んでいたことも懸念材料となった。
しかしア ナリストの多くは現在、その考えを改めた は ずだ。
その証拠に、二〇〇五年になると当社 の株は三〇〇ペンス前後で取引されるように なった」(カー部長) 二〇〇一年に親会社からスピンオフ ウィンカントンの創業は一九二五年にさか のぼる。
乳製品のメーカーであるユニゲート (現在、ユニーク=UNIQに社名変更)の 物流子会社として出発した。
当時の社名は、 ウィンカントン・トランスポート&エンジニ アリング。
ウィンカントンというのは、ロン ドンから列車で二時間ほど南西に下ったとこ ろにある町の名前で、そこには牛乳をはじめ とする酪農製品が集まってくる駅があり、そ れを毎朝、貨物列車に積んでロンドンに運ぶ のがウィンカントンの当時の仕事だった。
七〇年代には食品メーカー向けの定温輸送 を手掛けるようになり、八〇年代に入 ると小 売りのロジスティクス業務にまで守備範囲を 広げていった。
中でも九〇年代に初めての大 型自動倉庫を建設したのが同社の成長を加速 させることになった。
ウィンカントンはこれ まで一カ所当たり四〇〇〇〜五〇〇〇万ポン ド(八〇億〜一〇〇億円)という巨額な投資をして、一〇カ所に同様の大型自動倉庫を作 り、その倉庫を軸として3PL業務を組み立 ててきた。
食品系の物流子会社から3PLへ――。
ウ ィンカントンの変遷を見ていくと、日本のキ ユーソー流通システムや名糖運輸の軌跡と重 なる。
大き な転機となったのは二〇〇一年に親会 社のユニークが経営難に陥り、グループ会社 を整理する必要に迫られたときだった。
経営 体質が強固だったウィンカントンはこのタイ ミングでスピンオフ。
株式を上場して親会社 と決別した。
そしてその年の五月にロンドン 株式市場に株を公開し、新生ウィンカントン がスタート。
新生ウィンカントンが生まれた その日から、同社の目標はヨーロッパでナン バーワンの3PL企業となることであり、そ れは今日まで変わっていない。
二〇〇四年度の業績は、売上高一七億二五 九〇万ポンド(三四五一億八〇〇〇万円)で、 営業利益は四 四五〇万ポンド(八九億円)。
ヨ ーロッパ一五カ国に三六〇カ所の拠点を構え る。
従業員数は二万七〇〇〇人。
自社のアセ ットとしては自動倉庫を備えた物流拠点一〇 カ所(延べ床面積二〇〇万平方メートル)と トレーラヘッド五二〇〇台にトレーラ六〇〇 〇台を持つ。
汎ヨーロッパ企業を目指すウィンカントン ではあるが、現時点では依然としてイギリス での業務が事業の中心だ。
売上高の六五%と 利益の八〇%をイギリス国内で稼いでいる。
イギリス国内では事業分野を三つに分けて いる。
一つ は小売りで、荷主にはテスコやセ ーフウエイ、スーパーUなどがある。
二つ目 は製造業で、荷主にはルノー、H・J・ハイ 400 300 200 2001 2002 2003 2004 2005 親会社からスピンオフ P&Oトランスの買収 プレミアロジから フランス部門を買収 ミニデータの買収 2005年11月30日現在 ウィンカントンの株価の推移 出典:ロイター (年度) (ペンス) 39 JANUARY 2006 ンツ、フィリップスなどが名を連ねる。
三つ 目は、タンクローリーを使う液体輸送部門で、 荷主としてはダウ・ケミカルズやトータル、テ キサコなどがある。
3PL業務以外にも、自 動車の整備部門やトランクルーム部門などを 社内に有しているが、売り上げに占める比率 は低い。
イギリス以外は、国単位のオペレーション となっており、イギリスの次に売上高が大き な順に、ドイツ、フランス、そのあとに、ポ ーランドやチェコ共和国、ハンガリーといっ た東欧の国が続く。
ヨーロッパ大陸での業務と比べ イギリスの 業務の利益率が高いのは、契約形態が違うた めだ。
イギリスでの契約では三分の二に成功 報酬に当たるゲイン・シェアリングが入って くるのに対して、ヨーロッパ大陸ではまだゲ イン・シェアリングの考えが浸透していない。
これが利益率の違いとなって現われている。
イギリスの荷主の場合、サプライチェーン の多くの部分を3PL企業に委託する傾向が あるため、ゲイン・シェアリングが成り立ちや すい。
一方、ヨーロッパ大陸の荷主はまだ輸 送業務やセンター業務 の一部分など、単純な 作業を外注するのにとどまっているという。
