ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年4号
キーマン
物流キーマン「私の仕事、私の情報源」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2001 68 ――ずっと日本ロジスティクスシ ステム協会(JILS)の要職に ついていますね。
いまJILSがやっていて、僕 もかかわっているロジスティクス 情報化推進会議(CLIP)では、 中間流通が担っている情報変換の 部分を、標準EDIに統一しよう としています。
会社として標準化 を進めてもらうよう、いま大手小 売り各社のトップを口説いている ところです。
今年の六月ぐらいに は、業界団体も巻き込んで標準化 のルールを決めてもらうつもりで す。
何も一億円も二億円も必要とい う話ではありません。
せいぜい多 くても二〇〇万円。
これすらでき ないような会社は、潰した方がい いという程度の額です。
この標準 化を実現するだけで多くの問題を 解決できます。
中間流通の機能を 本来、誰がやるべきかという点は、 それから考えればいいんです。
――理屈は分かりますが、現実に は簡単ではありませんね。
これまで標準化が進まなかった 理由も、まさにそこです。
情報変 換とか物流とか販促などの中間流 通の機能を、それぞれ機能別に考 える必要があります。
まず大きな 意味で、物流を機能分離するべき です。
おおむね理解されているこ とですが、流通は商流+物流であ るという視点を、もっときちんと 掘り下げる必要があります。
標準化や合理化によって物流の 効率化はできるけれど、実はそれ を阻んでいるのは商流に関するし がらみだということを理解すべき なんです。
メーカーの業務につい てもそうです。
工場での生産業務 というのは実は半分は物流なんで すね。
しかし、物流は二次的な業 務としてしか扱われてこなかった。
そんな位置付けでは、物流の合理 化が進まないのは当然です。
ただ、僕みたいな人間は非常に 少数派です。
こうやって標準化の 重要性なんかを主張し続けている と、そんなの当たり前だとか、話 が細かすぎるとか言われてなかな か理解されない。
そんなことをし ても売り上げは伸びないとか言わ れてね。
でもね、上手くやればこ の分野は宝の山だという確信を僕 は持っている。
――ロジスティクスに関する情報 ――トヨタがロジスティクス事業 に本格参入した狙いは。
従来、トヨタの産業機器部門は フォークリフトと倉庫内物流に傾 注してきました。
フォークに関し ては最近二年間を見ると、ほぼ四 〇%のシェアを確保しています。
しかし今後、この分野の大幅な伸 びは望めない。
我々のビジネスを 拡大していくためには、もう少し 周辺業務に手を広げる必要がある。
そう考えてロジスティクス事業に 力を入れ始めたんです。
ただし、マテハン機器の何もか もを自社でやろうと考えているわ けではありません。
トヨタは九〇 年頃、バブル期の人手不足の際に、 工場内のさまざまな作業のハンド リングを自動化しようとした時期 がありました。
ちょっと極端に走 ったんだね。
人手の世界から、い きなり自動化機器の世界にいった わけですから。
その時の経験から、事業として 産業機器の分野を見たとき、本当 に競争力のある部分だけに集中し た方がいいということになった。
そこで着目したのが流通のマテハ ン分野です。
ラックやパレタイ ズ・ロボットなどの、いわゆる保 管系ですね。
できれば近いうちに、フォーク の売上比率が八割、保管系が二割 という売り上げ構成に持っていき たいと考えています。
つまりフォ ークの売上高を維持しながら、二 割は業容拡大によって確保したい ということです。
――マテハン専業メーカーとの最 大の違いは。
自動倉庫などの専業メーカーと は、棲み分けが可能なのではない でしょうか。
確かに一時期、我々 「標準化を説き続けるミスター?EDI〞」 東芝物流 大久保秀典 常務 トヨタ自動車 佐藤則夫取締役 も自動倉庫などを手掛けていまし た。
しかし、今後は保管系に注力 していくつもりです。
小型フォー クとラックなどの組み合わせによ って、いかにトヨタ的な物流を提 案できるかが課題です。
無人化を 目指すとか、製造業のマテハン全 てをカバーするという発想とは、 少し力点が異なります。
――トヨタ生産方式のコンサルテ ィングも行っていますね。
この分野で事業を成立させる のは大変です。
ときどき頼まれて お手伝いはしていますが、それも 原価です。
コンサルティングで儲 けるつもりはありません。
ただ、ある倉庫を建てるときに、 どうやってモノを流せば効率的か、 あるいはラックと自動化機器をど う使い分ければいいのか、といっ たノウハウについては我々の経験 が活きてきます。
そこで全体のレ イアウトを提案し、必要な設備 を我々が納入するということはあ り得ます。
もっとも、トヨタ生産方式とい うのは、本当は目に見えるもので はありません。
物事の考え方であり、仕事のやり方のことですから。
運用の思想でありマネジメントな んです。
その点を十分理解した上 で、仕事のやり方や仕組みをすべ て変えていかないと、できない理 由ばかりが並べられることになる。
理屈を教えるのは簡単ですが、ト ップ以下、皆がその気にならなけ れば実際には成功しませんね。
「トヨタ生産方式という?思想〞で運用する」 源は。
JILSの委員会や講座などか ら得る情報が大きいですね。
