ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年5号
特集
物流&IT ラクーン──3PL導入

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2001 64 ラクーンはもともと、コンサルティング 会社に勤務していた小方功氏(三七歳)が 脱サラして興した、中国の食品や雑貨を 輸入する貿易会社だった。
創業以来、バ ブル崩壊の煽りを受けて苦戦を強いられ ていたが、九八年春に過剰在庫品の転売 事業、いわゆる「バッタ屋」に近い業態に 方向転換し、さらに同年八月にeマーケ ットプレイス「オンライン激安問屋」(写 真)を開設してから一気に流れが変わっ た。
ネット上でメーカーの過剰在庫品を売 買するという、これまでにないビジネスモ デルが受け入れられ、事業の拡大に成功 し、次第に業績は上向き始めた。
九九年 度には約三〇〇〇万円だった売り上げが 二〇〇〇年度には二億五〇〇〇万円を突 破する見通しだ。
昨年一〇月には「日経 インターネットアワード2000」も受賞 した。
「オンライン激安問屋」の会員登録数は今 年二月に約八〇〇〇社。
取扱 アイテムは衣料品、日用雑貨 など一五〇〇、月間の取引成 約数は約三〇〇〇件に達して いる。
業績不振に悩むITベ ンチャーが多い中で、同社は 着実に成長を遂げている。
「オンライン激安問屋」での 取引の流れを簡単に説明して おこう(図2)。
電子市場「激安問屋」が物流コンペ 佐川急便への委託でコスト削減 ラクーンは過剰在庫品を売買するeマーケット プレイス「オンライン激安問屋」を運営するベン チャー企業だ。
98年の事業立ち上げ以来、順調に 業績を伸ばしてきたが、物流体制は手つかずの状 態だった。
都内3カ所の在庫拠点で自社社員がタ グの付け替えなど流通加工を行っていた。
これを 佐川急便に一括委託する体制に切り替えることで 納期短縮やコストダウンを実現した。
ラクーン ──3PL導入 「オンライン激安問屋」の ホームページ いったん自らが買い取ってから販売してい る点だ。
在庫品を売りに出すメーカーのブ ランドイメージを損なわないよう衣料品で あればタグを外したり、買い手側に不良品 が渡らないよう念入りな検品作業を施す。
買い取りで取引上の責任所在を明確にし て、イメージの良くない既存のバッタ屋と の違いを強調する狙いもある。
徹夜続きの物流現場 これまで買い取った在庫品は都内三カ 所の拠点に運び込んでいた。
拠 点といっても三カ所合計で一〇 〇坪程度のスペースで、物流セ ンターと呼べるほど大それたも のではなかった。
実際、三カ所 のうち一カ所は東京・渋谷の本 社フロアの片隅に商品を山積み している状態だった。
この三拠点に多い時で社員五 人、アルバイト六人の計十一人 が検品や出荷作業に当たってい た。
「オンライン激安問屋」の 立ち上げからしばらくは扱う物 量も少なく、この体制で十分対 応できた。
ところが、取扱件数 と売り上げの伸びとともに、物 流の綻びが目立つようになって きた。
買い取った在庫品が次から次 へ運び込まれてくるが、肝心の 65 MAY 2001 過剰在庫品の処分に悩むメーカー(売 り手側)と、それを廉価で仕入れたいと切 望する中小零細の小売業(買い手側)。
こ の両者の取引を仲介するのが「オンライン 激安問屋」の役目だ。
処分したい商品の 種類、品数、希望販売価格などを売り手 側に確認し、その情報を買い手側に提供。
取引が成立した場合に、相応のマージン を徴収する。
特筆すべきは「オンライン激安問屋」が 単に右から左へ在庫品を流すのではなく、 出荷作業が追いつかない。
特に昨年の十 一月、十二月は取引が増え、作業を担当 する現場、そして本社も大混乱に陥った。
「昨年末は毎日夜中の二時まで出荷作業に 追われた。
本社の社員も総動員で作業を 手伝う羽目になった」と長嶺浩一取締役 企画営業部長は振り返る。
