ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年10号
ケース
角川書店――物流共同化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2001 50 物流軸に出版社連合を結成 九九年五月、角川書店は出版社五社と広 範囲にわたる業務の共同化をスタートした。
主婦の友社、メディアワークス、同朋社、ロ ーカス、アショット・フィリパッキ・ジャパ ンの五つの出版社と「物流」、「販売」、「情報 システム」の各業務を統合。
参加各社は固定 費の削減を図ると同時に、編集やコンテンツ 作成といった業務に専念することによって競 争力の強化を狙う。
一連の業務提携の軸になったのが角川の持 つ物流ノウハウだった。
現在、共同化の現場 で指揮をとる角川の石金彰一受注センター長は、「多くの出版社は関連会社や外部委託先 に物流をほぼ任せっぱなしにしている。
当社 のように本体のなかで物流を手掛けている出 版社は珍しい」と説明する。
出荷作業や輸送実務を外注している点は、 角川も他の出版社と同じだ。
しかし、返品率 を低下させるための流通の仕組み作りや、リ ードタイム の短縮とい った取り組 みについて は角川本体 が主導して きた。
古い ところでは、 物流インフラを同業他社に開放 新システムでリードタイムを半減 角川書店が物流共同化をテーマに、複数の 出版社との業務提携を進めている。
角川が物 流インフラを同業他社に開放する形で物流の 事業化に乗り出した格好だ。
これを契機に情 報システムも刷新し、受注から着荷までのリ ードタイムを半減した。
長年、出版業界の懸 案事項となっている返品率の低下を狙う。
角川書店 ――物流共同化 角川書店の石金彰一受注センター長 分けを「書店別」に改める予定だ。
取次業者の作業負担を軽減して、流通経路全体のリー ドタイムを短縮するのが狙いだという。
そもそも本の返品は、発注してもいつ着荷 するのか分からないという書店側の不信感に 根差している。
一連の物流整備によって書店 からの信頼を高められれば、長期的には返品 率の低下につながると角川は考えている。
ま さにサプライチェーン・マネジメントの発想 といえる。
共同受注センターの稼働 角川が物流をメーンとする出版社連合の核 になることには誰も異論はなかった。
しかし 実際に共同化に漕ぎつけるまでの道のりは決 して平坦ではなかった。
「共同化に参加した 出版社は従来、それぞれのやり方で業務を処 理していた。
伝票一枚とってもまったく違っ ていた」と石金センター長はいう。
こうした 業務を一つ一つ標準化して、改めて各社の作 業手順に落とし込んでいく必要があった。
まずは受注業務の見直しから着手した。
商 品に関する各社のデータベースを統合し、角 川の受注センターですべての受け付けを代行 できる体制を作った。
もっとも参加企業によ っては、受注業務の一元化はできても、実際 の発送業務は従来通り各社の物流拠点からと いうケースもあった。
それまで使っていた協 力物流業者との契約条件などに制約があった 51 OCTOBER 2001 一九七四年に他社に先駆けて大規模な自動倉 庫を稼働させるなど、出版業界の物流では先 進的な試みを続けてきた。
今年中をメドに、角川が埼玉県三芳町に稼 働予定の大型物流センターも出版社物流の新 たな試みとして注目されている。
印刷・製 本・物流機能を一体化させたこの施設では、 従来は実現できなかった二〇〇部という小ロ ットでの増刷が可能になる。
小さい単位で印 刷すれば、余分な在庫を持つ必要もなくなる という判断だ。
新たな物流センターには大規模な仕分け機 も導入する。
従来は「ジャンル別」だった仕 ためだ。
九九年五月にスタートした共同化は当初、 少なからず混乱した。
「各社の物流担当者と は事前にかなりの準備をしてきたつもりだっ た。
それでも商品マスターの整備などが追い つかず、当初は人海戦術でカバーせざるを得 ないケースが出てしまった」と石金センター 長は率直に認める。
すでに共同化の以前から角川の社内で指摘 されていたことだったが、在庫管理のための 情報システムの使いにくさも問題になった。
当初、物流センターでは、前日までに受け付 けた注文を夜間に集計し、作業日の朝にまと めてピッキング伝票と納品伝票を印字していた。
