ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年7号
特集
小売り物流のカラクリ センターフィーの本質を考える

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2001 46 理不尽な話 読者諸氏の友人に通信販売が大好きな人がいると 仮定しよう。
毎日毎日、注文するので、必然的に毎 日毎日、商品が届けられる。
あまりにも頻繁に配達さ れるので、一計を案じたその友人は、自分の敷地内の 物置小屋を改装して、そこに荷物を置いてもらうよう に宅配業者に依頼した。
ここまでは、別に不思議なこ とではない。
ところが、その友人は宅配業者に対して、「宅配の 荷物は本来、自宅内に届けてもらうはずなのに、現在 は物置においてある。
自宅内に商品を置くまでは自分 の所有ではない。
したがって物置にある間は、紛失等 の事故があった場合には、宅配業者で責任をとって欲 しい。
なお、宅配業者に所有権がある荷物を自分の物 置小屋に置かせているのだから、場所代も払って欲し い」と言い出した。
さらに、話を続けよう。
ますます商品注文回数が多 くなったあなたの友人は、もはや自宅の敷地内の物置 では商品を置けなくなり、しかたなく隣町の敷地に倉 庫を借りて同じことを始めた。
今度はいちいち隣町ま で商品をとりに行かなければならない。
そこで友人は、 宅配業者に対して、商品を引き取りに行くための自家 用車のガソリン代を負担するように要請した。
しばらくして、あなたの友人が通販を利用して快適 な生活を送っていることを知った友人の家族まで、通 販を積極的に利用するようになった。
そのうち、近く に住んでいる親戚も同じことを始めた。
各人が倉庫に 自分の荷物を取りに行くのは面倒なので、今度は交代 で取りに行き、全員に配るようにした。
また、まとめ買いをすると安くなるため、皆でまと めて買う機会が増えた。
すると今度は各利用者ごとに 小分けする必要が生じた。
最初のうちは、利用者同士 で荷物の引き取りや手渡しを行っていたが、利用者が 多くなると作業が面倒になってきた。
そこで友人は、 隣町の倉庫に管理人を置くことにして、小分けや利用 者の荷物の手渡しを行うようにした。
もちろん、管理 人の給料は宅配業者に払ってもらうように要請した。
この話、何か変だと思わないだろうか。
上記の一連 の流れをみると、実は全体の仕事(作業工程)は増え ているのである。
宅配の既存のシステムに乗っていれ ば増えない仕事が、その友人の要請によって着実に増 えている。
そして、増えた分の工程に対する費用を友 人は業者に負担しろといっているのである。
この話、実はおまけがあって、友人は宅配業者に管 理人の給料の支払いを要請する際に、実際に支払う 額に上積みをしていた。
当然、差額は自分の小遣いに していたのである。
日本市場特有の悪習 我が国の企業間取引に、この話とよく似た商慣習 がある。
センターフィーと呼ばれるものである。
筆者 は数年前に、物流センターに関するアンケート調査に 携わったことがある。
自社センターを有していない小 売業に、自社センターを構築したいと思うか尋ねた。
すると半数以上が「構築したい」と回答した。
その理 由としては「センターフィーが欲しい」という答えが、 もっとも多かった。
この調査から、我が国の小売業者がわざわざ投資を して、物流センターを構築したいと思っているのは、 必ずしも物流の効率化を狙っているわけではないと知 った。
それでも納入側は、小売業がセンターフィーを 欲しいといえば、応じざるを得ないのだろうか。
よく 言われるのは、その小売業者の店舗数や取引数量が 流通戦略の新常識《第4回》 センターフィーの本質を考える センターフィーの存在が小売業をダメにしている。
小売 業の競争とは本来、仕組みの競争だ。
ところが、わが国で はセンターフィーという名の理不尽なリベートが許される ために、業態の確立という本質がおろそかになっている。
松原寿一中央学院大学 講師 Columns 47 JULY 2001 一定以上ある大口取引先である場合には、納入者側 も応じざるを得なくなるということである。
それが本当だとすると、センターフィーは取引上の 力関係から発生しているのであり、センターフィー自 体の妥当性や料率を論議することに意味はなくなる。
センターフィーという名目でもって小売業者はリベー トを要求しているに過ぎないからである。
仮にセンタ ーフィー徴収が法律に抵触するということであれば、 小売業は即座に徴収を止め、異なる名目でマージン要 求を行うだけのことである。
実際の小売業者はセンターフィーを徴収する際、ひ とつの根拠を掲げている。
従来の商慣習では納入業者 が小売店舗まで納品をすることが前提だった。
これを 物流センターへの納品に変えることで、店舗までの配 送コストは下がる。
反対に、今度は小売業が物流セン ターから自店までの配送を行わなければならないので、 当該のコスト負担をして欲しいというものである。
これもやはりおかしい。
例えば、その小売業者の購 入客が「自分で持って帰るから値引きして欲しい」と いう要請をしたら、どのような対応するのであろうか。
ほとんどの小売業者が断るのではないか。
ならばとそ の客が「自分は車の運転ができないので、タクシーで 持って帰る。
その料金を負担して欲しい」と言い出し たら、どうするのか。
通常行っている取引の形態を自 らの都合で壊し、さらに壊した本人が新たな費用負担 を取引相手に迫る――そのことが、いかに奇異な思い を起こさせるかは、子供でも理解できるはずだ。
米国などではセンターフィーが納入者側から徴収さ れることはない。
