ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年5号
判断学
会社乗取り時代の意味

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 第36回 会社乗取り時代の意味 MAY 2005 68 株式の“持合い崩れ”が進み、日本も本格的な会社乗取り時代に入った。
日本の大企業が生まれ変わるには、外資やファンドなど“解体屋”による大 手術も有効な手段ではないだろうか。
乗取り防衛策 ライブドア対ニッポン放送、フジテレビの乗取り合戦は目 まぐるしく展開しているが、そのなかで自民党の代議士から、 日本もアメリカにならって乗取り防衛策を導入すべきだとい う声が出ており、政府もそれを検討するという。
乗取り防衛策としてポイズン・ピル(毒入り条項)とか、 クラウン・ジュエル(王冠の宝石)、あるいは焦土作戦とか パックマン・ディフェンスなどという言葉が盛んにマスコミ に登場している。
アメリカでは一九六○年代のコングロマリット合併運動で 会社乗取りが流行したあと、八○年代になって敵対的TOB が盛んになり、LBO(借入金による会社乗取り)が大流行 したが、そういうなかで種々の乗取り防衛策が考案された。
しかしこれらの乗取り防衛策は株主平等、株主主権とい う株式会社の原則に反するもので、よほど注意深くやらない と裁判所によって違法判決を受ける。
とりわけ買占めが行 われている途中でルールを変更するのは違法であることが明 白である。
ライブドアに対してニッポン放送やフジテレビがつぎつぎ と打ち出している乗取り防衛策はいずれもゲームの途中での ルール変更であり、アメリカだったら裁判所で違法とされる だろう。
本来、株式の売買は自由で、株主主権というのが株式会 社の原理であり、株式を買占めて会社を乗取るのは自由で あるというのがタテマエになっている。
もし乗取りが嫌であるなら、株式を公開しなければよい。
あるいは株式会社であることをやめるべきである。
株式を公 開しておきながら、会社乗取りを防止しようとするのは本来 矛盾したことである。
この株式会社の原理が日本では忘れられているが、それこ そが大問題である。
安定株主工作で乗取り防止 日本ではこれまで株式を買占めて会社を乗取るという事 件はほとんどなかった。
戦後まもなくの横井英樹による白木 屋、近鉄による奈良電鉄、あるいは三光汽船によるジャパ ンライン社買占め事件などがあったが、ジャパンラインの場 合は会社側が買い占められた株を引き取って乗取りは失敗 に終っている。
それというのも日本では会社乗取りを防止す るために安定株主工作が行われ、それによって株式相互持 合いが大規模に行われたためである。
一九五○年代に起こ った陽和不動産(現在の三菱地所)の株式買占め事件で会 社側(三菱グループ)が買占め株を全株引き取り、それを 三菱グループ内で持ち合ったが、以後、安定株主工作をす るのが経営者の役目だという考え方が一般的になった。
そして一九六○年代になると、今度は資本自由化対策と して、外国資本による乗取りを防止するために安定株主工 作を行い、株式相互持合いを進めてきた。
株主が経営者を選ぶというのが株式会社の基本だが、安 定株主工作というのは経営者が株主を選ぶということであ り、株式会社の原則に反する。
そして会社が相互に株式を持ち合うということは、お互い に資本金を食い合っているということで、株式会社の資本 充実の原則に反する。
そして出資していない経営者が会社 をお互いに支配するというのは不公正である。
このように安定株主工作、それによる株式相互持合いは 株式会社の原則に反することだが、そうすることによって日 本の会社は乗取りを防止してきたのである。
そのような無理がいつまでも続くはずがない。
九○年代に なってバブルが崩壊し、株価が暴落するとともにその矛盾が 露呈し、?持合い崩れ〞が起こった。
そこで乗取りの危険が 生じてきたので、改めて乗取り防衛策が議論されている。
こ れが現在までの動きである。
69 MAY 2005 大企業を解体する 九○年代になってアメリカでも日本でも企業のリストラク チャリングということが大きな問題になったが、これは大企 業が大きくなりすぎたため、それを再構築するということで ある。
具体的には本業と関係のない部門を切り離して売却 する、あるいは本業までもアウトソーシング(外注)すると いうことであり、その際、「選択と集中」ということがモッ トーとされた。
八○年代にKKRなどがやったことはまさにこのリストラ クチャリングを大企業にせまったということで、それなりに 大きい意味があったということができる。
もちろん彼らは所 詮は解体屋であって、新しい企業システムを作ったのではな い。
しかし解体屋がいたから再構築も可能になったといえる。
日本ではいま?持合い崩れ〞によって会社乗取りが行わ れようとしているが、その際KKRのような解体屋が日本に 入ってくることが考えられる。
日本長期信用銀行(現・新 生銀行)をたった一○億円で手に入れたリプルウッド・ホー ルディングスなどもKKRと同じような解体屋であるが、そ れ以外にもヘッジファンド、あるいはプライベート・エクイ ティ・ファームなどという名前の解体屋が続々と日本に進 出している。
外資ばかりではない。
日本内部からもそういうファンドが 生まれている。
ライブドアに先駆けてニッポン放送株を取得 して、うまく高値で売り逃げた村上ファンドなどもその一種 といえる。
アメリカの大企業、あるいは多国籍企業が直接、日本の 会社にTOBをかけて乗取るということも当然考えられるが、 その前にこのようなファンドがまず登場してくるのではない かと思われる。
大企業を解体するといえば恐ろしいことのよ うに思われるかもしれないが、大企業を手術して、無駄をな くすのだと考えれば、それは理に適っているといえる。
おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『最新版 法人資本 主義の構造』(岩波現代文庫)。
『野蛮な来訪者』 八○年代のアメリカで大きな話題になったのがKKR(コ ールバーグ・クラビス・ロバーツ)によるRJRナビスコの 乗取りである。
RJRナビスコというのはタバコ会社として 有名なレイノルズがビスケットなどの食品を作っているナビ スコを買収してできた大企業だが、これをロス・ジョンソン という社長がLBOで乗取ろうとした。
借入金によって資 金を調達し、このカネで経営者が自社の株式を買占めて会 社を乗取るというものである。
これに対してLBOの専門会社ともいうべきKKRが対抗 ビッドを出し、これがRJRナビスコを乗取った。
KKRも 借入金で資金を調達して会社を乗取ったのだから、その借入 金を返済しなければならない。
そこでRJRナビスコをバラ バラにして売り飛ばし、それで得たカネで借入金を返済した。
この事件を取材したブライアン・バローとジョン・ヘルヤ ーという二人の「ウォールストリート・ジャーナル」の記者 が『バーバリアンズ・アト・ザ・ゲート』という本を書いて 大きな評判になった。
この本は日本にも訳され『野蛮な来 訪者』という題で出版されたが、題名の意味はかつてローマ 帝国を滅ぼしたゲルマン族はバーバリアンといわれていたが、 それがローマ帝国の城にあるゲートを打ち破って侵入してき たということである。
KKRというバーバリアンがアメリカの大企業の城を打ち 破ってそれを破壊しているという意味である。
RJRナビスコはバラバラに解体されて売り飛ばされたが、 しかしそうすることによって企業の値打ちは上がり、KKR は儲かったのである。
ということは大企業が余りにも大きく なりすぎているので、これを解体して売り飛ばした方が効率 的であるということを意味している。
その点でKKRは大企業の解体屋としての意義があった ということができる。

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