この作業手順が厄介な問題を引きおこす 原因になっていた。
当時は、実際の在庫数を、夜間一回のバッ チ処理でデータベースに反映させていた。
こ のため「なかには実在庫がないのに納品伝票 を出してしまうケースがあった。
こうした場 合には作業を遡って情報を訂正し、整合性を とる必要があっため現場の負担になった」と 石金センター長。
角川の業務だけを処理して いる分には、間違いの訂正も比較的容易だっ た。
だが他社の伝票のデータ訂正となると、 かなりの手間がかかった。
そこで角川は情報システムの刷新に踏み切 った。
どうせやるならばと、自らの受注処理 業務のプロセスも見直し、新たな仕組みの構 受注から納品までのリードタイム 1. 電話 2. FAX・郵送 3. 取次オンライン 4. 短冊 5. 書店EDI 6. 書店インターネット 7. FAXーOCR 書店からの発注方法 中2日納品 中2日納品 短冊なし分翌日納品 短冊あり分中1日納品 中3日納品 翌日納品 夜間受注分翌日納品 日中受注分中1日納品 中1日納品 午前中分翌日納品 午後分中1日納品 中1日納品 同左 中1日納品 同左 同左 同左 従  来 新システム稼働後 OCTOBER 2001 52 築を決めた。
新システムでは、まず実在庫を データベースに反映するバッチ処理の回数を 一日二回に増やして、在庫データの精度を上 げた。
さらに従来のように作業日の朝にまと めてピッキングリストを印字するのではなく、 作業直前に担当者が自ら印字するという手順 に変えた。
これによって作業者がピッキング作業を終 えたとき、実際に在庫がないのであれば、そ の場で情報システムを訂正できるようにした。
納品伝票はその後で出力するため、訂正作業 の手間は大幅に減った。
この新情報システム を、まず第一弾として角川本体に昨年十二月 に導入。
提携している出版社については、準 備期間を経たうえで今年四月に導入を済ませ た。
出荷リードタイムを半減 新たな情報システムでは、受注センターに 最新のコールセンター機能も導入した。
これ も最大の狙いは、受注から出荷までのリード タイムの短縮だった。
従来はセンターでの受 注から顧客の手元に本が着くまでのリードタ イムは、平均して四日から五日を要していた。
それが新たな情報システムの導入後は平均 二・五日へと半減した。
受注センターに寄せられる顧客からの注文 の手段は、電話、ファクス、郵送、短冊、オ ンライン、インターネットの六種類ある。
オ ンラインで寄せられる発注は全体の六五%で、 そのまま処理データとして流用できる。
それ 以外はオペレーターがデータベースに入力し なければならない。
単に入力するだけでなく、 本によっては出荷部数の調整などが必要にな るため、この作業にもかなりの時間がかかっ ていた。
実際、顧客からの注文を受けてから、これ をデータ化するだけで平均二日間を要してい た。
書店からよせられる短冊やファクスによ る注文をデータ化する手間はもちろん、電話 オペレーターが受け付ける注文についてもデ ータベースの不備によって即答できないもの があった。
コールセンター機能の導入によって電話対 応の効率は大きく上がった。
新システムでは、 コンピュータの前に座ったオペレーターが電 話を受けると、ナンバーディスプレイ機能に よって先方の電話番号が自動的に識別され、 コンピュータ画面上に書店名や所在地などの 基礎情報はもちろん、発注履歴や取引関係の ある取次まで、顧客に関する情報が即座に表 示される。
オペレーターは先方の名前だけを確認すれ ば、すぐに注文内容を受け付けることができ る。
商品在庫の有無も、画面上の在庫マスタ ーを見て即答できる。
仮に重複発注などがあ った場合は、その場で警告が出される仕組み になっている。
売れ筋本を確保しようと、必要以上の冊数 を注文してくる書店への「部数調整業務」に も対応している。
あらかじめ調整が必要な本 についてはデータベースに登録してあり、オ ペレーターは部数調整が必要なことを先方に 明言したうえで注文を受け付ける。
こうした注文は、受注センター内の専門部 署に回され、商品ごとに書店の規模や販売特 性に応じた適正量を算出する。
そして、実際 に出荷できる部数は後ほどオンラインで取次 へと知らされる。
