ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
特集
消える物流子会社 物流子会社の人材情報管理法

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

このうち専門業務知識は、自社固有ないしは業種 特性を反映する知識で、さまざまな調査対象に応じた 個別項目を採用する必要があるものである。
一方、業 務支援知識は業務を遂行する上で常に要求されるで あろう知識のうち、汎用的なスキルとして考えられる ものを重視し、最近の企業環境を勘案した上で「英 語活用知識」と「情報活用知識」を採用することに した。
また、後者の習熟能力を「コンピタンシー・スキ ル」として捉えた。
これは近年の人事管理手法に見ら れるコンピタンシー評価の考え方を参考にしたもので、 「行動能力」と 「姿勢態度」から構成することにした。
行動能力とは、職務を遂行するうえで発揮されている 能力を意味し、一方、姿勢態度は職務のなかで顕在 化している意欲を見ようとするものである。
このよう なヒューマン・スキルズ・インベントリーの概念化の もとに、以下、実際の調査の中で行われた各スキル項 目の具体的な指標の設定例を紹介することにする。
調査方法 1 調査対象と調査目的 ―― 物流マンのスキルを把握する 上記の問題意識をもとにして、従業員のスキル調査 をA社で試みた。
A社は電機メーカーの物流子会社で、 主としてグループ内の物流を担う企業である。
A社の 全従業員二二〇人のうち、今回の調査対象となる一 九九人の従業員の概略は、平均年齢が四三・八歳(二 〇〇〇年七月一日現在)であり、正社員と共に五三 人の契約社員を含んでいる。
このようなA社の人材構 成を背景に、調査を行うにあたって以下の課題を調査 目的として考えた。
第一に個々の社員のスキルレベルをどう把握するか。
JUNE 2001 46 21 世紀、新たに到来する「知識社会」のなかで、人 的情報管理による人材の高度化・専門化の必要性は ますます大きくなっていく。
人材はいうまでもなく企 業の貴重な資産である。
しかし、資産の内容、すなわ ち従業員が蓄積してきた経験やスキルに注目して、そ れを体系的に把握するような試みは意外に行われてい ないのが実情であろう。
本稿では、その一つの試みとして、「ヒューマン・ スキルズ・インベントリー」の考え方を紹介し、ある 物流子会社での実際の調査から得られたスキルデータ を統計的に分析し、優秀社員のスキル特性や注目 す べきスキル間の関係(どのようなスキル同士につなが りがあるのか)を明らかにすることにしたい。
人材価値を在庫として捉える それでは、スキルというものから人材価値を捉え、 そのストックを会社全体の在庫(インベントリー)と して眺める考え方について具体的に検討しよう。
従業 員が蓄積・習熟してきたスキルや経験といったものは、 そもそもどのように捉えられるのだろうか。
従来の人 事考課制度では、成績・能力・態度といった要素に ついてそれぞれ細分化した項目を評価することで人間 評価を志向しているが、ここではスキルの範囲を次の ように捉えてみる(図1)。
まず、スキルの意味であるが、これは次の二つの側 面、すなわち技能や技術といった習得知識のレベルを 示す側面と、技量・手腕・熟練といった習熟能力の レベルを示す側面からなるものと捉え る。
そして、前 者の習得知識を「テクニカル・スキル」と呼ぶことに し、これを業務経験から蓄積される「専門業務知識」 と、業務を遂行する上で必要となる「業務支援知識」 から構成することにする。
物流子会社の人材情報管理法 物流子会社トップの誰もが人材の高度化・専門化の必要性を主張する。
しかし、それを実現するためにはまず、既存社員のスキルレベルの現状 を正確に把握し、課題を具体化しなければならない。
その試みとして、人 材の価値を在庫としてとらえる「ヒューマン・スキルズ・インベントリー」 という手法を使って、ある電機メーカーの物流子会社を分析してみた。
藤森三男 慶應義塾大学名誉教授 立正大学経営学部教授 田中信弘 杏林大学社会科学部助教授 第5部 ――ヒューマン・スキルズ・インベントリーの調査結果から―― 47 JUNE 2001 第二に、A社として今後補強していくべきスキルはど のような部分か。
