ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年7号
特集
小売り物流のカラクリ 流通外資は日本の小売りと競合しない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2001 30 買収しても統合できない ――カルフール、コストコなど流通外資の日本進出が 相次いでいます。
今後もウォルマートやメトロ、マー クス&スペンサーなどの進出が噂されています。
なぜ、 不況のこの時期に世界の小売業者は日本市場に参入 しようとしているのでしょうか。
「日本の小売業の業績は低迷しています。
にもかか わず、外資が日本に進出するのは何故か。
端的にいえ ば、参入の余地があるからです。
図1は米国と日本に おける小売業者の業態別のポジショニングを示したも のです。
米国ではまんべんなく小売業者が分布してい ますが、日本の場合はところどころ抜け落ちています よ。
外資はこの抜け落ちている領域を狙ってくる」 「日本のチェーンストアと競合するような業態、例 えばGMSの分野にわざわざ乗り込んでくるようなこ とはしないでしょう。
もともと日本のGMSはプライ スレンジでいうと安売りのほうに位置していたのです が、それが年々高いほうへとシフトしてきた。
そのた め、元の位置にポッカリと穴が空いてしまいました。
外資は間違いなく、この領域を攻めてくる」 ――欧米の小売業者が合併・買収で巨大化している のに対し、日本の小売業者は世界レベルで見るとまだ まだ規模が小さい。
しかも日本の場合、合併・買収が 行われても、その後うまく機能している例が少ないの は何故ですか。
「欧米の小売業の場合、合併・買収する側の企業が主 導権を握って、機能統合などの作業を一方的に進め ていくため成功するのです。
例えば、前任の物流部長 を解雇して新しい自分たちの部長を送り込むといった ような人事を平気で行う。
情報システムについても同 様で、吸収される側に対しては既存のシステムを捨て るように指示して、自分たちの仕様に強引に合わせて しまう。
欧米企業は完全にオペレーションの部分まで を統一して初めて買収が完了する」 「ところが、日本の場合、吸収した側とされた側で 完全に上下関係ができているにも関わらず、相手側の 意見を取り入れたりする。
折衷によって機能が複雑化 して統合がうまくいかないというケースが多い。
買収 した方はファイナンシャルの部分、つまり相手の金勘 定の部分を握れば傘下に収めたと満足してしまう。
買 収の主目的は相手の看板と商権を買うこと。
それで安 心して肝心なオペレーショナブルな部分に手を突っ込 むことをしない。
だからうまくいかない」 ――話題になったカルフールは国内に三店舗しか出店 していません。
日本市場に参入の余地があるならば、 一気に店舗網を拡大しそうなものですが。
「カルフールは現在、完全に様子見といったところ でしょうね。
千葉、大阪などにポツンポツンと出店し、 しかも店舗規模を変えている。
建物の仕様にも統一性 がない。
日本市場にはどういう形態が合うのか色々と 試している段階なのでしょう。
本来であれば、物流面 での効率を考えてエリアドミナントのかたちで出店す るはずなのですが、敢えてその戦略を採用していませ ん。
他の国とは違うパターンで日本で出店を進めてい ます。
恐らく、彼らは日本に適したビジネスモデルを 掴むまで、自分たちの色は出さないでしょうね」 外資は本格参入していない ――本来、欧米の小売りは物流センターを核にしたド ミナント戦略で攻めてくるわけですよね。
「戦争のやり方を見てもわかるように、基本的に欧 米企業は、弾の数と鉄砲の数と兵士の数が集まらなけ れば戦おうとはしません。
要するにロジスティクスを Interview 「流通外資は日本の小売りと競合しない」 米国に本部を置くカート・サーモン・アソシエイツは ECRの生みの親として知られている。
同社は精神論ばか りが目立っていた日本の流通コンサルティング市場に、 欧米のノウハウを持ち込むことで、多くのチェーンスト アをクライアントにつかんでいる。
国内外のチェーン・ オペレーションの違いを最もよく知る立場にある同社に、 流通外資参入の影響をたずねた。
カート・サーモン・アソシエイツ大橋進 ロジスティックスサービスディレクター 31 JULY 2001 きちんと整備しなければ、戦っても負けるということ をよく知っているのです。
ところが日本に進出した外 資は今のところ、いずれもロジスティクスの整備に本 腰を入れていません。
そのことを考えると、欧米の小 売りは本格上陸したわけではなく、まだまだ偵察中と いうレベルでしょう。
しばらくは日本市場で手を替え 品を替え、色々なことを試してみるはずです」 ――カルフールは日本進出の際、メーカーとの直接取 引を強く望んでいました。
しかし、実際には卸に頼る かたちで店舗をオープンさせた。
日本ではやはり卸抜 きでは商売ができないのでしょうか。
「メーカーとの直取引を諦めたわけではないはずで す。
引き続きチャンスを狙っているでしょう。
カルフ ールが上陸するときに日本の小売業のマーチャンダイ ジングの担当者は心のどこかでカルフールを応援して いたと思いますよ。