もともと買い取り制が原則であるこ とから、商品の所有権は流通業の施設に入った時点 で流通業に移る。
商品価格と物流を含めた付帯コス トは別になっている。
購入側が配送を依頼する場合に は、配送距離に応じた配送料金を商品価格に上乗せ して支払う形をとっている。
この商慣習の違いが、実 は重要な意味を含んでいる。
わが国と異なり、米国では相対取引価格が禁じられ ていることから、取引数量等が同じである場合には、 商品価格も同じにしなければならない。
そのため、物 流等の付帯コストをいかに減らすかが流通業の競争上、 重要な要件となっている。
流通業は物流コストをいか に下げるかが、低価格販売を実現するための重要な条 件となっているのである。
もちろん、米国の流通業もバーゲニングパワーを発 揮することはある。
新製品を店頭に陳列する際には、 一定のリベートも要請する。
しかし、これは我が国の 小売業者がするような特売を行うための原資作りとは 異なる。
商品マスターの変更や棚札発行や付け替えの 費用として徴収するのである。
このリベートとセンターフィーとでは、根本的な部 分で考え方が異なっている。
つまり、このリベートはメーカーに支払いの選択権がある。
メーカーが新製品 を陳列する意志がなければ支払わなくて済む。
ところ が、センターフィーの場合には、取引が続く限り、納 入側が永久に支払うことになる。
もちろん、取引を中 止すれば支払わなくても済むが、両者では本質的な意 味が異なることは理解できるだろう。
センターフィーが小売業をダメにする センターフィーの問題は、実は物流センターの運営 方針にも影響を与えている。
先にも触れたように、セ ンターフィーが存在するからこそ、わが国の小売業の 競争力は下がっているともいえるのである。
なぜそう なるのか。
この連載ですでに説明していることだが、も う一度繰り返す。
特集 小売り物流のカラクリ JULY 2001 48 流通業者にとっての販売価格とは仕入れ価格、作業コ スト、マージンの総和である。
したがって、流通業が低 価格販売を実現するためには、仕入れ数量を拡大するこ とによって単価を下げ、物流コストや店舗のオペレーシ ョンコストを下げなければならない。
作業コストの価格 に占める割合が下がらなければ低価格販売は実現できな い。
作業コストを下げられない流通業は競争力がないと 評価されるわけである。
一般にメーカーが製造原価を明かさないように、流通 業がマージンを除いた作業コストを外部に公表すること は、まずありえない。
卸売業が小売業に商品の配送費を 請求することはあっても、純粋な作業コストとして請求 するわけではない。
わが国の小売業の場合、物流センターのオペレーショ ンを外部に委託する場合も少なくない。
その運営費用の 原資としてセンターフィーを充当させることもある。
こ うすると一見、小売業の物流コストは下がるように感じ るが、実は店舗のオペレーションコストと物流センター のオペレーションコストは、トレードオフの関係にある 場合が少なくない。
物流センターのコストだけを考えれば、店舗への配送 頻度を少なくすることや、一台当たりの納品店舗数を少 なくすることが合理的である。
しかし、それによって店 舗側の受け入れや商品の格納、陳列の作業コストが拡大 する可能性も出てくる。
実際、あるチェーン小売業では、 センターからのバラ納品の商品陳列に一日の大半を費や していることがあった。
物流センターにおいて、ケースに入っている商品をわ ざわざ開梱して数個取り出し、破損しないように梱包す る。
そして今度は店舗において混載している商品をまた 開梱して指定された棚に並べる。
この重複が、いかに物 流コストを上昇させているかは想像に難くない。
必要な人員を削減しコストを下げることをリストラと は呼べない。
必要のない作業を削減して当該人件費コス トを下げるのがリストラである。
しかし、我が国の多く の小売業では解釈が異なるようである。
大手一〇〇円ショップでは、センターから店舗まで、商 品をケース単位で移動させ、その結果として低価格販売 を実現している。
コストコのようなホールセールクラブ に至っては、パレット単位の移動である。
もちろん、仕 入れ価格自体が安いこともあるのだろうが、それを支え ているのが、低い物流コストを実現している仕組みづく りにあることも事実である。
つまり、センターフィーの存在があるからこそ、物流 センターのコストは外部負担させれば済むとの考えが小 売業者に生まれ、その結果、本質的なコスト削減が阻害 されているのである。
メーカーの競争が商品づくりにあるように、チェーン 小売業の競争は業態づくりにある。
そして小売業の業態とは、単に店舗のレイアウトや商品の品揃えを意味する のではなく、どのようにして商品を販売するのかを具現 化した仕組みを意味している。
現在、我が国で行われて いるような個店間の競争とは、本質的に異なるレベルで の競争になるはずなのである。
実際、多国籍企業に成長した小売業の多くは業態の確 立、つまりは仕組みづくりを具現化した企業である。
ま た、その業態は常に革新を続けている。
商品寿命が次第 に短くなっているように、業態の寿命も次第に短くなっ ているのだろう。
今日の小売業は常に継続して業態を創 造していかなければならないのである。
我が国では、物流センターを外部化するような仕組み や、それを助長するような制度によって、小売業の本質 が損なわれている。
仕組みと仕組みの戦いの時代に、わ が国の小売業は本当に生き残っていけるのであろうか。
特集 小売り物流のカラクリ

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