ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年12号
メディア批評
「もう一つの見方」を報道しないTVメディアの疲弊が政治家の暴走を許す

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高信 経済評論家 87 DECEMBER 2001 アメリカ下院の女性議員、バーバラ・リー は、アフガニスタンへの武力行使決議にただ 一人反対した。
いわゆるワイドショーまでも 連日のように爆撃を伝える中で、こうした勇 気ある行動はどこまで深く報道されているの か。
あるいは、そうした話題はテレビになじま ないなどと思っているのかもしれない。
しか し、「なじむ」ものだけを追っていたら、ど うなるだろう。
私が毎号たのしみにしている『GQ(GE NTLEMEN ’ S   QUARTERLY) JAPAN』の対談がある。
田中康夫と浅田 彰のそれである。
十一月号では、連続テロ事 件の「もう一つの見方」を教える。
まず、田中が例の口調で語る。
「冷静に考えるべきなのは、アフガニスタ ンを攻撃したとして、その時点ではビン・ラ ディン一派やタリバン政権幹部は既に逃げ出 した後で、だから死傷するのは二〇〇〇万人 もの無実のアフガン人だという点だよ。
彼ら や彼女らはテロリストではない。
泥沼化した ヴェトナムの二の舞を踏むのかね。
あの時は 反対したユダヤ系が多数派を占めるジャーナ リズムの現場も、湾岸戦争に引き続いて沈黙、 というよりも翼賛報道に加担している」 この二人は湾岸戦争の時、サウジアラビア のようなイスラム国にアメリカ軍が駐留した ら、タダではすまない、と予告していた。
そのツケがこういう形で出てきた、とも言える のである。
浅田の言葉を引こう。
「だいたい、自爆テロなんかが起こるのは、 自爆テロしか救いのないような状況があるか らなんでさ。
テロをなくそうと思ったら、短 期的に軍事力で報復したりするんじゃなく、 長期的にそういう状況をなくしていくことこ そが大切なんだ」 と こ ろ が 、 単純タカ派の 小泉純一郎は 勇 み 立 っ て 、 自衛隊の派遣 などを進める。
その小泉に対し、当然、二人の点は辛い。
私も問題外と思う小泉ジュニアの芸能界入り について、浅田はこう批判する。
「少なくとも自分の首相在任中はやめろっ て言うべきだよね。
しかし、それどころか、 小泉自身の写真集が出るくらいだから(笑)」 田中も、ジュニアがサントリーのコマーシ ャルに出ることを捉えて、 「コマーシャルに出るってのは、芸能人に とってはボーナスなんだよ。
一応、俳優や芸 人として確立してるから、コマーシャルの話 も来るものなんだ。
小泉ジュニアは違うでし ょ。
米百俵のオヤジが、そんな甘ちゃんな息 子を許しちゃいけない(笑)」 と続ける。
仮りに、ブッシュやブレアの子どもがそん なことをやったら、アメリカやイギリスのメ ディアは叩く。
「いかに日本のメディアが疲 弊してるかだ」という浅田の指摘はその通り だろう。
ヴェトナム戦争の時、反戦を訴えていた開 高健は「朝鮮戦争の死者の数から類推して、 米軍の死者が五万人を越えたら終る」と予言 していたという。
そして、その通りになった。
南ヴェトナム 軍兵士の死者一八万余、同民間人四〇万余、 北ヴェトナム軍人、および解放戦線軍九〇万 余、北の民間人三万余、韓国軍四〇〇〇余、 オーストラリア軍四七〇余、タイ軍三五〇余、 それに米軍五万七〇〇〇余である。
つまり、それくらい血が流されなければ、 戦争のむごさには気がつかない。
「非常にエゲツないことを言わせてもらえ ば、さらに米軍の死傷者が増えないかぎり、 戦争は終らん。
かつて朝鮮戦争がそうだった。
死者が五万人を越えてアメリカ人は初めて気 づいた。
極東の小さな半島の存在にね。
エラ イこっちゃ、と。
アイゼンハワーが出てきて、 ワタシが大統領になったら戦争をやめさせる、 と演説したわけや」 開高はそう語ったと、阿奈井文彦著『ベ兵 連と脱走米兵』(文春新書)にある。
「もう一つの見方」を報道しないTV メディアの疲弊が政治家の暴走を許す

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