大手荷主と一〇年契約も 冒頭にウィンカントンの買収話を挙げたが、 ウィンカントンの強さの要諦は、むしろ買収 に頼らない成長(オーガニック・グロース) にある。
ヨーロッパには現在、企業の資金力に任せて買収に買収を重ねて大きくなってい るロジスティクス企業がいくつかある。
買収 すれば企業規模が大きくなるのは当たり前の ことだ。
しかし、それでは図体ばかりが大きくて、足 元の定まらない脆弱な企業ともなりかねない。
その陥穽を十分に認識しているウィンカント ンは、派手なM&A以上にオーガニック・グ ロースに力を注ぐ。
「 当社の新規契約の八〇%は既存荷主から の新規発注分だ。
既存の荷主と比べると、ま ったく付き合いのなかった荷主企業から事業 を受注するには、何倍もの時間と労力がかか る。
既存の荷主を大切にすることこそ、企業 の安定した成長をもたらすと考えている」(カ ー部長) その一例として大手製薬メーカーのグラク ソ・スミスクライン(GSK)との取引があ る。
九〇年後半に、イギリス南西部の倉庫業 ウィンカントンのチャール ズ・カー広報部長 JANUARY 2006 40 務を請け負ってから取引が始まり、そのあと コールセンターを開設して、輸出入業務を手 掛けるようになった。
そして二〇〇四年秋に は二つ目の倉庫業務を受注するのと同時に、 一〇年という長期契約を結んだ。
これは平均 で三年といわれるヨーロッパでの契約期間と 比べると、格段に長い契約期間といえる。
「GSKのように既存荷主との業務を拡大で きるのは、当社の現場でのオペレーションが 優れているからだ。
高い現場力は、社員一人 ひとりの質の高さと、彼らの作業を裏から 支 えるIT(情報技術)にある。
また、イギリ スでは荷主がロジスティクス業務を外注する 場合、二、三社を使い、価格やサービス内容 についてお互いに競わせるのが一般的だ。
そ のような状況では、常に荷主の要望を汲み取 って、積極的に働きかけていかなければ、契 約を打ち切られてしまう。
同業他社との競争 により、当社のサービスにも一層磨きがかか るという面もある」(カー部長) イギリス国内だと、(買収以前の)エクセル、 クリスチャン・サルベッセンがライバルとな り 、ヨーロッパ大陸となると、ドイツポスト、 TNT、クーネ+ナーゲルなどとなる。
人を含めたアセットを持った3PL企業か、 それともノンアセット型の4PL企業かとい う色分けでいうと、ウィンカントンは自らを 3PL企業と位置づける。
他の3PL企業を 束ねるという4PL型の業務も少しは請け負 っているが、業界内外で議論されるほど4P L業務への需要は多くない。
今後もアセット を持った3PL企業として成長していくつも りだという。
荷主からの業務を受注する際、荷主が従来 雇用していた社員も一緒に引 き取ることは、 ヨーロッパでは日常茶飯事だ。
ウィンカント ンもこれまで、一〇〇〇人単位の社員を引き 受けてきた。
そういった意味で、同社の人事 部は重要なセクションとなっている。
M&Aのノウハウ蓄積 荷主が開くコンペには、コンペ専門部隊で あるビジネス・ディベロプメント・チームを 投入する。
これは六〇人強からなるチームで、 何年か現場での経験を積むことがチームに参 加する最低条件となる。
荷主のコンペごとに、 六〜七人でグループを作り、コンペに応札。
業務を受注すれば、同じグループが業務を立 ち上げる。
業務が軌道に乗った段階で、マネ ジャーに業務を引き継ぐ。
このチームは過去 六カ月の間に、九件の新規事業を立ち上げて いる。
オ ーガニック・グロースを成長の柱に据え、 M&Aは自分たちが持っていなかったノウハ ウや未開拓の国の事業を買うというスタンス だ。
P&Oトランスの買収の後、ウィンカント ンはさらに二つの買収を行った。
一つは二〇 〇四年一二月にミニデータを七〇万ポンド (一四〇〇万円)で買収した。
ドイツに本社を おくミニデータは、ハイテクに特化したロジ スティクス企業で、コピー機の据付といった 簡単な業務から、病院のスキャナーの設置と いった高度に専門的な業務までを行う。
また 二〇〇五年一〇月には 、プレミアロジスティ クスから、そのフランス部門を三〇〇万ユー ロ(四億二〇〇〇万円)で買収した。
「P&Oトランスの買収から、当社は多くの ことを学んだ。
その一つは、買収後の社内統 合には、専門のチームが必要だということだ。
