ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
ケース
日本出版販売――ネット物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 50 書店を活用してネット通販 トーハンと並ぶ大手出版取次(卸)と して四割近い国内シェアを握る日本出版 販売(日販)にとって、オンライン書店の 台頭は頭の痛い問題だった。
ネットビジネ スへの対応を誤れば、顧客である書店の 不興を買いかねない。
そうかといって、そ の将来性を考えれば無視するわけにもいか ない。
いまだシェア一%にも満たないとはいえ、すでにオンライン書店は、既存の中小書 店にとって大きな脅威になりつつある。
?書店を巻き込みながら読者サービスを 向上させる〞ことを社是とする日販とし ては、何らかの手を打つ必要があった。
その 打開策が、九九年十一月に立ち上 げた「本やタウン」と いう独自のオンライン 書店である。
同社が 「書店が集まるインタ ーネットブックモール」 と説明するこのサイト は、中間流通の担い手 ならではのユニークな ビジネスモデルを形作 っている。
読者が手元のパソコ ンを操作して、データ ベースにある書籍を購 入するところまでは一 ネット通販の物流で書店を支援 “全点在庫化”でリードタイム短縮 書店に本がなくても、取次に在庫があれば顧客 への配送リードタイムを劇的に縮められる――。
そう考えた日販は昨年6月、市場に流通している 書籍の大半を保管できる物流センターを稼働した。
既存の書籍流通の常識では実現できなかった“全 点在庫化”の背景には、いまだシェア1%にも満 たないオンライン書店の台頭がある。
日本出版販売 ――ネット物流 日販のオンライン書店「本やタウン」 て日販に支払う。
この手数料は、俗に書 店が二割、取次が一割と言われてきた既 存の流通マージンとは別に収受される。
ネ ット事業部の肥田俊郎課長は「五%とい う手数料は提供するサービスの実費相当」 と説明する。
見方によっては、「本やタウン」の手数 料が日販の新たな収入源になるという解 釈も成り立つ。
しかし、このビジネスのた めに日販が用意した物流ネットワークを見 ていくと、そう単純な話ではないことがわ かる。
リードタイム短縮という壁 一般にオンライン書店のユーザーは、納 期や価格に対する要求レベルが高い。
し かも競合するオンライン書店に「本やタウ ン」が対抗していくためには、顧客の厳し いニーズに応える仕組みを構築する必要 があった。
最大の課題はリードタイムだった。
配送 に要するリードタイムの短縮が書籍流通 の課題であることは、過去にもさんざん指 摘されてきた。
従来は書店に在庫のない 本の取り寄せを依頼すると、届くまでに一、 二週間かかることも珍しくなかった。
しか も納期はハッキリせず、読者はひたすら書 店からの連絡を待つしかない。
日 本国内には出版社が約四五〇〇社あ り、毎年、合計六万点ほどの新刊を発行 している。
これに既刊本を合わせると約六 51 JUNE 2001 般のオンライン書店と同じ。
しかし、日販 はエンドユーザーに対して直接、商売はし ない。
書籍の受け渡しと代金の決済は、あ くまでも「本やタウン」に加盟する書店の 役割。
本の購入者は、「本やタウン」に加 盟する近所の書店で商品を受け取る。
多 くのオンライン書店が配送には宅配便を、 決済にはクレジットカードや代引きサービ スを利用しているのとは全く異なる。
「本やタウン」のビジネスモデルのなか で、日販はデータベースの提供などの情報 システムの運営と、書店に書籍を届ける 物流機能を担っている。
つまり「本やタウ ン」は日販にとって一般消費者を対象に したB to Cのビジネスではなく、書店向け のB to Bなのである。
その直接的な狙い も、自社の売り上げ拡大より、「自前のオ ンライン書店を開設できずにいる中小書 店の支援」(井上顯一取締役)に重点が置 かれている。
このサービスを利用する書店は「本やタ ウン」での売り上げの五%を手数料とし 情報部門とネット事業を統括する井 上顯一取締役 《出版社》 《読 者》 取引先 《書 店》 約3300社 (全国4500社) web-bookセンター(埼玉県) 〈ネットビジネス向け拠点〉 在庫:36万点 王子流通センター(東京都) 〈基幹送品拠点〉 在庫:10万点 オンライン書店の 物流拠点 新座流通センター(埼玉県) 〈書籍専用の返品拠点〉 顧客数 約11,000店 再生センター シフト別納品 JIT納品 宅配便 宅配便 受け取り 横持ち 返 品 横持ち 書店向け 自社便 共配便 日販のサプライチェーン(書籍のみ) (全国2万数千店) JUNE 2001 52 〇万点の書籍が国内に流通していること になる。
