ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年10号
特集
ヤマト・佐川二強時代 コールセンターの新たな役割とは?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2001 40 ――最近、大手宅配業者を始め、物流業者の多くが コールセンター機能の強化に動いています。
といって も、従来のコールセンターとは位置付けが違ってきて いるように思います。
入江 確かに当社でもコールセンターの構築は、重要 なサービスの一つになっています。
ただし、当社が取 り組むケースではサプライチェーンとデマンドチェー ン、そして製品開発、すなわち「NPD(New Product Development )」の三つがセットになってい る。
その枠組みの中で、コールセンターを位置付けて いるわけで、従来の受注窓口の集約とは違います。
――そこではやはりCRMが基本コンセプトになるの ですか。
入江 CRMという言葉を使うかどうかは別にしても、 狙いはCRMと同じです。
これまでの顧客対応は、基 本的に営業マンがいて、別にサービスの担当者がいて、 さらにハイテクや産業材分野ならエンジニアがいた。
各担当者が別々に顧客と接してきました。
これを顧客 の立場から見ると、色々な不満があった。
何か供給側 にして欲しいことがあっても、窓口がバラバラでした からね。
しかも、顧客のニーズはどんどん多様化している。
単なる製品の提供だけではなく、業務プロセス自体を サポートして欲しいという形にニーズが変わってきた。
これに対応するのが以前(本誌五月号)にご説明した 「プロダクト・マネジャー」から「プロセス・マネジ ャー」への変革です。
供給側から言えば、単に製品や サービスを提供するだけではなく、業務プロセスを受 託するという形にビジネスを転換させる。
そこで新たにコールセンターが必要になってくる。
従来のコールセンターがモノを売るために作られたの に対して、現在のCRMを前提にしたコールセンター はプロセスの提供のために作られている。
もちろん従来のコールセンターをベースに、新しい モデルに転換することも理論的には可能ですが、実際 には難しい。
従来の機能を維持しようとする力が働い て、抜本的な改革の妨げになりやすい。
手段を目的に してしまうことになりかねない。
デル・モデルの誤解 ――「プロセス・マネジャー」への変革というのは、 メーカーで言えば単にモノを売るだけではなくて、ソ リューションを売るという形に変わることですね。
入江 デルコンピュータがその典型例です。
デルの成 功は、単なるコンピュータの直接販売が理由ではあり ません。
大企業の情報システム部門のパソコンやサー バーを管理する「プロセスを受託する」というモデル を実現したことで、デルは成功した。
実際、デルはタ ーゲットとする顧客を大企業に絞っています。
――一般のユーザーでもデル製品は買えますよ。
入江 それは残り物を売っている、といえば語弊があ るかも知れないが、実際、デルの売り上げの大半は大 企業向けです。
もしくは大量にパソコンを使う会社で す。
中小企業でもない。
中小企業向けのモデルという のも、別にあり得るかも知れませんが、デル・モデル は利益率の高いところで顧客を選んだ結果、そういう 選択をした。
――それでもデルの売り上げは顧客サポートではなく パソコン販売で成り立っています。
つまり、モノを売 った対価が収入源になっている。
実際、私などはデル の成功に対して、性能に比べて割安感のある価格設定 がウケたんだという印象を持っています。
入江 それも間違いではありませんが、単にパソコン の製品価格が安いだけでなく、プロセスの受託サービ 特集 ヤマト・佐川二強時代 横文字嫌いのアナタのための アングロサクソン経営入門《第7回》 コールセンターの新たな役割とは? 新たにコールセンターを立ち上げる企業が相次いでいる。
ただし、その狙いは従来のような受注窓口の集約による業務 の効率化ではない。
真の目的は「CRM(Customer Relationship Management)」の実現にある。
その本質を見 失うと、せっかくの投資も効果を発揮しない。
入江仁之 キャップジェミニ・アーンスト&ヤング副社長VS 本誌編集部 Columns 41 OCTOBER 2001 スを含めても他社より安いから大きな差別化ができた わけです。
他社は単にモノを売るというビジネスだけ で展開しようとしたためデルに対抗できなかった。
――他のパソコンメーカーだって、大企業ユーザーと もなれば大得意先になるわけで、デルと同じようなサ ービスをするでしょう?  入江 いや、他社は基本的なモデルが違うから同じよ うにはできません。
例えばNECなどは、一般消費者 向けのモデルがベースであり、既存の販売チャネルを 活かさなければいけませんから、それだけ制約も大き い。
デル・モデルを採ろうとしても、組織の問題に直 面してしまう。
――デルがこれだけ成功すれば、他社だって追随する はずです。
なぜしないのでしょう。
入江 追随していないわけではありません。
できなか ったんです。
他のパソコン・メーカーがデルのような プロセス・マネジャーになれないのは、そのコンセプ トを当初は理解できていなかったからだと思います。