当然、顧客か らのクレームも殺到した。
もともと買い手側の企業に対して「成 約後、商品は早くて一〜二週間、遅くと も一カ月以内にはお届けする」と謳ってい たために、出荷の遅れも深刻なトラブルに 発展することはなかった。
しかし「『ラク ーンの商品は忘れた頃にやってくる。
もう 2000年 5月 2001年 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 (社) 1531 1781 1977 2515 2923 4267 5181 7070 7769 8273 ●「オンライン激安問屋」の会員数は増え続けている 特集 IT物流 ?在庫情報 ?商品発送 ?商品発送 ?発 注 ?情報配信 ?発 注 ?支払い ?支払い 販売側企業 在庫情報 倉 庫 ラクーン 情報処理 倉 庫 購入側企業 小売店 ?検品 ●「オンライン激安問屋」の取引(受発注型販売)の流れ MAY 2001 66 慣れたけどね』とお客様から冗談交じりの 皮肉が込められたメールが寄せられるよう になり、このままでは商機を逃しかねな い」(渡邊りん取締役情報戦略部長)と危 機感は募った。
大手五社で物流コンペ 物流のパンクは予想できないことではな かった。
実際、昨年七月には物流体制見 直しに向けたプロジェクトを発足。
在庫拠 点の集約など具体策を講じていた。
とこ ろが、その集約拠点もすぐに手狭になって しまった。
長嶺取締役は「東京・葛西に 一五〇坪ぐらいのスペースを借りたのだが、 読みが甘かったようで、それでも足りなか った」と反省する。
そこで、再度プロジェ クトを発足した。
この時、小方社長が課したのは大きく 分けて二点。
物流コストを削減すること、 納期を短縮することだった。
「『これだけコ ストを削減するように』と小方社長から具 体的な数値を突きつけられて、今回失敗 したらどうなることだろうと身が引き締ま る思いだった」と長嶺取締役は振り返る。
プロジェクトチームが真っ先に目を向け たのは配送コストだった。
金額は非公表 だが、成約件数の伸びと比例するかたち で、ラクーンの支払い物流費は増え続け る一方だった。
一括委託を条件に、配送料のボリュー ムディスカウントを引き出せないか――。
そう考えて、日本通運、ヤマト運輸、佐 川急便、西濃運輸、福山通運の物流業者 計五社を集め、コンペを開いた。
コンペの結果、パートナーとして佐川急 便を指名した。
長嶺取締役はその理由を 次のように説明する。
「まず提示された運賃が四社に比べて安 かった。
加えて、検品や入出庫の作業を 引き受けることも可能であるという提案内 容が魅力的だった」 「オンライン激安問屋」で売買する一五 〇〇アイテムは数万円の壺から一〇〇円 程度の雑貨までと、多岐にわたっている。
検品の仕方やタグの付け替え方など、商 品によって扱いは異なる。
果たして外部の 業者で対応できるのか。
社内でも庫内作 業に関しては、外注化に反対する向きも あった。
長嶺取締役は「在庫品の仲介業者であ る当社にとって、検品やタグの付け替えと いった流通加工は生命線ともいえる仕事。
この作業の品質が落ちると、顧客にそっ ぽを向かれてしまう。
だからこそ、それま ではコストが掛かっても内製化を維持して きた」と説明する。
実際に、ラクーンが物流業者に求めた 検品、流通加工のレベルは相当高度なも のだったようだ。
作業ノウハウは企業秘密 ということで明らかではないが、打診され た物流業者の中には複雑な作業を露骨に 嫌がる企業もあったという。
しかし、佐川は検品やタグの付け替え を引き受けることに、むしろ前向きだった。
「佐川はもともとアパレル関連の物流に強 く、検品のノウハウには自信があったのだ ろう」と長嶺取締役は分析する。
加えて、佐川から提示された庫内作業 の料金体系がラクーンの心を動かした。
