ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年9号
特集
マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査 投資判断のカギはヒトの生産性

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2001 26 ハードの性能より大事な問題 ――マテハン機器を体系的に勉強できる組織や教科書 が、少なくとも日本には見あたりません。
「ないですね。
私自身、マテハンを専門にしてきま したが、有志が集まって集中的に勉強したことがある ぐらいで、残念ながら体系的に学んだという経験がな い。
もちろん荷役管理の教科書はありますが、実際の オペレーションやハードの扱いまで落とし込んだ実務 的なものとなると、皆さんにお勧めできるようなもの がないというのが現状です。
マテハンの活用はまだま だ個人技の世界です」 ――物流センター内のマテハンの仕組みを実際にデザ インする場合、どういうステップで進めていけば良い のでしょうか。
「物流センターの業務には『入荷』から『出荷』に 至る一連の流れがありますね。
細かく分けるとたくさ んのプロセスがあるわけですが、端的にいえばそれら の機能は『保管』『出庫(ピッキング)』『搬送』 そして『情報システム』に集約されます。
一般的には このうちまず『出庫』方式から決定します。
次にそれ を満足させる『保管』方式を考える。
そして入荷から 出庫までの『搬送』方式は、レイアウトを検討してい く段階で選択するというケースが多いですね」 ――なるほど。
そうなるとまず出庫方式ですね。
これ にはいくつかマテハン機器に選択肢がありますね。
「通常のリストピッキングのほか、出庫方式として 代表的なのは『ピッキング台車』『デジタル表示ピッ キング』『自動倉庫ピッキングシステム』の三つです。
また自動倉庫ピッキングシステムには、カートン単 位・ケース単位用のいわゆる『AS/RS』と、形 状の決まった特定の商品だけを対象に自動ピッキング するタイプがあります。
それぞれに特徴があって、そ れをざっくりと示したのが図1です」 ――この図でいうと『ピッキング台車』というのは、 どういう特徴を持っていると考えればいいのですか。
「ピッキング台車は投資額は安く柔軟性も高いけれ ど、人の移動は多く、スピードも速くない。
それに対 して『AS/RS』、自動倉庫は作業能力や保管効 率は高いが、柔軟性が低く投資額は相対的に高い。
特 徴を説明すればそうなります」 ――それを必要に応じて選べばいいわけですね。
「そうなんですが、実はそういったハードを選択する 以前に、もっと重要な問題があります。
センターの能 力というのは、実はハードの能力ではなく、人の運用 能力によって決まるんです。
せっかくマテハンを導入 したのに期待した効果を発揮しないで困っている現場 などをみると、そのことを分かっていないケースがと ても多い」 「現在のピッキングシステムや自動仕分け機は無人 で稼働するわけではありません。
そこには必ず人が介 在します。
ところが、マテハンメーカーが顧客に説明 するのはマシンの性能であって、そのスペックを出す のに何人の作業員が必要になるのかという部分までは なかなか説明しない傾向がある」 「例えば一時間に八〇〇〇個を処理できる仕分け機で も、フル稼働するのに必要な作業員を用意できなけれ ば、処理能力はスタッフの数以上にはならない。
八〇 〇〇個は処理できないわけです。
そういった人の問題 が、これまであまり重視されてこなかった」 ――しかし、これまでのマテハン投資は自動化、無人 化を理想にしてきました。
人の運用を重視するという 今のお話とは、もともと発想の原点が違うのだから、 それも致し方ない気がします。
「投資判断のカギはヒトの生産性」 物流投資の中心は、従来のメーカー物流から川下の流通業者向けへ とシフトしている。
これによってマテハンの導入に必要なノウハウも様 変わりしている。
メーカー物流では、効率化によるコストダウンに主 眼が置かれていたのに対して、川下の物流では販売を最大化するため の機能が求められている。
ロジスティクス総合研究所関 護社長 Part ? マテハン機器Interview 27 SEPTEMBER 2001 「現在のマテハンの活用コンセプトは、かつての考 え方とは明らかに違ってきています。
物流投資の対象 自体が現在はメーカー物流から川下の物流へとシフト しています。
これによって物流サービスに対するニー ズも変わってきている。
とくに、ここ数年は小売業者 がサプライヤーに対して非常に高いレベルの精度を要 求しています。
しかも、それが段々エスカレートして いる」 川下物流のマテハン活用術 ――そんなにエスカレートしていますか。
「大手量販店さんは現在、一〇万分の一〜三レベルの ミス率を納品先に要求しています。