そのうち取次が在庫しているのは、 大手といえどもせいぜい一〇万点程度。
そ れ以外は出版社に取次が発注するわけだ が、出版社の過半数は従業員一〇人にも 満たない零細企業。
取次から注文を受け ても、迅速に納品する体制を持ち合わせ てはいなかった。
こうした状況に対し、これまで取次は手 を打てずにいた。
日販の物流業務に長ら く携わってきた経営戦略室の安西浩和室 長は、「雑誌については決められた発売日 を守るため、到着 日から逆算して物流ネ ットワークを組むという考え方が以前から あった。
だが、書籍にはこうした発想がな かった」と率直に認める。
書店以外に選択肢のない時代であれば、 それでも顧客を逃がす心配はなかった。
し かし、日販が「本やタウン」の立ち上げを 模索していた頃、すでにオンライン書店の 世界では、アマゾンドットコムをはじめと する多くの事業者が、自ら物流機能の充 実を図ることによってリードタイムの短縮 を実現していた。
宅配料金こそ別途かか るものの、翌日配送が当たり前の世界で、 日販だけが「送料は無料だから待ってく れ」では商売にならない。
全点在庫でヒット率を向上 問題を解決するため日販は二〇〇〇年 六月、埼玉県(三芳町)に「web ―bo okセンター」(webセンター)を稼働 した。
面積約三〇〇〇平方メートルの同 センターの役割と機能は、当時すでに日 販の書籍流通の主力拠点として機能して いた王子流通センター(東京都北区)と はまったく異なるものだった。
webセンターの最大の特徴は、三六 万点の在庫を持つという?全点在庫〞の 方針だ。
これに加えて王子流通センター には一〇万点の在庫があるため、合計す ると日販の在庫点数は四五万点(一部重 複)になる。
「実際に市場で流通している 書籍の大半を在庫化することによって、で きるだけ早く出 荷できる体制を作りたかっ た」と安西室長は説明する。
実際、全点在庫センターの稼働によっ て、顧客に提供できるサービスレベルは格 段に向上した。
サプライチェーン上のリー ドタイムが変わるわけではない。
中間流通 の在庫点数を拡充することによって、取 次から出版社に発注する比率を大幅に減 らせるためだ。
現在、「本やタウン」に寄せられる注文 のうち、「八五%は日販の物流拠点から即 日出荷している。
残り一五%についても、 その半分は書籍の絶版がデータベースに反 映されていないなど、そもそも受注すべき ではなかったもの。
実際に出版社から取り 寄せているのは全体の一割未満」(安西室 長)だという。
この高いヒット率が、利用 者にとっては大幅なリードタイム短縮と同 じ意味を持つことになる。
webセンターでは朝一〇時までの注文を即日出荷している。
出荷した書籍は、 まず車で九〇分の距離にある王子流通セ ンタ ーに横持ちする。
ここから先の書店配 送には自社便または共同配送便を使って おり、多くは翌日、遠隔地でも三日後を メドには届く。
宅配便ほどのサービスレベルではないが、 従来に比べれば飛躍的なスピードアップを 実現した。
しかも、読者には配送料が請 求されない。
書店が負担する五%の手数 料も、宅配と比べれば格段に安い。
もっとも、限られたスペースと資金で全 点在庫センターを運営しようとすれば、単 品ごとの保管冊数は少なくならざるを得 ない。
現に三六万点の在庫を持つweb センターの平均在庫は二冊未満。
こ のた め、データベース上であらかじめ読者に提 示する納期の精度を向上させるためには、 在庫を補充する出版社との取引ルールを 見直す必要があった。
そこで新たに「計画 経営戦略室の安西浩和室長 53 JUNE 2001 搬入」と呼ぶジャストインタイム納品のル ールを作り、納品日を出版社に約束して もらうようにした。
一方、在庫一〇万点の王子流通センタ ーの場合は、一冊あたりの保管冊数が多 いため在庫総数は数百万冊に上る。
こち らの在庫補充のやり方は、基準値を下回 ったら従業員が判断して発注するという もので、バーコードで単品管理しているw ebセンターと比べればだいぶ荒っぽい。
