ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
特集
消える物流子会社 物流専業者には真似できない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 16 ――物流子会社の多くが事業運営に苦戦しているのに、 なぜアルプス物流は高い収益性を維持し、株式公開を 果たすまで成長できたのでしょうか。
「当社が現在のような展開をしてこれたのは、長迫 (令爾)会長の貢献が極めて大きい。
当社が一般の物 流子会社とどこか違うかといえば、それはトップが違 う。
つまり今の会長が普通と違ったわけです」 「普通は親会社の役員が子会社に来てそこで社長を やるのが一般的ですよね。
そうすると、子会社のマネ ジメントも親会社の視点で行うことになる。
これに対 して、長迫会長はアルプス電気の出身では ない。
もと もと物流のプロですから、物流の視点でマネジメント し、モノを見たわけです」 ――確かに物流子会社のトップを外部からヘッドハン ティングするという長迫会長のようなケースはあまり 聞いたことがない。
「アルプス電気のようなメーカーというのは基本的 にモノ作りがメインなわけです。
そういう技術はあり ますが、物流については社内にそれほどのノウハウが あるわけではない。
であれば外部から専門家を招く。
企 業が全体として拡大していく上で、柱になる人材を外 からヘッドハンティングするのは当然の話です。
とく に物流業者の人事は完全に実力主義でなければならな い」 ――ただし、草部社長自身は親会社のアルプス電気の ご出身ですね。
「 そうです。
ただし、私は比較的若い時期に、それ も転籍で当社に来ました。
物流業というのは、極めて 専門性の高い仕事です。
そこに親会社からパッと入っ て来ても、マネジメント自体は分かっても物流のこと は分からない。
私は当社に転籍になってこれまでにそ れなりの教育を受けてきた。
そういうプロセスが、ど うしても必要でした」 ――物流への異動というと、一般には左遷ととる人が 多いわけですが、草部社長は辞令をどう感じました。
「かけねなしに良かったと思いましたよ。
これだけ、 まだまだ伸びる可能性がある業界は少ない」 九〇年を境に環境は一変した ――市場自体は沈滞ムードですが。
「これまで日本の物流業というのは長い間、規制に 保護されてきました。
少なくとも『物流二法』が施行 される一九九〇年までの間はそうだった。
九〇年以前 に、私が当社に来たとしても、大した仕事はできなか ったと思います。
既存の業者は規制による利権を享受 してきたわけですから、そこでは過去の経験や知識を 必要としたはずです。
ところが九〇年以降、環境がガ ラッと変わった。
幸い私は新しい考え方で動ける環境 になってから、この世界に入ってきた」 ――規制緩和前と後の市場 では、どう違うのですか。
「マーケット・ニーズで動くようになったことが大き な違いです。
今まではルールのなかで仕事をしてきた。
それが今は顧客ニーズを起点とする市場になった。
そ うなると、むしろ昔からこの世界にいらした方のほう が、苦しくなる。
従来のやり方を切り替えなければな りませんから」 ――私自身は物流子会社という存在に対して、かなり 否定的に見ています。
「なぜメーカーが物流子会社を作るのか。
理由の一 つは、資金をできるだけグループ内にプールしたいか ら。
もう一つは、自社独自の物流のチャネルを作りた い。
つまり、物流で差別化したいからです。
物流の専 業者に任 せれば、他社と横並びになってしまう。
だか ら自分でやる。
メーカーはそう考えて物流子会社を作 「物流専業者には真似できない」 物流子会社の「勝ち組」として、真っ先に挙げられる企業の1つ。
総合電気部品メーカーである親会社の物流をベースに、電気部品業界 の物流プラットフォームを実現させたことで10%もの利益率を誇る優 良企業に成長した。
今後は日本型のVMI事業に力を入れるという。
アルプス物流草部博光社長 第2部有力物流子会社トップインタビュー 17 JUNE 2001 ってきたのだと思います」 「ところが現実はどうか。
私もこれは物流子会社に来て から分かったことなのですが、物流というのは、メーカ ーが考えている以上に巨大な領域なんです。
一企業が とやかくできる世界ではない。
それはそうですよね。
道 路や空港、港という巨大なインフラを作って国によっ て秩序を保とうというぐらいの機能なんですから」 「だからこそ、これまでの物流企業というのは公共 的な性格を持っていた。
パブリック・サービスに近か った。
これに対して今、荷主が求めているのは自分た ちの個別のニーズに応じたサービスです。
いわばプラ イベートなサービスです。
それが今は求められている。
規制緩和によって、そういう時代が来た」 ――つまり、規制緩和以前の物流市場は、差別化ので きない業界だった。
そのことに親会社は気付かないま ま、物流子会社を作って差別化しようとした。
だから、 失敗した。
しかし、今は違う。
自由にサービスを競う 合う環境になった。
始めて物流子会社による差別化が 実現できる環境になった、ということですか。
「そうだと思います。
