ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年4号
ケース
ハマキョウレックス── 現場管理

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2001 46 今年二月に東証二部上場を果たし たハマキョウレックス。
静岡県の地 場のトラック業者だった同社は、小 売業の一括物流センターの運営に乗 り出すなど、3PL(サードパーテ ィー・ロジスティクス)業者への転 身を進めている。
平成五年にイトーヨーカ堂向けセ ンターを立ち上げたのを皮切りに、 平和堂、ファミリーマートなどの業 務を相次いで受注。
以来、業績は右 肩上がりで推移しており、その急成 長ぶりは物流業界の注目の的だ。
二 年後の二〇〇三年三月期の連結売 上高は二〇〇〇年三月期の二倍であ る二三〇億円を掲げている。
同社を率いる大須賀正孝社長はト ラック一台から会社を興した叩き上 げの名物経営者。
「部下が辞めるの は無能な上司の責任」「採用するの は物流のプロではなく、素人のほう がいい」等々、独自の経営哲学で会 社をここまで育て上げた。
その大須賀社長が「当社の躍進の 原点はここにあり」と自薦するのが 静岡県磐田郡浅羽町にある浅羽営 業所(写真1)だ。
平成九年開設の同営業所は小売 業向けの一括物流センターで、地元 の遠鉄ストア、つるみといった小売 業の約一五〇店舗に加工食品、菓 子、日雑品などを供給している。
セールスポイントは「当日受注、 当日納品」という過酷な物流条件に もかかわらず、ミスなく、そしてロ ーコストでサービスを提供している 点。
入荷から出荷までのフローや作 業員の管理方法など、同センターが 蓄積してきたオペレーションのノウ ハウを少しでも盗もうと同業の見学 者が後を絶たない、小売業?お墨付 き〞のセンターである。
「センター見学を有料化しようか と思っている」 そう冗談を飛ばすのは、同センタ ーで陣頭指揮を執る松浦久義取締役 日替わり班長制度で自主性促す 辣腕センター長のパート活用法 パートタイマーの“他力本願”を許さない「日替わり班長制度」 を導入した。
毎日の昼礼でパート班長は作業終了目標時間を宣言す る。
未達成の場合は原因究明のため、その日のうちにチーム内で議 論。
問題解決を先送りしない。
センター長は口出しせずに黙ってい る。
この作戦でパートタイマーからの自発的な改善提案を引き出し ている。
ハマキョウレックス ── 現場管理 写真1 ハマキョウレックスの浅羽営業所 47 APRIL 2001 浅羽営業所長。
大須賀社長にスカウ トされて、平成六年に入社。
平成七 年に稼働した平和堂多賀流通センタ ーの立ち上げに参画して、その後、 浅羽営業所の切り盛りを任された。
以来、センター長を続けている。
メーカーで生産管理や生産技術に 携わっていた経験もあり、「いわゆ る現場の改善というやつは得意中の 得意。
ABC(活動基準原価計算) 分析のような細かい作業が大好き」 (松浦取締役)だという。
大須賀社 長から声が掛かったのは、改善やコ スト管理のノウハウを取り込むため だったのではないか、と自己分析す る。
「今日はインスタントコーヒー一 個のピッキング作業にいくら掛かっ た」というように作業ごとに細かく コストを計算し、それを積み上げて 日次で収支を算出して報告する「日 次決算」の仕組みを同社に取り入れ たのも松浦取締 役だった。
黙って見てい るのが一番 現場の無駄を 絶対に許さない コストカッター ――。
松浦取締 役にそんなイメ ージを抱くかも しれない。
とこ ろが、実際の姿 はコストカッタ ーでも鬼軍曹で もない。
「年に 数回雷を落とす ことはあるが、 普段はな〜んに していないし、 な〜んにもいわ ない」(松浦取 締役)極めて温 厚なセンター長 である。
しかし、実は 現場にまったく 興味がなさそう に振る舞うこと こそが松浦取締 ●コンベヤ:全長778m ●小物ソーター:51シュート ●方面別仕分けソーター:16シュート ●垂直搬送機:3基 ●荷物用エレベーター:1基 ●テーブルリフター:3基 ●架台(中2階):一式 ●パレットトラック:一式 ●ケースラック:一式 ●冷凍自動倉庫(−25℃)仕様 パレットラック 小物ソーター 冷凍予備倉庫 荷捌エリア(8℃) 冷凍自動倉庫(−25℃) ケースラック ケースラック 方面別仕分けソーター パレットラック パレットラック 食料品倉庫(8℃) パレット平置 破材コンベヤ 中2階 マテハン設備 浅羽営業所(浅羽物流センター)の概要 3F 1F 松浦久義取締役浅羽営業所長 APRIL 2001 48 役の作戦なのだ。
「最低限の作業マ ニュアルを用意して、『あとはよろ しくね』と丸投げして、しばらく黙 っている。
すると、ある時期になる と、パートさんのほうから『休憩所 の掃除は当番制にしたほうがいい』 とか自然発生的に改善提案が出てく る。
それまでは口出ししたくなって も我慢する」(松浦取締役)という 手法だ。
管理する側の視点よりも、実際に 現場で毎日働いている人たちのほう が、細かいところにまで目が届く。
管理者が大きな声を張り上げて「あ れやれ、これやれ」と圧力をかける と、現場は言われたことだけしかし なくなる。
改善は現場に委ねるのが 一番。
それが松浦取締役の運営スタ ンスだ。
「改善への成功報酬、つまり金一 封といった?餌〞はまったく与えて いない。
それでもパートさんは協力 してくれる。
問題点を指摘し、それ を改善してくれたら、素直に『あり がとう。
よくやってくれたね』と褒 めてあげること。