昨年の前半ぐらい までは、一万分の一〜二というレベルでしたから、一 年足らずの間に一〇倍になった。
これはもう運用の工 夫だけでは達成できない水準です。
コンベヤ式のデジ タルピッキングでもミス率は一万分の一〜三程度です。
一〇万分の一〜三を達成するには、ピッキング時にバ ーコードをスキャンして検品するしかありません」 「納品率にしてもそうです。
現在、大手量販店はフ ァイブナイン(九九・九九九%)からシックスナイン (九九・九九九九%)の納品率を求めている。
九〇年 代後半にECRが騒がれた頃には、これが九九・八% 程度でした。
こうなるとマテハン投資はコストダウン の問題だけではなくなってくる。
それだけのサービス レベルを取引の前提条件として小売りが求めているわ けですからね」 ――コストが上がっても、投資せざるを得ない場合も ある。
「もちろん、それは避けたいでしょう。
しかし例えば、 一人の作業者が一時間にものを仕分けられるのは大体 一〇〇〇個なんです。
五〇〇〇個仕分けるのであれば 一人で五時間かければできるわけですが、そこにスピ ードの問題が出てくる。
仮に一時間で処理しなければ ならないというサービスレベルが求められているのな ら、五人が必要になります。
そうであれば自動仕分け 機を導入したほうがいいということにもなる。
結局、 人の生産性をキチンと把握しない限り、マテハンの投 資判断はできない」 ――そのあたりは、これまでの川上の物流とは違うわ けですね。
「これまでのメーカー物流では『効率』が最大のテ ーマでした。
そのために必要なモノを必要な分だけ持 つJITが進められた。
それによって物流センターの スペースは小さくなり、ラインも短くなった。
マテハ ン投資も自動化・省人化することが狙いでした」 「それに対して川下の物流では『効果』が最も重視 されます。
『効率』というのは、アウトプットが固定 されている前提でインプットを小さくするアプローチ でした。
これが『効果』ではアウトプットを大きくするアプローチをとる。
つまり小売りの店頭でもっとも 売り上げが大きくなる物流サービスが求められる」 「当然、平準化はできず、ロットも川上とは違って くるためユニットロードもできない。
メーカーやベン ダーが効率を追求するのとは視点が全く違う。
だから 難しいんです。
実際、メーカーと中間流通を結ぶSC Mではいくらでも成功例がありますが、川下では本当 に成功したという事例を今のところほとんど聞かない。
マテハンを考える上でも、そうしたSCMに挑戦しな ければならない時代になっています」 注)ロジスティクス総合研究所は、ダイフクのグルー プ会社で、マテハンに関する調査・分析、コンサルテ ィングを行っている。
特集 マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査 図2 ピッキングの生産性 方式 作業方式 作業計画 生産性 ピッキング ミス率 リストピッキング 一般的な市販の台車を利用 し、出庫リストに基づき棚 の中をピッキング(集品) して回る。
作業者(人)が リストを見ながら作業を進 めるので一度に1得意先が 一般的である 1得意先ごとに棚の並び順 に従いピッキングの指示が リストまたはラベルに出力 される 100〜120件/人・Hr 1〜3/1000 表示式カートピッキング (マルチピック式) 仕分け棚を持ったピッキン グ専用の台車で、複数得意 先を同時にピッキングでき る。
ペーパーレスでデジタ ル表示による指示、ピック したものの仕分け(投入 口)の指示も表示する 台車、さらには出庫箱単位 のピッキング計画が立てら れ、そのまま台車の情報と して渡される 120〜200件/人・Hr スキャン検品付 3/100000 表示式コンベアピッキング 保管している棚に直接ピッ キングすべき数量が表示さ れる。
一定のゾーン内を1 人または複数の作業者で集 中的にピッキング。
1得意 先単位で順番に各ゾーンを 回っていく ゾーンごと、得意先順にピ ッキングの計画が立てられ る。
各ゾーン同一の順番で ピッキング表示される 200〜300件/人・Hr 1〜3/10000 図1 代表的ピッキングシステムの特性比較 出庫スピード 投資額 保管効率 フレキシビリティ 人の移動 出庫頻度と 在庫品種数 ユーザー数 作業能力 デジタルピッキング   ピッキング台車   自動倉庫   自動ピッキング 準備作業 リストチェック 10% ピッキング 検索・移動 35% 45% 積卸作業 10% 準備作業 6% ピッキング 45% 移動 45% 積卸作業 4% 準備作業 5% ピッキング・歩行 85% 手持作業 10% 保管重視型 作業重視型 資料:ロジスティクス総合研究所

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