営 業倉庫の賃貸では使用スペースに応じて 賃貸料を請求するかたちが一般的だが、佐 川は作業ごと、つまり「検品一個当たり いくら」という料金設定を提案した。
これ がラクーンの佐川を選ぶ決め手となった。
賃貸料だと毎月決まったコストが固定 費として掛かる。
しかし、「検品一個当た りいくら」という料金設定であれば、コス トが変動費化される。
売上規模の変動に よるリスクを回避することができると判断 したのだ。
結局、ラクーンは配送と庫内作業を一 括委託することで佐川と契約を交わした。
「ほかの物流業者は、月にどのくらいの作 業が発生するか予想もできない荷主企業 長嶺浩一取締役 67 MAY 2001 に対して、作業量に応じた料金を設定す ることに抵抗があったのだろう」と長嶺取 締役はコンペを振り返る。
支払いコスト三〇%削減 今年一月、新しい物流体制が動き出し た。
在庫拠点は京都SRC(佐川流通セ ンター)の一部で、従来の二倍となる約 三〇〇坪のスペースを確保している。
一 部メーカーの商品を除いて、取引が成立 した商品はすべてこの拠点から出荷される。
「オンライン激安問屋」の買い手企業は 左下図で示す通り、全国各地に散らばっ ている。
在庫品を提供するメ ーカー側の企業はある程度、 都市部に集中しているが、買 い手側は中小零細企業が多く、 ○○郡といった遠隔地にまで 分散している。
売り手と買い 手のバランス、作業員のコス ト、配送日数などの要素を加 味してシミュレーションした 結果、京都が拠点の候補地に 挙がったのだという。
新しい物流フローはこうだ。
まず、「オンライン激安問屋」 で売買成立後、ラクーンは京 都SRCに入荷予定明細をデ ータ送信する。
入荷当日、佐 川は商品の入数検品、品質検 品、タグの取り外しなどを行 い、その結果をラクーンに報告する。
ラク ーンは検品結果を踏まえた上で、佐川に 出荷指示を出す。
佐川は指示に従って、商品を仕分け、梱 包し出荷する。
佐川は出荷当日の夕方に 出荷実績データをラクーンに送信。
ラクー ンは出荷完了情報を顧客に送るという流 れだ。
ラクーンの販売管理システムと連動 するかたちの物流情報システムを佐川が新 たに開発し、双方で出荷データのやり取 りをしている。
物流業務の完全外注化によって、ラク ーンは支払い物流費の約三〇%削減に成 功した。
また、懸案だった出荷までのリー ドタイムも大幅に短縮できた。
例えば、オ ークションで落札された商品でも翌日には 顧客の元に届くようになった。
佐川の代 引きシステム「e- コレクト」も利用して おり、代金回収業務からも解放された。
さらに、物流担当者の他部門への配置 転換も進んでいる。
十一人だった物流担 当者は現在四人に減った。
徹夜で出荷作 業に追われていた頃が嘘のように、本社は 平穏な日々を送っている。
「あまりにも早 く仕事が片づくようになって『私はどうす ればいいのでしょうか?』と聞く物流担当 者がいる」(長嶺取締役)くらいだ。
ただし、課題がないわけではない。
繊維 会社出身で倉庫番の経験もある長嶺取締 役に言わせると、商品の在庫管理レベル はまだまだ低いらしい。
「この商売では毎日同じ商品が入荷される とは限らない。
むしろ、同じ商品は二度と 入荷されないと考えたほうがいい。
そのた め、メーカー物流のように品番で商品の在 庫を管理するという手法が適用できない。
例えば、一〇〇円ショップでは同じような 理由で在庫管理を諦めているという話も 聞く。
果たして販売管理システムと連動 させた在庫管理システムの構築が意味の あることなのかどうかまったく分からな い」と長嶺取締役。
しばらくはユニークな ビジネスモデルならではのジレンマと闘う ことになりそうだ。
(刈屋大輔) 特集 IT物流 佐川急便 京都SRC ●「激安問屋」の納品先企業の分布

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