デル・モデルで脚光を浴びたのは、ダイレクト販売 であり、BTO(Build To Order )、受注生産でした。
注文を受けてから製品を組み立てるというモデルがマ スコミなどで大きく取り上げられた。
だから他社もデ ルのダイレクト販売とBTOに関しては追随した。
典 型例がコンパックです。
デル・モデルに転換しようと 改革に着手しましたが、結局コンパックはプロセス・ マネジャーにまでは展開しきれなかった。
――ということはデル・モデルの本質は、ダイレクト 販売やBTOではなく、業務プロセスを受注するとこ ろにあるということですか。
入江 ええ。
他社はそこを見失っていた。
もしくは分 かってはいても、組織を変えられなかった。
プロダク ト・マネジャーとしての既存のビジネスモデルが余り にも大きくて、改革できなかったということでしょう。
顧客のプロセスに入り込む ――デルを典型とするプロセス・マネジャーのモデル で、コールセンターはどういう機能を果たすのですか。
入江 プロセス・マネジャーとして顧客の業務プロ セスの一部を処理するためには、従来のモノを売る という観点での組織、つまり営業マンだったりサービ スマンだったりという組織に代わる、新しいコンタク トの組織が必要になる。
それがコールセンターの役割 です。
――従来のコールセンターも窓口の一本化という意味 では目的に適っています。
入江 単に窓口を一本化すればいいというわけではあ りません。
コールセンターを作るというのは手段なわ けです。
それを目的化してしまうと導入は失敗する。
従来と変わらない製品を売って、アフターサービスの センターとしてだけコールセンターを使うのでは、単なる業務の効率化にはなってもプロセスの抜本改革に はならない。
何のために窓口を一本化するのか。
それはプロセス を受託するために一本化するわけです。
従って、まず プロセスを受託するにはどうしたらいいのかという観 点で、全てのプロセスを見直す必要がある。
顧客がそ の先の顧客から受注して、サービスなり製品なりを提 供するまでの一連のプロセスを整理し、そのなかで自 社の提供するサービスを位置付ける。
そして顧客の業務プロセスに完全にコネクトした新 しいプロセスを作る。
その中で一つのコミュニケーシ ョンの手段としてコールセンターを作るというアプロ ーチになります。
――えーっと。
コールセンターを作る前に、まず初め プロダクト・ マネジャー プロダクト・マネジャー《1対多》 既成のプロダクトを多数の顧客に販売する 顧客のプロセスの一部を代行する 多数の売り手と多数の買い手の取引を仲介する プロセス・マネジャー《1対1》 ネットワーク・マネジャー《多対多》 顧 客 プロセス・ マネジャー プロセス・マネジャー・バリューチェーン カスタマー・ バリューチェーン カスタマー・ バリューチェーン ネットワーク・ マネジャー サプライヤー サプライヤー 顧  客 ●バリューチェーンにおける役割 資料:CAP GEMINI ERNST & YOUNG OCTOBER 2001 42 にお客さんの業務プロセスを整理する。
入江 そこから自分達のビジネスの領域を定義する。
さらには、それを全部ウェブでリアルタイムにコネク トできるような仕組みを作ることを考える。
シームレ スで顧客のプロセスが処理できる仕組みです。
その枠 組みの中にコールセンターがある。
つまり、実際には コールセンターと同時に、ウェブでアクセスできるよ うな仕組みも並行して作っていかなければならない。
――ウェブが伴っていないとダメですか。
入江 別にウェブじゃなくても、リアルタイムでシー ムレスにコネクトできればいいのですが、そのために は現状ではウェブを使うのが一番効果的です。
そして、 プロセスを管理する上では、言葉でコミュニケーショ ンをとる必要も当然出てきますから、コールセンター も必要になる。
実際にはウェブ画面を見ながら電話で 話すといったケースが出てくるわけです。
トラック車両をリモート管理 ――具体的な事例は? 入江 航空機のエンジンが、分かりやすいかも知れま せん。
現在、飛行機のエンジンは、エンジン・メーカ ーによってリモートでモニタリングされています。
言 うまでもなくエンジンは飛行機の心臓部であり最も高 価なパーツです。
それを購入した航空会社にとっては、 エンジンが安定して稼働するということが何より望ま しい。
ところが、現実にはエンジンにトラブルはつきもの です。
そこでエンジンの状況を常にモニタリングして、 トラブルが発生する前に処理する。
米国のGEエアク ラフト・エンジン社が、そういうサービスを提供して います。
空を飛んでいる飛行機、一機ごとにエンジン をモニタリングしている。
つまりGEエアクラフト・ エンジン社はエンジンを売るのではなく、エンジンを 稼働させるビジネスに転換したわけです。
航空会社が 飛行機を飛ばすのを手伝いましょうというビジネスで す。
それがプロセス・マネジャーです。
――へえー。
面白いですね。
入江 でしょ。
実際、GEエアクラフト・エンジンは 自社の製品だけでなく、他社製品も含めてモニタリン グしています。
飛行機にシステムを組み込んで、リモ ートで管理している。
実は同じことが自動車やトラッ クでも行われています。
これも以前に説明したことが ありますが「テレマティクス」がそうです。
――憶えています。
入江 いまのベンツのSクラスには「テレマティクス」 が標準装備されているそうです。