こうした相違はそれぞれのセンターの役 割に起因している。
Webセンターはエン ドユーザーの利用まで想定して在庫管理 システムを作っている。
だからこそ、同セ ンターを利用して楽天ブックスなどの大手 オ ンライン書店と取引することも可能にな った。
一方、王子流通センターの場合は、日 販の社内向け、および書店向けに管理シ ステムを設計している。
つまり、こちらは 既存の書籍流通の発想に基づく施設なの である。
サプライチェーンを情報で結ぶ 日販はこれまで、情報システムと物流 の高度化を経営の柱に据えて、拡大路線 を突き進んできた。
この路線を強力に推 進してきたのが現社長の菅徹夫氏である。
過去には王子流通センターの責任者を一 〇年以上つとめた経験を持つ菅社長は、知 る人ぞ知る物流のスペシャリストだ。
そし て同氏を補佐しながら情報システムの高 度化を図ってきたのが井上取締役であり、 物流システムの革新に挑んできたのが経営 戦略室の安西室長だった。
日販の流通機能の現状を、まずは情報 面から見ていこう。
同社は八〇年代から 書店・取次間のオンライン化に積極的に 取り組んできた。
九八年に稼働した現行 システム「PC ―NOCS2」では、書店 の保有するパソコンを使ったオンライン取 引を実現した。
手持ちのパソコンに専用 ソフトウエアをインストールすることで、 公衆回線を使って日販のデータベースに 接続することができる。
日販は「検索・発注」や「注文追跡」と いったサービスを有料で提供し、これによ って従来のスリップを使った発注業務か ら書店と取次の双方を解放した。
現在、二 〇〇〇店以上の書店が同システムを利用 しており、自前のEOS(Electronic Ordering System )を使っている大手書 店と合計すれば、すでに九割以上の受注 をオンラインで処理できるようになってい る。
「本やタウン」に加盟している一〇〇〇 店余りは、日販の社内ではこのPC ―NO CS2の対象店が利用サービスの範囲を 拡大したという位置付けになっている。
「念 願のオンライン化にメドがついたため、次 のステップとして書店が本を売る手伝いを しようと考えた」と井上取締役はその経 緯を振り返る。
調達先となる出版社との情報ネットワ ークの構築にも積極的に取り組んできた。
九四年から出版社との交渉を開始し、す でに四〇〇社以上との取引をオンライン 化している。
これによりエンドユーザーは、 2000/3 1999/3 1998/3 1997/3 1996/3 1995/3 1994/3 1993/3 1992/3 1991/3 1990/3 1989/3 0% 20% 40% 60% 80% 100% EOS 短冊入力 手仕分 ※EOS(Electoric Ordering System):SA機器などによるオンラインでの注文 ※短冊入力:注文書、スリップを機械にかけてデータ化させた注文 ※手仕分:「短冊入力」でデータ化できなかった注文で完全に手作業で処理される 日販と書店とのオンライン化の推移 JUNE 2001 54 出版社の持つ在庫情報にアクセスするこ とが可能になり、現在では全注文のうち 九割以上の在庫状況をオンラインで把握 できるようになった。
九〇億円を投じた自動化設備 物流面に目を転じると、九八年一月に、 王子物流センターで大規模な自動化を図 ったことが大きな意味を持っている。
約九 〇億円の巨費を投じて、マテハンメーカー の椿本チェインと開発した「MS2(マ ルチスーパー2)」は、多様なサイズの書 籍を一冊ずつ書店別に分ける自動仕分け システムだ。
高度にカスタマイズしたマテ ハン機器と、これを制御する情報システム からなり、前述したPC ―NOCS2など とも連携している。
一時間当たりの仕分け能力は四万六〇 〇〇冊。
物流センター内での滞留時間を 最小限にすることにより、書店からの注文 品を素早く処理することを狙いとしている。
このMS2を一日三シフトで運用するこ とにより、同センターは注文品だけで一日 一二〇万冊をさばくことができる。
ただし、一日三回転というシフト管理 を徹底するためには、出版社からの納品 をシフトに合わせてもらう必要があった。
「トラックの出発時間に応じて、各シフト で処理すべき書籍があらかじめ決まってい る。
そのため出版社に何日の第何シフト までに納品して 欲しい、とお願いすること で作業効率を高めている」と流通計画課 の小島義久課長はいう。