ただし、依然として物流が一 企業だけではどうにもならないことに変わりはない。
どうしたって、専門業者や皆の力を借りなければなら ない。
また従来の規制市場に関する知識の代わりに、 非常に専門性の高い知識が必要になっている」 「ライン・ツウ・ライン」へ ――3PLについてはどう意識されていますか。
「物流子会社を机上のプランで考えていくと、専業 者を使って3PLの形でやっていこうという話になる。
しかしその結果、どうなるか。
本当に親会社の求める ような物流の提案が出せるのだろうか。
むしろ、物流 子会社は『お邪魔虫』になってしまうのではないか。
そこがキーになると思います」 「現在のSCMの世界では、従来の個別最適に代わり、 全体最適が求められるようになっている。
だからとい って、『総合物流』の看板を抱えて3PLを展開する のはどうか。
私はもはや当社も『総合物流』の看板は 外したほうが良いの ではないかと考えています。
一社 で全てをできるわけがない。
それよりも自分の強みは 何なのか。
当社の場合は生産物流です。
そこに進めと 号令している。
販売物流はセットメーカーとその物流 子会社が担えばいい。
これに対して、当社はモノを作 る部分の物流を担う」 「従来の物流は『ポート・ツウ・ポート』、港から港 への物流でした。
それが今は『ドア・ツウ・ドア』に なった。
さらにこれからは『ライン・ツウ・ライン』 が起こってくると考えています。
サプライヤーの工場 ラインとバイヤー側の工場ラインをつなげる物流です。
それを実現するには、工場の内部にどんどん、どんど ん入 っていく必要がある」「それが物流業者にとってのSCMではないだろう か。
であれば物流業者は物流のスキルに加えて、メー カーの機能を理解できなければ、提案もできない。
そ して物流子会社の強みこそ、メーカーの思考が分かる ということなんです」 ――今のお話から、アルプス物流の経営戦略が大きく 転換しているように聞こえます。
これまで御社は一社 で全てを担う総合物流を指向してきた。
九六年に川下 の物流業者である流通サービスを合併したのもそのた めだと、私どもは考えてきた。
しかし、草部社長はタ ーゲットを拡げるのではなく生産物流への深耕を進め るとおっしゃっている。
「それは物流業者の経営 という視点から見るか、マ ーケットから見るかという視点の違いだと思います。
特集 2500 2000 1500 1000 500 0 25000 20000 15000 10000 5000 0 アルプス物流単独業績の推移 97 年3月期 98 年3月期 99 年3月期 00 年3月期 01 年3月期 売上高 経常利益 単位:百万円 経常利益 売上高 JUNE 2001 18 当時はまだSCMという言葉もそれほど普及していな かった。
SCMというのは、少なくとも電気業界では セットメーカーが中心になる。
そしてこれから物流も ITの時代に入っていくことが明らかになっています」 「そんな新しい時代のキーワードは何か。
私は『ス ピード』だと考えています。
製品開発においても、生 産のリードタイムに対しても、スピードが重視される 時代に入ろうとしている。
その結果、物流に求められ るものもリードタイム短縮であり、キャッシュフロー 経営の視点で見たときの在庫削減になる。
そこにこれ からの物流業の役割がある」 日本型VMIに挑む ――その分野で言うと今、VMI(ベンダー・マネー ジド・インベントリー:ベンダーによる相手先在庫管 理)が注目を集めています。
「それについて私は、こういうとらえかたをしていま す。
ジャスト・イン・タイムという考え方、トヨタ生 産方式という考え方があります。
自動車メーカーは、 自分の工場の周りに系列の部品メーカーを置くことで それを可能にしてきました。
ところが電気業界の部品 メーカーには系列もなければ企業城下町もない。
セッ トメーカーは必要な部品を色んなところから買う。
部 品メーカー側でも、どこのセットメーカーにも売れる。
これが自動車業界との大きな違いです」 「この場合にはJITが難しくなる。
地理的に部品 メーカーが遠くにあるわけですからね。
無理にJI T にすれば、毎時間、長距離トラックを発車しなければ ならなくなる。
部品よりもはるかに高い物流コストが かかってしまう。
そこでセットメーカーは自分の工場 の倉庫に調達用の部品倉庫を設けることになる。
部品 をそこに在庫して、そこからJITで工場のラインに 納入するわけです」 「ところが今、日本国内に電気業界のセットメーカ ーというのは約一〇〇社もある。
これに対して、部品 を納めるベンダーはと言えば一六〇〇社にも上ります。
これを全て別々にやれば、国内に夥しい数の倉庫が必 要になってしまう。
それを避けるにはセットメーカー が共有で使える調達用倉庫の機能を誰かが担う べきな んです。
それを物流業者が担えばいい」 「米国でいうVMIという考え方は、生産ラインを 止めないための生産安全在庫を維持しようということ が起点になっています。
今、日本で当社が挑戦してい るVMIは少し違う。
当社の場合でいえば自動車業 界のJITを電気業界に適用する。
セットメーカーの 生産革新の一貫として取り組んでいるんです」 子会社のノウハウ ――そこでは何が運用のカギになりますか。