第三に、スキル項目間の相関関係を 眺めることで、スキルの特性や関係性を明らかにでき ないか。
こうした課題に対して、スキル項目別のデー タを集計・分析していくことで、なんらかの指針を得 ることができるのではないかと考えた。
このうち本稿 では誌面の都合から第三の課題を中心に分析結果を 紹介する。
2 手続きと調査項目 ――四八項目を五点法で評価 調査は以下の手続きのもと二〇〇〇年四月に行わ れた。
まず、ヒューマン・スキルズ・インベントリー を構成するスキル項目について、後に詳しく説明する ような合計四八の調査項目を設定した。
そして、それ ぞれの項目について職場の管理者(ラインマネージャ ー)が部下に対して原則として五段階の絶対評価を 行い、より上位の者がラインマネージャーの評価を行 った。
五段階法の目安は、業務をこなす上で十分な知 識・能力を有する際にこれを「3」とし、やや高いレ ベルのときに「4」、非常に高いレベルのときに「5」 とし た。
反対に「3」よりもやや低いときに「2」を、 非常に低いときに「1」を記入してもらうというもの である。
次に、具体的な調査項目であるが、テクニカル・ス キルの領域においては、専門業務知識は物流業の業 務内容を反映する形で、物流業務知識一三項目(満 点六五点)から構成した。
なお、この項目では調査対 象者が未経験の業務知識については〇点を与えること にした。
続いて、業務支援知識については、まず英語活用知 識であるが、これはほとんどの社員が受験することが 望ましいとされているTOEICの総合点数を指標と した(最高点九九〇点)。
つぎに、情報活用知識である が、 これはシステム運用知識とシステム設計知識に関わ る八項目(満点四〇点)を取り上げた。
この調査企業 では単純なeメール活用といったツールは、日常業務 遂行の上では当然視されており、結果的により上位の 能力を見ることが意図される項目の内容になっている。
一方、コンピタンシー・スキルについては、行動能 力、姿勢態度ともに、従来の人事考課制度が志向し てきた考え方を重視しつつも、今後の企業環境のもと で要求されてくるであろう行動特性を反映するような 細目を選ぶように考慮した。
例えば、「表現力」や「俊 敏性」、「ス トレス耐性」といった細目は優秀社員の行 動特性として重視できると考えられる。
また、「表現 力」という細目を「資料作成力」と「口頭発表力」と いう二側面から捉えたように、それぞれの細目を二つ の要素から構成した。
したがって、行動能力については、細分化された一二項目を評価してもらい、それを六つの細目にまとめ てある(満点六〇点)。
また、態度姿勢については、一 四項目を評価してもらい、七つの細目にまとめた(満 点七〇点)。
このように、「英語活用知識」を除いた、「物流業務 知識」、「情報活用知識」、「行動能力」、「姿勢態度」に ついては、それぞれの個別 項目を五点法によってレベル を把握すると共に、スキル項目ごとに合計点数を算出 し、各スキルの得点として集計するようにした(図2)。
ここでは、主にこのスキル項目ごとの合計点数値を 用いて、スキル項目間の相関関係を分析することにす る。
そこから、優秀社員のスキル特性や重視すべきス キル項目についての指針が明らかにされる。
なお、よ り詳しい分析は末尾の参考文献を利用されたい。
図1 ヒューマン・スキルズ・インベントリーの概念構成 テクニカル・スキル コンピタンシー・スキル 専門業務知識 業務支援知識 行動能力 姿勢態度 ヒューマン・スキルズ・ インベントリー 特集 分析結果 1 単純集計と年代別クロス集計の結果 ――スキルレベルの二極化 各スキル項目の得点分布を簡潔に紹介すると、まず、 テクニカル・スキルであるが、物流業務知識は全体と して高い得点を有する比較的小数の社員と、その他 大勢の低い得点分布をとる社員によって構成される状 況を示した。
年代別に見ると、年代が高くなるにつれ て、スキル得点の平均値が高くなる傾向が見られた。
一方、業務支援知識については、まず英語活用知 識であるが、TOEICの得点を見ると、二極化した 分布を示した。
この点を詳細に見ると、日常的に英語 を用い る部署とそうでない部署の差異を表していた。
年代別には、二〇歳代の平均値がもっとも高かった。