MS2の導入は仕分けミスも激減させ た。
結果として、かつて多くの人手と時間 を要していた出荷検品はほぼ不要になっ た。
仕分けの現場を見渡す限り、人海戦 術による作業は梱包を担当する「荷姿調 整部」ぐらい。
それ以外の工程はモノ凄 いスピードで機械が処理している。
日販に よると、MS2の導入によって約二〇〇 人の人員を削減できたという。
現在、王子流通センターで取り組んで いる課題は?リア ルタイム在庫管理〞の 実現だ。
これまで同センターの在庫管理 は?クローズ管理〞と呼ぶもので、基準 在庫を割り込んだら人手を介して発注す るという仕組みだった。
これを昨年一〇 月から、単品ごとに在庫冊数をコンピュ ータで管理し、基準在庫を割り込んだら 自動発注するという仕組みに移行してい る。
すでに医書や専門書の領域では導入 済みだ。
いわばwebセンターと同様の管理を 実現しようということだが、数百万冊に上 る在庫をすべて単品管理するのは容易で はない。
しかも、同社の在庫管理の手順は、顧 客から注文を受けた時点で情報システム 上の在庫を引き当て、その後で書棚から 書籍をピッキングするというもの。
?リア ルタイム〞と呼んではいるものの、情報と 物流が完全に一致しているわけではない。
場合によっては情報と実在庫の乖離という事態も考えられ、まだまだ改善の余地 が残されているようだ。
取次という業態を問い直す 日販の近年の業績は、さながらジェッ トコースターのように乱高下してきた。
九 六年三月期の売上高では宿命のライバル、 トーハンを抜いて業界首位に躍り出たも のの、それから三年後の九九年三月期に は売上高七九一四億円(前年比三%減) と創業以来はじめての減収を記録。
翌二 〇〇〇年の三月期には、初の最終赤字を 計上せざるを得なかった。
それが一転、二〇〇〇年九月の中間決 算では、減収ながらも過去最高の経常利 益をたたき出し、通期でも最終黒字を見 込んでいる。
長年にわたって取り組んでき た物流効率化や情報システムの高度化が 実 を結びつつある格好だ。
その一方で社外の経営環境は悪化の一 流通計画課の小島義久課長 55 JUNE 2001 途を辿っている。
底の見えない出版不況 とネットビジネスの急拡大が、既存の流通 構造にじわじわと影響を与えている。
「(日販の)社内には取次という業態の在 り方そのものを変えなければいけない時期 にきているのかな、というコンセンサスが ある。
変化の波にさらされる営業部門を、 情報システムや物流がいかに支えていくか が今後の大きな課題だ」と井上取締役は 漏らす。
こうした危機意識の先頭に立っている のがネット事業部である。
そもそも「本や タウン」の底流には、書店とのオンライン 化を進めることによって書籍流通を革新 したいという日販社員の想いがあった。
こ れは、かなり以前から社内の 有志による勉強会で検討され てきた課題であり、パソコン 通信の全盛期に一度は頓挫し た計画でもあった。
それが九八年七月に現社長 の菅氏のバックアップもあっ て、「ネット通販PT(プロ ジェクトチーム」として正式 に発足した。
そして首尾よく「本やタウン」を立ち上げ、こ れを支えるwebセンターも 稼働 した。
しかし、一連の動 きを物流面でリードしてきた 安西室長が感じているのは達 成感ばかりではない。
「本来であれば在庫など持 ちたくないし、物流もない方 がいい。
全点在庫センターに ついてもそうだ。
日販も、ト ーハンも、アマゾンも同じよ うな物流センターを持つこと が本当に良いことなのかどう か。
その答えは、これから出 るはず」と安西室長は見てい る。
(岡山宏之) 王子流通センター ?数百万冊に上る王子流通センターの在庫。
現在「リアルタイム在庫管理」に移行中 ?MS2に書籍を1冊ずつ投入すると、機械 がバーコードやISBNコードを読みとる ? M S 2 全景。
1 時間に 46000冊を処理できる ?コンベヤ上で自動的に結束し、ソータ ーで出荷方面別に仕分ける ?仕分けた書籍を梱包する「荷姿調整部」。
この作業は依然、人手に頼っている ?カートリッジが一杯になると自動搬送機 がピックアップ。
代わりに空カートリッ ジを置いていく カートリッジ別に一度に 640方面に仕分ける (1日3シフト1920方面)

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