ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年11号
特集
在庫リスクを回避する VMI入門 米国が自動補充を生んだ背景

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2001 40 一〇年ほど前に「ECR(Efficient Consumer Response )」という言葉が、米国からわが国に伝わっ てきた。
それから続けざまに情報系、物流系、システ ム系の三文字略語、四文字略語が流行りだした。
比 較的最近のものとしては、「SCM(Supply Chain Management )」や「CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment )」などがある。
乱暴な言い方をすれば、これらはすべてECRを構 成するサブシステムや、システム構成技術、およびそ の発展系である。
厳密にはECRの概念上のプロトタ イプは「QR(Quick Response )」なのであるが、わ が国においては、一連の言葉がほぼ同時期に伝わって きたことから、それぞれの違いが必ずしも明確には理 解されていなかった。
そのコンセプトが発表された当時、ECRには四つ の戦略目標が掲げられていた。
そして、目標の達成に 向け、段階的に改革に取り組んでいく計画が打ち出さ れていた。
その後、いつしかSCMという言葉が普及 し始めると、ECRとの違いが明確に区別されないま ま、立場が入れ替わってしまった感がある。
そのSCMも今では事実上、二つに分類されるよう になっている。
一つはメーカーから中間流通を経て、 小売りやエンドユーザーに至る製品(完成品)の供給 連鎖を対象とする場合。
そしてもう一つは、組み立て メーカーが半製品や部品等を調達するための被供給連 鎖を対象とする場合だ。
最近よく話題となる「調達物流」は、このうち後者 のSCMでテーマとなってくることが多かった。
その ため部品、半製品の物流を指すというイメージが強い。
しかし、当然のことながら、中間流通や小売業にも調 達物流は存在する。
実際、米国の流通業者は、採算の合う限り積極的 に商品の引取りを行っている。
いわゆる「バック・ ホール(Back haul )」といわれるものである。
これに 対して、わが国の場合、商慣習上、商品代金の中に 配送料が含まれていることから、メーカーから小売 店頭への直送はあっても、被供給者が引取りを行う ことはこれまでは例外的な行為だった。
そこに現在、 変化が訪れている。
半製品や部品の調達にしても環境が変化してい る。
国内で調達行為が完結する場合が徐々に少な くなってきたことで、効率化を進める要因が複雑化 している。
さらに先ごろ発生した米国同時テロ事件 のような問題が起きると、今後も半製品・部品の調 達を海外に依存すべきか疑問が生じてくるし、反対 に拠点をより分散させた方がいいとの意見も出てき ている。
いずれの場合にしても、肉眼で確認できない半製 品・製品の実在庫と電子上の在庫(コンピュータ在 庫)をより正確に同期化することの必要性が増す方向にあることには間違いない。
供給連鎖全体の在庫 把握を一元的に管理する主体が必要となることは必 至である。
その形として、供給側が主体的な在庫管理を行う となると「VMI(Vender Managed Inventory )」 であるし、被供給側(需要側)が在庫管理に相応の 主体性を有するのなら「CRP(Continuous Replenishment Program )」と呼ばれるサブシステ ムが機能することになるわけである。
ECRと同時期に伝えられた言葉にもう一つ「E DLP(Every-Day Low Price )」という言葉があった。
わが国においては、一部の小売業が、毎日特売を行う ための標語として用いた。
実は、この言葉もECR を構成するための重要なサブシステムであった。
流通戦略の新常識《第8回》 米国が自動補充を生んだ背景 SCMやCPFR、VMIなど、英語の三文字略語、4文 字略語が氾濫している。
これらは全てECRを構成する サブシステムや要素技術、もしくはその発展系である。
その言葉自体は日本にも広く知れ渡っている。
ただし、 それが米国で誕生した背景については、よく理解され ていない。
松原寿一中央学院大学 講師 Columns 41 NOVEMBER 2001 特集 つまり、定番品のように毎日購入される用品につい ては、可能な限り店頭価格を引き下げ、店頭在庫数 量の波動を極力少なくすることによって、自動在庫補 充を円滑に行おうとするのが狙いであった。
そのため には、店頭在庫における実在個数と電子上在庫数が 同期化しなくてはならない。
実際、アメリカにおいてはEDLPを実施するため には、店頭在庫数量の確認を定期的に行うのが常識 となっている。
これに対して、わが国においては単に 在庫確認を行うよりも、発注時に在庫確認を行なう ことが多い。
この二つの行為は似ているようでいて、 本質的に異なっている。
自動補充を行うための在庫確 認であれば、すべての売り場を一日で確認する必要は ない。
広い売り場であれば、ゾーンを区切って二日〜 三日、場合によっては一週間で全売り場の在庫確認 を行えば良いのである。
ところが、日本のように発注が前提となると、発注 ごとに在庫を確認しなければならないことになる。
在 庫確認にかかるコストが管理されていないために、そ んな仕組みが出てくるのである。
米国で一連の流通改革コンセプトが登場した背景 には、労働力を有効に活用しようとする基本的な考え 方がある。
つまり、労働者に対して休日を定期的に与 え、サービス残業を行なわせてはならないという社会 システムが背景に存在しているのである。
その前提の 部分が日本には全く抜け落ちてしまっている。
万引き防止もSCM もっとも、小売業において、実在庫と電子上の在庫 の差異が生じる最大の理由は盗難である。
そしてアメ リカの盗難率はわが国の比ではない。
ECRなりSC Mなりを機能的に稼動させるためには、物流技術だけ でなく、店舗内のオペレーションを連動させなければ ならない。
米国のあるカテゴリーキラーでは、店内の実在庫 と電子上在庫の誤差の許容数値を決め、単位期間ご とに期末に確認を行ない、誤差内であれば極限誤差 値との差に相当する金額を、臨時賞与としてその店 舗の全従業員で分配するように支給している。
逆に、 許容値を超えるようであれば、その店の店長は解雇 される。
この仕組みによって、全従業員が万引き対策を積 極的に行うようになる。
もちろん、来店客をじっと監 視するのではなく、商品説明を行ったり、愛想(スマ イル・コンタクト)をふりまいたりするのである。
このような店内オペレーションを採用しているチェ ーンにおいては、店に売上責任のない場合が多い。
む しろ、売上責任は本部のバイヤーにある。
ようするに、 売れない商品を仕入れた人の責任になるのである。
原 則的に店舗では在庫の一致と来店客の満足度を高め ることに専念するのである。
そして、店員全員が分担 して店頭在庫を確認しているからこそ、万引きが多い か少ないかを常に把握できるのである。
このように、SCMやECRというものは、物流の 技術的な問題だけで構成されているわけではなく、各 サブシステムを有機的に機能させ、サプライチェーン 全体をあたかもひとつの意志をもった生物のごとく活 動させていくトータルシステムなのである。
VMIのような自動補充の仕組みの導入にしても 全く同じことがいえる。
その部分の改革は技術的には 可能であり、それで直接的なコストも下がるかも知れ ない。
しかし、それだけではSCMとはいえない。
そ の結果、店頭価格を引き下げ、顧客対応を重視する 体制を構築することこそが重要なのである。

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