カルフールが日本の商慣行に風穴 を開けることを密かに期待していたところがあった。
ところが、蓋を開けてみると、結局、カルフールは卸 に頼らざるを得なくなってしまった。
日本の小売業者 だって本当はメーカーと直取引したいと思っているわ けですから、残念だと思っているでしょうね」 ――小売りが直接取引を望むのは何故ですか。
「メーンは物流コストの削減なのでしょうが、それ だけが目的ではありません。
日本市場のサプライチェ ーン全体を見た場合、卸の部分にものすごいキャッシ ュが落ちている。
リベートもその一つです。
しかし、 卸がその金を全部ポケットに入れているかというと、 決してそんなこともない。
物流費や人件費などいろい ろなコストで消えていくわけですから、卸がボロ儲け しているわけではない。
それは小売りも承知している んです。
しかし、小売りからしてみれば、卸にお金が 落ちていること自体が無駄だと感じている」 ――直接取引への願望が強いのは小売業者の中でも大 手一〇社ぐらいまででしょうか。
「多分そうですね。
大手は特定の製品群については 是非とも直取引でやりたいと考えているはずです。
し かし、卸の中抜きはそう簡単なことではない。
例えば、 あるメーカーがABCという三つの商品を作っている とします。
Aはナショナルブランドだけど、BCはそ んなに売れない商品。
小売業からすると、Aはメーカ ーと直接取引したいが、BCなんてどうでもいいと考 える。
実際にメーカーと小売業者が卸を中抜きしてA を直接取引するようになるとどうなるか。
卸がへそを 曲げて『じゃあBCは売らないよ』という話になる。
そうなると、メーカーが困ってしまう」 ――商品カテゴリーでいうと、加工食品より日雑品の ほうが直接取引しやすい環境にあるのでは。
「しがらみが少ない分、日雑のほうが直取引しやす い環境にあるのは確かです。
加工食品では完成度の高 い流通チャネルが形成されていますから、これをバラして一からやり直すのはなかなか難しい。
仮に再構築 するとしても相当な時間を要するでしょうね」 直接取引のルール ――商慣行の問題があるにせよ、メーカーと小売業の 直取引への動きは止められないと思います。
それに伴 い、卸の役割は変化していくのでしょうか。
「当然、大きく変わるでしょうね。
今後は物量のま とまる商品はメーカーと小売りが直接取引して、細か い商品を卸が仲介するというかたちで棲み分けが進む でしょう。
いずれにせよ商品カテゴリーごとに卸が存 在するという構図は崩れる。
メーカー、卸、小売りの 三者が直取引という言葉に過敏に反応するのは、棲み 分けが進む前の摩擦が生じていることの現れです」 Food Supermarket Convenience Store Department Store GMS Specialty Store Discount Store Off-Price Super Center Store Warehouse Culb Category Killer Drug Store Staple Fashion High Price Range Low Food Supermarket Convenience Store Department Store Specialty Store Home Center Category Killer Staple Fashion High Price Range Low GMS ●日本 ●米国 図1 日米小売業の業態別分布図 特集 小売り物流のカラクリ JULY 2001 32 ――メーカーと小売りが直取引を始める際には、どの ような取引制度になるのでしょうか。
「小売り側からすると、まずメーカーに工場渡し価 格と物流費を区別して販売価格を提示してもらう必 要があります。
自分たちが商品を工場まで取りに行っ たほうが安く済むのか、それともメーカーに運んでも らったほうがいいのかを判断するための材料になるか らです。
販売価格に物流費が織り込まれたままだと、 物流のオペレーションに改善の余地があるのか、それ ともすでにぎりぎりの水準でオペレーションが行われ ているかを判断できません」 ――工場渡し価格と物流費を区別することがそんなに 重要なのですか。
「メーカー、卸、小売りの三者がそれぞれに行って きた商談はこれまで単なるパワーゲームでしかなかっ た。
『納入単価が百円はいやだから九九円にしろ』と 何の根拠もないままでやり取りをしてきただけだった。
ところが、コストが明確になると、例えば『工場渡し 価格でいくらなんだ』という中身のある商談ができる ようになる」 「今まで日本の小売りはメーカーや卸に対して、自 分たちにはバイイング・パワーがあるんだと圧力をか けてきた。
しかし欧米の小売りはバイイングパワーと いう言葉を嫌います。
セリング・パワーだとアピール する。
『安く持ってくればもっと売ってやるよ』とメ ーカーや卸にアプローチするんです。
バイイング・パ ワーとセリング・パワーは結局、同じ意味なんだけれ ども、セリングパワーを主張する背景には『われわれ の本業は売ることなんだ』という自覚がある。
そこに 日本の小売りとの大きなスタンスの違いがあるんです」 ――しかし現実問題として、日本のメーカーは工場渡 し価格を出そうとしないわけですよね。
何故ですか。