カーナビと連動して いるらしいんだけど、GEエアクラフト・エンジン社 と同じように、自動車のエンジンの状況などをモニタ リングして、異常を発見するとトラブルが起こる前に 処理したり、事故に対応したりする。
トラックでも同じです。
ベンツ、正確にはダイムラ ークライスラーは世界最大のトラックメーカーという 顔も持っています。
そこでもトラックを売るのではな く、トラックを稼働させるというビジネスに転換しよ うとしている。
そのための「eコールセンター」と呼 ぶ拠点を設けています。
――かなりコストのかかるサービスに聞こえます。
入江 それでもトータルではコストが下がる。
運送会 社から見れば、故障が減って稼働率が上がるので、単 に車両を買う場合と比べて安くつく。
トラックメーカ ーが最大の顧客である運送会社の業務プロセスを管理 しているわけです。
このように現在のコールセンター というのは、業務プロセスを変えるところまでのイン パクトを持っている。
逆に、そういう形でプロセスを 特集 ヤマト・佐川二強時代 顧客ポートフォリオ管理 効果 拡張サービス バリューチェーンにおける役割 価値提案の範囲 報酬・リスクのシェア ネットワーク・ マネジャー マーケット 市場 成果 コア プロダクト トータル・ ソリューション プロダクト・ マネジャー プロセス・ マネジャー 個人 グループ ●UPSの顧客関係性戦略 資料:CAP GEMINI ERNST & YOUNG 大規模顧客向け 従  来 43 OCTOBER 2001 見直さないと、コールセンターを作ったけれど何も変 わらない。
CRMを導入したけれど何も変わらないと いうことになってしまう。
顧客の新たな役割とは ――始めにおっしゃっていた製品開発とコールセンタ ーは、どう関わってくるのですか。
入江 コールセンターにはクレームなど、顧客に関す る知識データベースが蓄えられていきます。
そうした 情報を元に新しい製品やサービスに展開する「クロー ズド・ループ(閉じた循環)」を作るんです。
――これまでとの違いは? 入江 これまではクレームがあっても個別に対応する だけで、製品開発とはつながっていなかった。
製品を 開発する人、それを売る人、さらにクレームを受ける 人が皆、別々に動いていた。
それを一連の顧客に関わ る情報、カスタマーナレッジと呼びますが、カスタマ ーナレッジ・マネジメントをできる仕組みに変える。
それがCRMという領域における、まず第一の前提条 件になります。
――新しく「カスタマーナレッジ」という言葉が出て きましたが。
入江 顧客に関する単なるデータという以上の知識レ ベルの情報です。
その顧客が従来、どういう取引をし ているかといった基礎データに加え、その顧客がどう いう性格を持っていて、どういうニーズを持っている のかといった知識を指しています。
――それは顧客の役割というものが、従来のような単 なる消費者ではなくなっているという認識がベースに なっているように思います。
入江 その通りです。
――顧客の役割は、どう変わったのでしょうか。
従来 の顧客と、CRMにおける顧客は何が違うのでしょう。
入江 取引相手同士が従来のような売り手と買い手 という対立概念ではなくなったところが最も大きな変 化です。
単にモノを売って、その対価を得るという交 換ではなく、様々な情報や知識や価値が交換されると いう観点から、ビジネスの取引を定義していく必要が 出てきています。
「バリュー・エクスチェンジ」と呼 ばれる概念です。
――しかし、モノやサービスを提供して、お金をもら うという基本的な関係は変わらないでしょ。
入江 いや、そうとは言い切れない。
例えば、顧客か らのクレームを元に新製品を開発するということにな れば、顧客のクレームが供給側にとって大きな価値を 持ってくる。
場合によっては、クレームに対して供給 側がお金を払ってもいいぐらいの話になる。
――ああ、なるほど。
ソフトウェア会社がタダでもト ップ企業のシステム化を手伝うようなものですね。
そ れによってノウハウをもらってパッケージソフトにして他に売り出す。
入江そうです。
――例えば今回の特集のテーマとなった宅配会社にと って、これまでのお話はどのような意味を持ってくる のでしょうか。
宅配会社には膨大な顧客のナレッジが あるはずですが、それをどう活かせばいいのか。
入江 UPSやフェデックスは、プロセス・マネジャ ーとして展開しよう、さらにはネットワーク・マネジ ャーに展開しようという意識を強く持っていますよね。
モノを送る、受け取るという顧客のプロセスに入り込 んで、特定の顧客の業務プロセスを代行しようとして いる。
従来は社内で処理していたプロセスを受託しよ うとしているわけです。
日本の宅配業者もそうしたモ デルを検討すべきだと思います。
入江仁之(いり え・ひろゆき) キャップジェミ ニ・アーンス ト&ヤング副社 長。
製造・ハイ テク自動車産業 統括責任者。
公認会計士合格後、 約20年にわたり経営コンサル ティングを行う。
とりわけサプ ライチェーン・マネジメント分 野では国内屈指のスペシャリス トして評価が高い。
ハーバード 大学留学を経て、都立科学技術 大学大学院、早稲田大学大学院 などで客員講師をつとめる。
著 書訳書多数。
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