一連の作業手順を整備した ことによって、部数調整の手間も軽減するこ とができた。
このような出版社による出荷部数の調整は、 受注センターのオペレーターはほとんどの業務を画面上で処理する 53 OCTOBER 2001 書店側にはあまり評判が良くない。
しかし、 売れる本や、品切れが予想される本ほど発注 が多いため、出版社としては自己防衛上そう した措置をとらざるを得ないのが実情だ。
す べての注文をそのまま受けていたら、在庫が いくらあっても足りず、後日、返品の山だけ が残りかねないのである。
現在、受注センターでは一四本の電話回 線を使って、一日平均二〇〇〇本から二五 〇〇本の電話注文を処理している。
ここで処 理した受注データは、いったんサーバーに格 納される。
これを加工して、隣接する物流セ ンターではピッキングの作業指示や、ピッキ ングエリアへの商品補充の指示として使って いる。
新システムでは物流現場の労務管理機能も 強化した。
従来のシステムでは出力したリス トを基に、作業者が手作業でピッキングして いた。
個々の作業者の生産性は事実上、管理 者の判断に頼るしかなかった。
これに対して 新システムでは、作業者と作業内容をバーコ ードでヒモ付けして進捗を管理している。
こ れにより作業者ごとの業務効率を瞬時に把握 できるようになった。
基本的に受注センターでは、午前中に受注 した案件を、その日の午後にピッキングして 出荷している。
午後に入ってから受けた注文 についても次の日には出荷する。
石金センタ ー長は「リードタイムが長いほど書店は多め に発注してくる。
返品を減らすためにも、リードタイムを短縮することが、出版社、取次、 書店の三者にとって意味を持つ」と胸を張る。
共同化の狙いはコンテンツ 共同化に参加した各出版社にとって、角川 の物流インフラに相乗りできるメリットは大 きい。
中小規模の出版社にとっては、物流効 率化は切実なテーマだが、スケールメリット がモノをいう物流や情報システムを自前で効 率化するのは限界がある。
だが角川の仕組み に相乗りすれば、それまでは不可能だったレ ベルの高い物流サービスを確保できる。
とは言え、角川の持つ物流インフラを利用 すれば、手数料として相応の対価を支払うこ とになる。
手数料の金額は非公開だが、コス ト面で即効性のある効果はさほどなさそうだ。
返品や在庫の削減など、改善に時間のかかる 効果を期待するしかない。
それよりはむしろ 大手出版社の一角を占める角川と組むことに よって、取次や書店への発言力を強められる ことの方が、共同化に参加した出版者にとっ ては大きいようだ。
角川自身、共同化の真の狙いは、物流の共 同化を切り口に多様なコンテンツを確保する ことにある。
同社はいま従来型の出版社から、 紙媒体にこだわらずに情報を発信するコンテ ンツ事業会社への脱皮を図っている。
このた め物流の共同化についても、「角川とコンテ ンツが競合する出版社と組むつもりはない」 (広報課の小松弘一課長)という。
すでに共同化を軌道に乗せている五社のう ち、売上規模がもっとも大きい主婦の友社の ケースでは、販売業務の共同化から始めて 徐々に関係を深めてきた。
まずは両社の書店 営業員を相互活用することで販売力の強化を 図り、その次のステップとして受注窓口を一 本化。
最後に物流センターを一体化した。
提携した出版社のなかには、角川歴彦社長 が会長職を務めるメディアワークスのように、 事実上、角川の傘下にある企業も含まれてい る。
また、かつてネット関連誌「ワイアード」 を発行して一世を風靡しながら廃刊に追い込まれた同朋社についても、角川による経営支 援の延長線上に物流共同化があったという見 方が妥当だろう。
この五社以外にも角川は今年六月にベネッ セと雑誌分野での提携を決めている。
来年四 月には書籍部門にも提携分野を拡大する予定 だ。
前述した五社のような物流共同化まで進 むかどうはまだ検討中だが、基本的にその方 向で話を進めているという。
さらに西友系の 出版社、SSコミュニケーションズとも提携 へ向けた調整を進めている。
物流を切り口に形成された「角川グルー プ」とも呼ぶべき出版社連合の存在が、近い 将来、出版流通の台風の目になるかもしれな い。
(岡山宏之)

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