「工場渡し価格の明確化は卸の仕入れ値がオープン になることを意味しますからね。
メーカーは卸に頼っ ている部分がありますから、卸が不利になるようなこ とは極力避けたい。
例えば、決算が近づいた時に『と りあえずモノだけつっこませてくれ』とメーカーが卸 に対して押し込み販売する。
その後に押し込んだ分を 値引くリベートが発生したりと、両者は持ちつ持たれ つの関係でこれまでうまくやってきたわけですから」 ――直取引の進展でメーカーの物流は変わりますか。
「今後、メーカーの物流コストは上昇するかもしれ ませんね。
今までは卸までの大量一括輸送で済んだの に、小売りと直接やり取りするようになると、商品の 小分けやシール貼付など細かい作業が求められる可能 性がありますから」 ――メーカーにとって、直取引は百害あって一利なし じゃないですか。
「卸を中抜きするわけですから、その分のマージン が小売りの手元に残る可能性がある。
これからはメー カーも売り先を選ぶ時代になるでしょう。
卸というお 客さんと小売りというお客さんのどちらに売れば、利 益を多く確保できるかを常に考えながらビジネスを展 開するようになる」 物流ABCは必須課題 ――ここ数年、日本でも専用の物流センターを設置す る小売りが相次いでいます。
その狙いとは。
「自前でセンターを持ったほうが、卸に任せるより も安くオペレーションできると判断しているのでしょ う。
自前で作れば自分たちの都合のいいようにネット ワークを構築できるという点にも魅力を感じているの ではないでしょうか」 ――卸は複数のメーカーと小売りを相手にしているわ 33 JULY 2001 けだから、メーカーの直接取引に比べてインフラの稼 働率は上がるし、ボリュームディスカウントも期待で きるはずです。
コスト面では卸に任せたほうが得策な のではないでしょうか。
「例えば、大規模な小売りチェーンの場合、もとも と物量があるから、共同化によってトラックの積載効 率が上がる云々の話ではなくなる。
例えばダイエーや ジャスコのようなGMSの場合、一〇〇台走っていて 一〇一台目がフル積載にならないとか、二〇〇台走っ ていて二〇一台目がフル積載にならないとかというレ ベルの世界です。
トラックは常にフル積載で走ってい るから共同化してもあまりメリットは得られない」 ――日本の小売りは自社センターといっても、運営や 投資を卸や物流業者に肩代わりさせています。
これは 何故ですか。
「投資リスクを回避するという意味合いが強いので しょう。
小売りにはできるだけキャッシュフローを確 保しておきたいという考えがあります。
キャッシュは なるべく仕入れに使いたいからです。
小売業は仕入れ て売ってなんぼの世界ですから。
物流センターに限ら ず、店舗も賃貸物件にすることが理想的です。
資産を 持っていても何の得にもなりません」 ――しかし、欧米の大手チェーンは自社でセンターを 保有していますよね。
「欧米は日本に比べ、土地代が安いから、自社で保 有してもコスト的に合うのでしょうね。
日本の場合、 土地と建物を保有するとなると、ものすごい投資額に なりますから。
環境の違いだと思いますよ」 ――日本の小売りはこれまで物流に限らず、あらゆる 部分で欧米企業をお手本にしてきました。
しかし、一 番大切な部分を取り入れるのを忘れてきたような気が してなりません。
その一つが管理会計の仕組みだと思 うのですが。
「それは言えますね。
欧米の場合、能率を測る物流 の管理指標は金勘定とは別の部分で作っている。
セン ターの運営の善し悪しは減価償却の進み具合で見るの ではなく、一時間当たりに何ケース処理できるのかと いう生産性を基準にして判断しています。
日本の場合、 例えば、処理能力の違う三つのDCがあるのに、それ を一括りにして本社で管理して、しかも単純にコスト を三等分にして割り振っている。
だから、DCそれぞ れの生産性やコストが見えなくなってしまう」 ――日本の小売りは生産性を管理する指標として人 時生産性という指標を使用してきましたが。
「人時生産性は年間処理量をトータルの作業時間で割 って算出する指標ですが、ここで弾き出される数字は あくまでも平均値です。
その平均値の動きを見れば、 月別の生産性がどのように推移してきたかが分かりま す。
しかし、この指標ではパフォーマンスが良かった のか、それとも悪かったのかを判断はできない」――本来はABC(活動基準原価計算)を使うべきな のでしょうか。
「その通りです。
しかし、日本の小売りはこれまで 物流のABC分析がきちんと出来ていなかった。
人時 生産性の指標を使うことで、オペレーションに掛かる コストの平均値は把握していたが、月別、週別、日別 でどのくらいの処理能力が必要になるか詳細までは掴 みきれなかった。
その結果、物流センターで無駄な人 員配置が生じていた。
こういう管理を厳密に行うため には情報システムをきちんと用意しておかなければな らないのですが、急速に店舗拡大してきたため、シス テムが継ぎ接ぎで作られていてうまく機能してこなか ったのです。
システム整備は日本の小売りの大きな課 題になっています」 特集 小売り物流のカラクリ

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