これがないと、社内の混乱にもつながりかね ない。
ミニデータの買収から、専門のチーム を社内に作り、三件目のプレミアロジスティ クスのフランス部門の買収の責任者には、ミ ニデータの買収を担当した人物が当たってい る」(カー部長)という。
( 本誌欧州特派員 横田増生 ) 本社 イギリス チッペン 設立 1925年 CEO ビクター・ベンジャミン ネットワーク 15カ国 360拠点 従業員数 2万7000人 売上高 17億2590万ポンド (約3451億8000万円 =2005年3月期決算) ウィンカントン 会社略歴 41 JANUARY 2006 大手食品メーカーのH.J.ハインツは2000年、イギリ ス国内のロジスティクス体制を見直した。
それまでウィ ンカントンを含む複数の3PL企業を使って運営してい た八カ所の物流センターを閉鎖して、イギリス北部にあ るハインツの工場の隣接地に3万平方メートルの倉庫を立 ち上げた。
これを機に、ハインツは物流業務をウィンカントンに 集約した。
ウィンカントンは、イギリスの工場で製造さ れる200種類の製品に加え、ヨーロッパの他の工場から輸 入される製品の在庫管理と、小売店への配送を請け負う ことになった。
ハインツの業務の難しい点は、製品ごとに大きな季節 波動があることだ。
その代表例はハインツの主力製品の 1つであるスープだ。
イギリスの食品業界では、冬は“ス ープの季節”と呼ばれ、ハインツもそれに合わせてスープ を通常より40%増産するため、1週間の出荷量は200万 ケースを超すという。
スープや他の製品の季節波動を吸収する1つの手段と して、ウィンカントンは倉庫に17台のクレーンを設置し て、年間8,300万ケースの出荷に対応できる能力を持たせ た。
また9つの異なるITシステムを有機的につなぎ合わ せることで、小売りからの注文と、工場の生産状況を把 握して、適正在庫を維持することによって、無駄のない 作業の流れを作り出している。
ハインツの厳しいKPI(重 要目標達成指標)をクリアしたウィンカントンの業務は、 ハインツの他の倉庫でのモデルケースとなっている。
ウィンカントン主導による業務改善例としては、“プロ ジェクト・リロード”と呼ばれる作業がある。
毎年“ス ープの季節”が終わると、一斉に売れ残り製品を小売り の店舗から回収して、通常のラインアップに加え、その 年の新製品を店舗に届ける作業を指す。
この“プロジェ クト・リロード”で1 週間に回収するのは、 50ブランドで130万缶 におよぶ。
ハインツのセンターを集約 イギリスに250店舗を展開する家電量販店のコメットは、 2002年に家電リサイクル法案(通称WEEE指令)の草 案が発表されると、ウィンカントンにリバース・ロジステ ィクス(静脈物流)の業務を組み立てられないか、と打 診してきた。
ウィンカントンがすでにコメットの2つの拠 点で業務を行っていたことが、新たな打診につながった。
2006年に法案が施行されるのに先がけ、ウィンカント ンは2003年、使用済みとなった冷蔵庫の回収を開始した。
ウィンカントンが500万ポンド(1億円)をかけて作った イギリス北東部の拠点で回収・解体業務を行った。
回収 した冷蔵庫に含まれるオゾン層破壊物質であるCFC(ク ロロフルオロカーボン)とHCFC(ハイドロクロロフル オロカーボン)は、専門業者に引き渡し、残りはリサイ クル可能な部品と、破棄する部品に分けられる。
この新 しい拠点で、年間40万台の冷蔵庫の処理が可能となった。
この冷蔵庫の業務を下敷きにして、ウィンカントンと コメットは回収する商品を拡大していった。
2004年には 3カ月にわたり、バーミンガムにあるコメットの37店舗 での回収実験を行い、テレビからトースターまで1万点 を超える商品のリサイクルを手掛けるまでになった。
その結果、ウィンカントンは2005年、さらに1000万ポ ンド(20億円)を投資して、コメットのリサイクル専用 の処理センターを建設。
この新センターでは、1時間当 たり10トン(トースター4500台分)の処理が可能となっ た。
家電量販店向け静脈物流拠点 出荷の季節波動を吸収する ため、作業の自動処理化を 進めている テレビからトースターまで1万点を超える商品の回 収・処理を請け負っている

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