また情報活用知識については、少数ながら情報活 用に秀でた社員が他者を引き離して存在するような分 布を呈した。
年代別では、三〇歳代の平均値がもっと も高く、五〇歳以上では、平均値以上の得点を得て いる社員が若年層に比べて少なかった。
一方、コンピタンシー・スキルについては、まず行 動能力は、平均値のあたりが最頻値となるような正規 分布に近い形となった。
年代別では、年配者の方が高 い 得点をあげており、二〇歳代では高得点をあげる社 員が比較的少なかった。
姿勢態度も、低得点の社員 があまり存在しないほかは、行動能力と同じような分 布となった。
年代別では、四〇歳代の平均値がもっと も高く、二〇歳代がもっとも低い結果となった(なお、 各スキルのヒストグラムについてはここでは省略した)。
2 全社員のスキル項目間の相関分析 ―― 優秀な社員は英語ができるとは限らない JUNE 2001 48 次に、各スキル項目の得点分布を利用して相関分 析を行うことにより、スキル間の関係性を具体的に眺 めることにする。
まず、全社員を対象とした分析結果 から見ると(図3)、物流業務知識、情報活用知識、 行動能力、姿勢態度の各スキル項目は互いに相関す る。
つまり、例えば情報活用知識に富んだ社員は物流 業務知識も豊富で、かつ行動能力、姿勢態度のスキ ル得点も高いことを意味する。
一方、これらのスキル項目と全く相関を示さなかっ たのが英語活用知識であった。
英語得点が高くて も他 のスキル得点が高いとは限らないという結果を示した わけで、この点は興味深い結果といえそうである。
つ まり、優秀社員の特性に英語活用知識があまり関わ らない可能性があることを示唆する。
ちなみに、この点についてのより詳細な検討として、 英語を日常的に用いる「輸出入部門」の社員(三七 人)においても同様な結果を示すのかどうかテストし てみた。
その結果、やはり英語活用知識は、物流業務 知識、情報活用知識、行動能力との間に相関関係を 見出せず、わずかに姿勢態度との間に五%水準ながら 統計的に見て有意な結果を示し た。
すなわち、英語を 使うセクションにおいて、英語は業務本来的な知識・ 能力に関係をもたず、姿勢態度のみに相関する結果と なった。
3 若手とベテランの比較 ―― 英語力から情報活用技術へ 今度は、調査対象サンプルを「若手社員」(四〇歳 未満:八二人)と「ベテラン社員」(五〇歳以上:六 七人)のグループに分けて比較してみることにしよう。
最も顕著な違いを示したのは、情報活用知識の相 関関係であった。
若手社員において情報活用知識は、 図2 調査項目 (生産物流知識、生産管理知識、販売物流知識、輸出入業務知識、物流包装技術知識、物流関  連購買知識、営業業務知識、経理財務知識、ロジスティックシステム知識、物流コスト分析知  識、物流予算計画管理知識、プロジェクトマネジメント知識、社内標準・監査管理知識) 1‐1 専門業務知識13項目(65点) 物流業務知識 1‐2 業務支援知識9項目(a英語活用知識990点、b情報活用知識40点) a英語活用知識(TOEIC総合点[リスニング得点+リーディング得点]) b情報活用知識 (表集計ソフト、プレゼンテーションソフト、データベース操作、データベース構築、ハードウエ  ア知識、ソフトウエア知識、システム操作知識、システム開発知識)    2‐1 行動能力12項目(60点) (判断力[処理力+一般化]、折衝力[伝達力+調整力]、提案力[主張力+立案力]、表現力[資 料作成力+口頭発表力]、指導力[掌握力+育成力]、決断力[状況分析力+意思決定力]) 2‐2 姿勢態度14項目(70点) (積極性[挑戦+提案]、俊敏性[要点把握+応用展開]、柔軟性[適応+革新]、責任性[達成+確 実]、ストレス耐性[健康+頑健さ]、協調性[自覚+参加]、規律性[規則+義務]) 表れた。
また、若手の特徴として、情報活用知識と姿 勢態度との間にも相関関係が表れた。
全体として、若 手のほうが、スキルと年収との関係がより明確に表れ ている。
一方、ベテランは情報活用知識や姿勢態度といっ たスキル項目が年収と全く関係しない傾向が表れた。
また、年齢と各スキル項目の相関では、若手では年齢 が物流業務知識と行動能力に相関するのに対し、ベ テランでは相関を見出せず、五〇歳以上の年齢の上 積みにスキルの向上が反映されない結果を示した(相 関表については省略 した)。