あと は社内の仕事をやっていれば、日 常的にさまざまな情報が入ってき ます。
正直なところ、メディアの情報はあまり頼りにしていません。
というのも、私が取り組んでいる 標準化のようなテーマは先例のな いことが多いからです。
69 APRIL 2001 物流キーマン 「私の仕事、 私の情報源」 ――トランコムは共同配送ベンチ ャーというイメージが強いのです が、最近では求貨求車事業が好調 のようですね。
昨年度の売り上げが四〇億円。
今年の三月期には五五億円を見込 んでいます。
当社が求貨求車事業 を始めたのは、ある人との出会い がきっかけでした。
結局、その方 に当社のこの分野での事業の基礎 を作ってもらうことになるんです が、彼は個人で?水屋〞をやって いたんです。
当時のトラック業界 の認識では、ミズヤ稼業は決して イメージのいいものではなかった。
いわばアウトローです。
輸送秩序 の確立という点では、運賃の値崩 れを引き起こす張本人と位置付け られていました。
しかし私はね、安くてもできる というのはスゴイことだと思った んですよ。
お客さんが値引きを要 請するのは当然だし、運輸会社に とっても帰り荷の確保は切実な課 題です。
見方によっては、きわめ て経済原則にのっとったビジネス です。
「これだ!」と思いましたね。
――マッチング作業はどうやるん ですか。
電話です。
求貨求車事業を当社 では物流情報サービスと呼んでい るのですが、現場は人海戦術です。
一言でトラックといっても、砂利 を運ぶものから、食品を運ぶもの まで様々です。
システム化しよう にも例外事項が多過ぎる。
もちろ ん最近のウェブを使った求貨求車 システムには非常に興味があるん ですよ。
当社もインターネット上 でマッチングするための準備を進 めています。
IT関連の子会社で あるトラフィックアイで、具体的 な事業化モデルなどを検討してい ます。
しかし、なかなか難しい。
やる以上は商売にならなければ、 意味がありませんから。
――事業アイデアの源は。
うーん。
僕はね、本も読まない し、新聞もさらっと見るだけです。
あんまり勉強しない。
ただし、マン ガチックな話ですけどね、必ず正 義は勝つと考えているんです。
よう は鞍馬天狗ですよ。
机上で考えて 正しいと思えるものは、想い続け て行動に移していけば、ほとんど は実現できると信じているんです。
当社が手掛けている事業は、す べて基本的にはトラックの台数を 少なくしようという話です。
同じ 「机上論は正しい、最後に正義は勝つ」 トランコム 武部芳宣 社長 量の荷物を少ないトラックで運ぶ ことができれば、荷主にとっても、 地球環境にとってもいい。
これは 正義です。
ようはそういうことで すよ。
社会的にも、組織的にも、 ロジスティクスの置かれている 立場はいまだに高いとはいえ ません。
企業経営を大きく左 右するテーマにもかかわらず、 そこに光が当たっていない。
こ れは、やっぱりおかしい。
彼ら に光を当てることが私の使命 だと、そのときに思いこんじゃ ったんですね。
それが私の基 本的なスタンスです。
ですから、その後に私が手 掛けた物流センターでは、そ の辺のオフィスに負けないぐ らいの環境を作りました。
ち ょっとやり過ぎたかもしれない けどね。
しかし、そうすること で物流現場の生産性も上がる はずだというのが、そもそも私 のセンター設計のコンセプト なんですよ。
――ロジスティクスビジネスの魅 力とは。
この世界は、混沌とした未 整理の状態にあります。
従来 の企業組織のような縦割りで はなく、水平統合式の考え方 が求められる世界でもある。
で すから物事を横断的に見てい く面白さがあります。
未開拓 というと言い過ぎですが、手 付かずの部分が多く残されて いるという意味では非常にチ ャレンジャブルな分野です。
――日頃、どんな情報源を活用し ていますか。
全体的な将来の動向を見極 めるためには海外の文献が一 番、参考になりますね。
米C LMの報告書や、一般メディ アのなかのロジスティクス関 連の記事を拾い読みしていま す。
ただ国内での現実の動向 を知るためには、それだけでは ダメです。
日本ロジスティク スシステム協会や日本能率協 会などが主催する講座や研究 会を参考にしています。
私の専門はどちらかという とマーケティング寄りのロジス ティクスですから、日経流通 新聞なんかも参考にしていま すね。
現実的なビジネスに関する情報は、同業のコンサル タントから入手することが少 なくありません。
意外に狭い 世界ですから、「こんな案件が あるんだけれども手一杯なん で助けて欲しい」といったこ とが結構あるんです。
大手の コンサルティングファームから の相談も少なくありません。
――なぜ長年、ロジスティクスに こだわってきたんですか。
私が物流に携わってもう二 十数年ですが、どうしても忘 れられない光景があるんです。
駆け出し物流マンとして、あ る販売会社に現場の調査に行 ったときの話です。
ちょうど 一カ月間の販売活動を終えた 営業マンが、予算達成を祝っ て打ち上げパーティを開いて いました。
しかし、同じ時間 に地下の倉庫では、受注案件 を処理するために物流マンが 懸命に作業をしていました。
こ の光景を見たとき、これでは イケナイと思いました。
「倉庫番に光りを当てるという使命感」 東京ロジスティクス研究所 重田靖男 社長

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