人格を認めてあげ ることが大切。
パートさんだからと いって無下に扱わない」ことが現場 管理の成功の秘訣だと松浦取締役は 披露する。
実際にセンター内で働くパートさんの動きは機敏だ。
にこやかな笑顔 を絶やさない。
不意に松浦取締役が 現場に出没しても、ドキッとした表 情は見せない。
上司に怒鳴られない ようにしているという受け身の姿勢 ではなく、自分から率先して仕事に 取り組んでいる様子が窺える。
新人にも班長を任せる そもそも、こうした自助の働く現 場づくりをリクエストしたのは「ト ップダウンによるコスト削減には限 界がある」というのが持論の大須賀 社長だった。
その大須賀社長が提案 したアイデアの一つが「日替わり班 長制度」で、浅羽営業所はそれを実 践している。
同営業所では入庫、ピッキングな ど作業ごとに八つのチーム(一チー ム一〇人)を編成。
各チームのリー ダーが班長なわけだが、この班長の ポストをパートタイマー全員が日替 わりの輪番制で、月に何回か担当す るルールを設けている。
物流現場ではベテランのパートタ イマー、もしくは社員が班長を務め るのが一般的だが、ハマキョウでは 右も左もわからない新人であっても 敢えて班長職を任せるようにしてい る。
松浦取締役は「固定の班長が偉 そうなことをいったりすると、『あ いつは何いってんだ』と不満が噴出 して、たらたら仕事をするようにな る。
ところが、いずれ自分が班長を 務める時のことを考えると、その日 の班長に協力しないわけにはいかな くなる。
だから自然とチームワーク が芽生える」と輪番制の効用を説 明する。
班長の主な仕事は現場環境の点検作業だ。
毎日正午に担当エリアの清 掃状況や設備の損傷状況など一〇数 項目を確認する。
例えば、入庫エリ アの班長は、 ?名札の正しい装着はできている か ?挨拶はキチンとできているか ?整理・整頓はできているか ?ゴミ箱はキチンと管理されてい るか ?清掃はされているか 作業終了目標時間を自 分たちで“宣言”して いるため、動きは機敏 浅羽物流センターの作業風景 49 APRIL 2001 ?照明・空調は正しく管理されて いるか ?エアコンの温度設定は二六度が 保たれているか ――をチェックする。
続いて、コン ベアやソーターなどマテハン機器の 稼働状況を点検する。
終了後、記録 簿にサインし、問題点があれば直ち にセンター長に報告する仕組みだ (写真2)。
そして、日替わり班長のもう一つ の仕事が昼礼でチームのその日の作 業終了目標時間を自己申告するこ とである。
営業所では午前中に寄 せられた出荷オーダー数を昼礼で発 表している。
各班長はそのオーダー 数から作業量を予測し、「今日は何 時に終わります」と全員の前で終 了予定時刻を公約しなければなら ない。
「格好をつけて無理な目標時間を 宣言すると、チームメイトから非難 される。
逆に余裕をもった時間を宣 言すると、私や社員から見直しを求 められる。
この仕事はなかなか神経 を使うと思う」と松浦取締役は説明 する。
公約した数字は現場のホワイトボ ードに貼り出される。
作業終了後、 班長はその日の結果をシートに記入 する。
仮に目標をクリアできなかっ たとしても、パートタイマーにペナ ルティーが科せられるわけではない が、その代わりに何が原因で作業が 遅れたのか、その日のうちにチーム 内で反省会を開き、分析結果を報告 することが義務付けられている。
ちなみに、取材前日の三月一日は 小物ピッキングで六分、ケースピッ キングで二〇分、小物ソーターで四 分、ケースソーターで一五分、予定 時刻より早く作業を終えている(写 真3)。
こうした作業を毎日繰り返すのは、 パートタイマーのモチベーションを 高めると同時に、コスト意識を根付 かせるためだという。
「作業が早く終わった時は『今日 はお陰様で作業一件当たりのコスト がいくら安くなった。
もう帰っても いいよ』と労いの声を掛けるように している」と松浦取締役。
そうする ことで、自分も会社に貢献している んだ、という満足感をパートタイマ ーに与えているわけだ。
狙うは宴会付き温泉旅行 現場重視の大須賀社長から「ハマ キョウの数ある拠点の中でもトップ レベルに位置する模範センター」と 太鼓判を押されている浅羽営業所で は現在、社員とパートタイマーが一 丸となって、「誤納ゼロ連続二〇〇 日達成」という目標に向かって突き 進んでいる(写真4)。
前回は一一三日でストップしてし まったが、今回は一六一日まで記録 を伸ばしている。
松浦取締役は「ご 主人の転勤など特別な事情がある場 合を除けば、辞める人はほとんどい ない。
センター立ち上げ当初からの メンバーがほぼ半分。
残りの半分の パートさんもベテランの域に入って きた。
今回はいけそうだ」と薄ら笑いを浮かべる。
「これだけ会社に貢献しているの だから、二〇〇日を突破したら、社 長に金一封のご褒美をおねだりして もバチは当たらないはず」と松浦取 締役。
今のところ、営業所全員で行 く宴会付き温泉旅行がご褒美の第一 候補として挙がっているという。
残り三九日――。
順調にいけば、 この雑誌が発行される四月上旬には 大台突破に向けたカウントダウンが 始まっているはずだ。
(刈屋大輔) 写真2 日替わり班長による場内点検記録簿 ※班長は清掃状況や機器の稼働状況を確認してサインする 写真3 ホワイトボードに貼り出される目標シート ※3月1日はケースピッキングで20分の短縮に成功した 写真4 「誤納ゼロ」は3月 1日で161日を達成した

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