まとめ 本稿では、ヒューマン・スキルズ・インベントリー の考え方に基づいた調査から得られた従業員のスキル データを統計的に分析してきた。
調査企業の結果を広 く一般化することはできないが、これまで漠然となが ら感じられたスキルについてのいくつかの見方が客観的に支持されるところとなった。
誌面の都合により、分析結果の多くを実は割愛せ ざるを得なかったが、年代別のスキル得点の差異や雇 用形態別の社員のスキルデータも数値として客観的な 傾向を把握することができた点をとりあえず指摘して おきたい。
このような調査の継続により、従業員個々 人のスキルレベルの把握 とともに、自社の抱える人材 スキルの在庫レベル、すなわち、ヒューマン・スキル ズ・インベントリーをより詳細に把握することになる はずである。
49 JUNE 2001 物流業務知識、行動能力、姿勢態度との間に比較的 強い相関関係を示した(一%有意)。
一方、ベテラン 社員では、物流業務知識との間に五%有意の相関が 表れただけで、行動能力、姿勢態度との間には全く相 関が表れなかった。
また、もう一つの重要な違いは、ベテラン社員のみ、 英語活用知識と物流業務知識との間に五%有意なが ら相関が見られたことである。
これらの点は、情報活 用知識が若手社員にとって有能さを示すことの証左と なっていることを示すとともに、どちらかといえば情 報活用知識に劣るベテラン社員にとって、英語がそれ まで の重要な武器であったことの可能性を示すのでは ないかと見られる(相関表については省略した)。
4 年齢・年収との相関分析 ―― 英語力は年収と無関係 一方、各スキル項目と、年齢および年収(五段階) との間の相関関係に目を向けよう。
まず、全社員から 見た特徴として、年収は、物流業務知識、行動能力、 姿勢態度と相関が見られた。
また、年齢は、行動能 力と相関を有し、一方、情報活用知識は予想通り、負 の相関関係を示した。
いずれもあまり高い相関係数を とはいえないが、一%有意の相関関係である。
ここからいえることは次のとおりである。
まず、英 語活用知識は、年収・年齢ともに関係しない。
一方、 情報活用知識は年齢と逆相関関係をもつ。
また、物 流業務知識と姿勢態度は、年収と関係するが、年齢 とは関係しない。
さらに、行動能力については、年 収・年齢ともに関係した。
次に、若手とベテランとを分けたサンプルから眺め ると、まず、年収は、若手・ベテランとも物流業務知 識と行動能力と相関し、若手の方がやや相関が強く 特集 図3 スキル項目間の相関関係(全社員) 物流業務知識 英語活用知識 情報活用知識 行動能力 姿勢態度 年収(5段階) 年齢 1.000 .054 .470 .718 .587 .388 .094 .054 1.000 .066 .053 .176 −.128 −.116 .470 .066 1.000 .220 .200 .064 −.190 .718 .053 .220 1.000 .846 .440 .265 .587 .176 .200 .846 1.000 .255 .048 .388 −.128 .064 .440 .255 1.000 .419 .094 −.116 −.190 .265 .048 .419 1.000 物流業務 知 識 英語活用 知 識 情報活用 知 識 行動能力 姿勢態度 年 収 (5段階) 年 齢 ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** ** 相関係数は1%水準で有意(両側)である [参考文献] より詳しい検討は、藤森三男・田中信弘「ヒューマン・スキルズ・インベントリーの研究」 『杏林社会科学研究』第16巻第3号(2001年1月)を参照して下さい。
藤森三男(ふじもり・みつお)一九三四年生れ、慶應義塾大 学商学部教授を経て、現在、慶應義塾大学名誉教授、立正大 学経営学部教授 田中信弘(たなか・のぶひろ)一九六〇年生れ、慶應義塾大 学大学院商学研究科修了。
現在、杏林大学社会科学部助教授) 《著者プロフィール》 *同様の調査にご関心のある物流子会社は、 本誌編集部、logi@poppy.ocn.ne.jp までご連絡下さい。

購読案内広告案内