「部品ごとの『個性』をどう扱うかということです。
それぞれの部品によって、在庫すべきレベルや発注の 仕方は違います。
その部品に最も適した物流がある。
さらに、それらの部品をセットメーカーの求める形に、 物流会社がモジュール化して納品する。
それによって 物流会社のサービスの付加価値をより高めることがで きる」 ――そういうサービスが実際に始まっているのですか。
「ええ。
この一〜二年の話ですがね」 ――今後、日本でVMIは急拡大していくと見ていま す。
物流会社がその仕掛け人になることは可能ですか。
「取引の主体はもちろんセットメーカーと部品メー カーです。
そこにVMIを導入することを物流業者か らしかけていくのは容易ではありません。
当然、摩擦 も起こる。
だからこそ、そこが物流業者のノウハウに 指定棚・指定パレットへの格納ライン際への納品・担当者渡し 支給品などの引き取り指定伝票処理 19 JUNE 2001 なるんです。
基本的には部品メーカーとセットメーカ ーの双方が満足するような仕組みを提案できないとい けない。
それを具現化できているところはまだ少ない。
当社はそれに挑戦しています」 ――そうなると、物流業者としてはまずセットメーカ ーを口説いて、その後に部品メーカーを口説くという 流れになるわけですか。
「その辺はノウハウですからねえ(笑)。
いずれにせよ 物流の専業者には難しいと思います。
彼らはVMI の倉庫を作っても、単にそこに預けてくださいという 提案しかできない。
しかし、当社は違う。
先ほども少 し触れましたが、商品には一つひとつ『物流個性』が あります。
我々物流子会社ならそれが分かる。
単に 預けて下さいというのではなく、どのように預ければ いいのかまで提案できる。
その結果、出てくるメリッ トは単に預けるメリットとは全く違うレベルになりま す」 「今、目の前にあるカートンを単なる貨物として見 るのか。
それとも、その中に入っている商品の経時変 化まで見るのかでは全く違います。
これまで当社は電 気業界の一六〇〇社の物流を見てきました。
その経 験の蓄積から貨物の個性がつかめるようになった。
同 時に親会社の仕事を通じて、荷主が何を求めているか を肌で感じることもできた。
同じことが物流 の専業者 にもできるとは思えません」 出向者はいらない ――その代わり、アルプス物流には親会社の冠がつい ている。
アルプスの競合からは敬遠されるはずです。
ライバルメーカーが「アルプス」の名前の付いたトラ ックで納品されるのを歓迎するとは思えません。
「当社の扱う商品は非常に小さい。
物流管理に手間の かかる商品です。
しかも、当社は国内のセットメーカ ー一〇〇社のほとんどと取引をしています。
だったら 当社に任せたほうがベンダーも楽でしょう。
逆に任せ ないとセットメーカーから効率が悪いと思われてしまい ますよ」 「同時に当社はアルプスという冠はつくものの、親 会社から完全に自立しています。
とくに情報管理は徹 底して いる。
いくら親会社でも絶対に情報はもらさな い。
そのためにも親会社の出身者は当社に出向するの ではなく転籍であることが大事なんです。
後で同じ人 間が親会社に戻ってしまったら、機密は守るといって も誰も信用してくれない」 ――若い人の場合も出向ではなく転籍なのですか。
「もちろんです。
当社にいるアルプス電気の出身者 は全て転籍です。
もちろん私もそうです。
出向者など 欲しくありません。
親会社から子会社に行くときに出 向か転籍かという問題は極めて重要なんです」 ――親会社の競合企業にも物流子会社があるはずです。
その部分の仕事はとれない。
自分の子会社を切ってま で、ライバルの子会社を使うというのは難しい。
「確かに、人事政策のために作ってしまった物流子 会社は親会社にしても切れない。
しかし、それも徐々 に変わってきています。
当社の営業はいまやほとんど が荷主のトップ層に対するセールスです。
物流は完全 に経営の問題になっています」 ――たしかに親会社の経営層は現在、物流子会社の扱 いに頭を悩ませている。
そろそろメスも入ってくる気 配があります。
その結果、物流子会社の再編が起こる のではないかと考えています。
「それは物流 子会社だけではなく、物流業界全体に 言える話です。
環境がこれだけ変化しているのですか ら、当然、再編もこれから起こってくるでしょう」 特集 【プロフィール】 草部博光(くさべ・ひろみつ) 1945年、東京生まれ。
慶応義塾大 学商学部卒。
69年、アルプス電気入社。
一貫して海外事業を担当する。
96年、アルプス物流に転籍。
海外営業部長に就任。
97年、取締役海 外事業部長。
99年、専務取締役営業本部長。
2000年、社長に就任。
現在に至る。
【企業概要】 1964年に設立した渡駒が前身。
70年に社名をアルプス運輸に変 更。
87年、再度社名を変更し、アルプス物流に。
これ以降、親会 社のアルプス電気の貨物をベースに電子部品業界の共同物流を展開、 急成長を遂げる。
95年東京証券取引所2部上場。
96年には流通サ ービスの株式を取得。
依然として国内物流事業が堅調なほか、ここ 数年は海外事業を積極化させている。

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