ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年10号
特集
ヤマト・佐川二強時代 百貨店宅配の本質

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2001 44 「宅配便」というと、今ではヤマト運輸に代表され る個人宅に荷物を配送することを指すのが一般的とな っている。
ところが、三〇年ほど前は必ずしもそうで はなかった。
小荷物配送の中心は郵便小包であり、百 貨店の宅配であった。
もちろん、いわゆる運送業によ る宅配も存在していたが、副業的な性格や特定事業 者の専属性が強く、何よりも今の宅配便のように全国 配送を前提としたインフラ整備を伴ったものではなか った。
その意味で、当時の百貨店の宅配は比較的インフ ラ整備の進んだ配送システムだったといえるだろう。
百貨店には恒常的に宅配の荷物があった。
そして配達 の際に配達員が「○○百貨店です」と自店の名前を 名のる慣習があった。
そのため、百貨店各社は中小の 地場運送業者を、系列化・子会社化するなどして配達 員の質の向上に努めた。
しかし、百貨店の宅配サービスにまったく問題がな かったわけではない。
百貨店の宅配は中元、歳暮時期 を合わせた約三週間に、残りの四九週間分に相当す るほどの物量が集中する。
波動性が高い物流特性を 持っているのである。
そのため、この時期になると、パ ート、アルバイトによる配送が目立つようになる。
そ して問題となるのは、彼らの対応である。
バブル景気の崩壊から少し経ってからのこと。
拙宅 でもこのような「事件」があった。
ベルが鳴ったので 右手で玄関を開けると、私服姿のアルバイト配達員が 立っている。
そして「重い」と不満を漏らし、すぐに 筆者の左手に荷物を持たせ、伝票を示し「ハンコ」と 一言。
これには筆者も不快を感じた。
荷物を持ってい るため「これではハンコを押せない」と言い返すと、 再び一言、「下に置けばいいでしょう」との返事。
この時、筆者は折角の贈り物も、先方を不快な目 に合わせるのであれば、むしろ異なる手段で気持ち を示した方が良いのではないかとつくづく感じた。
もちろん、すべての配達員がこのような対応でない のはわかっているが、どのような配達員が配達する かを、贈り手側は管理できないのである。
実際、宅配は贈答時期に配送事故やクレーム件 数の割合がグンと高くなるという。
運送会社の宅配 便にしても、郵便にしても、歳暮、年末等の繁忙期 には、似たような対応をしている。
この時期には配 送時間帯の指定が事実上できないこともある。
不在 時の再配送依頼を宅配便の事務所に連絡しても、パ ート、アルバイトの配達員に荷物配送を委託してい ることから希望時間が伝わらないのである。
そのため、筆者の場合、この時期の書類の受け取 りは、重量に関わらず定形外郵便でお願いするよう にしている。
いつ届くか分からない便を待っている わけにはいかないからである。
こうして書類の場合 なら配送手段の変更や、配送時期を少しずらすなどの選択が行えるが、中元、歳暮品となると、必ずし も同様な対応は行えない。
なぜスーパーは配送無料なのか これは観点を変えると、百貨店という業態が本質 的に抱える問題ともいえる。
宅配荷物量が示すよう に、中元、歳暮期は百貨店の掻き入れ時だ。
ところ が、その波動性の高さ故、百貨店は機械化対応がで きない。
最近でこそ、贈答品購入者や贈答先のデー タベースが構築されるようになったが、物流システ ム自体は依然として人海戦術であり、短期パート、 アルバイトに依存している状況にある。
それどころか、配送人件費のコスト高騰に耐えか ね、百貨店はいつしか配送を有償化するようになっ 特集 ヤマト・佐川二強時代 流通戦略の新常識《第7回》 百貨店宅配の本質 百貨店の宅配ネットワークは、大手運送会社の 宅配網よりも古い歴史を持っている。
しかし、今 日その物流システムには綻びが目立っている。
百 貨店という業態の陳腐化は宅配という面からも確 認できる。
松原寿一中央学院大学 講師 Columns 45 OCTOBER 2001 てしまった。
一方、総合スーパーは値引きや無償配達 を実施している。
その理由は、総合スーパーが贈答品 で重要になるブランド力の点で百貨店に劣るというだ けではなく、宅配システムの違いにも起因している。
遠隔地に贈答品を送る場合、総合スーパーは注文 情報を元に、配送先の近くにある在庫を引き当て、そ の地域の物流センターから出荷する。
ところが百貨店 では、注文を受けた店舗から、商品を実際に遠隔地ま で輸送するケースが少なくない。
当然、輸送費はかさ む。
総合スーパーが贈答品の商品ラインを本部で管理し ているのに対し、百貨店は店舗ごとに選択する贈答品 の割合が高い。
そのため別の地域に在庫がないのであ る。
さすがに最近では百貨店といえども、商品の統一 化の推進や他の百貨店とのグループ化を図り、共同配 送を行うなどの取り組みはされているが、まだまだ総 合スーパーとは開きがある。
百貨店は包み紙のブランド力だけで中元、歳暮の購 入顧客を引き付けているともいえる状況である。
定価 で売れる贈答品は百貨店にとって本来、最大の収入 源である。
父母兄弟や親しい知人への贈り物ならスー パーの包み紙でも気にしないが、さすがに恩師、上司、 取引先ともなると、やはり一流百貨店の包み紙で贈り 物をすることが、多くの日本人にとっていまでも常識 となっている。
アメリカの場合、ギフトは家族や親しい知人に贈る ことが多いためか、いつしか購入先の業態が百貨店か ら他の業態に移ってきている。
典型的なのがカテゴリ ーキラーである。
toysrus (トイザらス)に代表され るように、子供のクリスマスプレゼントの購入先とし て選ばれるようになっている。
贈答品の本質を中身と 考えるか、包装等の格式を重視するかの違いである。
同じ品を贈るのであれば包み紙は関係なく、より安く 購入した方が良いと考える人が増えれば、わが国でも 同様な現象が起きると思われる。
贈答品の割引販売 実際、今後は日本でも贈答品の価格体系が崩れる 可能性が高い。
現在、総合スーパーは中元、歳暮品 の処分セールを常態として行っている。
贈答時期に五 〇〇〇円、三〇〇〇円した贈り物が、数週間後には、 同じ店内で二割引、三割引、極端なものでは半額で 売られている。
それも以前は贈答品ケースを開梱して バラで販売していたが、最近では人件費を惜しんでか 贈答品ケースのまま販売している。
このことからも、 総合スーパーという業態が贈答品をどのように見てい るかが理解できる。
つまり、あくまでも商品なのであ り、安くすれば売れるという考え方なのであろう。
百貨店の包み紙がどんなに価値があったとしても、 その中身や配達の応対などによって今や周囲から価値 を奪われようとしている。
これは、百貨店という業態 にとって、極めて重要な問題をはらんでいる。
繰り返 しになるが、中元、歳暮の贈答品は百貨店にとって相 応の売上を占める事業の柱であり、戦略商品といえる ものである。
しかし、多くの百貨店は、特選品のよう な品揃えや商戦の結果ばかりに気を止めているように しか思えない。
百貨店という業態自体の存続が問われている現状 において、中元、歳暮という戦略商品は、その品揃え を考慮するだけではなく、他業態とは異なる商品とし て根本から考え直す時期に来ているのではないか。
百 貨店が包装紙だけに頼るのは、あまりにも危険である。
果たして破綻した百貨店の包み紙を選んで取引先に 贈る人が、どれだけいるだろうか。

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