ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年5号
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西濃運輸

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2005 56 市場評価が低い中期計画 特別積み合わせ(特積み)輸送の老舗大 手である西濃運輸は、トヨタ車の販売など輸 送事業以外も手掛けているが、コアビジネス は商業小口貨物を中心とした輸送事業であ る。
同事業の売り上げは三〇〇六億円と、全 体の売上高の七二%に達する。
営業利益ベ ースでも、同事業が全体の六〇・三%を占め ており、輸送事業以外では、物品販売業二 四・一%、情報関連事業マイナス〇・八% (赤字)、その他一六・三%にとどまっている。
詳細開示されている単体での売り上げ構成 比は、一般商業貨物六九・〇%、宅配便(個 人間)四・一%、ミニ便(企業間宅配便)一 四・九%、引越一・二%、貸し切り五・八%、 航空・海上取り扱い二・六%、その他二・ 五%。
宅配便以外の企業間小口貨物が収益 の柱と言える(二〇〇四年三月期実績)。
資本市場における同社の評価は決して高く ない。
株価は二〇〇一年三月の四二九円をボ トムに、現在は一〇〇〇円台にまで戻ってい る。
とはいえ、ピーク時(八九年八月)の三 五%程度にとどまっており、過去一年はボッ クス圏での株価推移にある。
株価バリュエーション面でみると、株価純 資産倍率(PBR)で一倍を割り込み、解 散価値を下回る評価となっている。
他社との 比較においても、西濃運輸の時価総額は二 〇〇〇億円と、福山通運(時価総額約一三 〇〇億円)を上回るが、上位二社(ヤマト運 輸約七〇〇〇億円・日本通運約六〇〇〇億 円)から大きく引き離されている。
同社は今年二月に二〇〇六年三月期から 二〇〇八年三月期を対象とする新中期経営 計画「G5プラン」を策定、発表した。
?商 業小口・路線混載事業、?ロジスティクス 事業、?情報・販売事業――を三本柱とし て位置付け、最終年度の二〇〇八年三月期 で営業利益率五%、売上高四六五〇億円、営 業利益二三五億円という目標を掲げた。
二〇〇五年三月期の会社計画からみれば、 売上高で年率三・四%の成長、営業利益で 年率二三・四%成長、営業利益率で二ポイ ント向上と収益の好転を目論んでいることに なる。
しかしながら、現状では中期計画に対する市場の評価は総じて芳しくない。
第一の要因はコアの輸送事業にある。
中期 計画では年率四・一%の売り上げ増を計画 しているが、足元からして状況は厳しい。
運 賃の下落に歯止めが掛かっておらず、トン当 たり運賃は第3四半期(二〇〇四年一〇〜 十二月期)も前年同期比で一・六%低下(単 体ベース)した。
数量の増加で吸収している ものの、売り上げは二・三%増(連結)にと どまっている。
今年一月以降も運賃単価は低 下トレンドにあるようだ。
景気が足踏み状況にある中、特積み輸送 市場の需要量の増勢がやや弱まっていること、 さらに数量確保を目指して競合相手が価格 第12回 西濃運輸 西濃運輸の株価はピーク時の三五%の水準にとどまっている。
今期にスタートした中期経営計画では今後の重点課題として特 積み事業や3PL事業、自動車販売事業の強化を掲げたが、い ずれも事業拡大の道筋は不透明だ。
保有する資産や輸配送ネッ トワークを生かし切れていない物流企業として、同社はM&A の標的となる可能性も否定できない。
久保雅裕 メリルリンチ日本証券 シニアアナリスト 57 MAY 2005 引き下げを進める可能性などを考えると、膨 らみつつある傭車料の増加を抑制し、採算を 犠牲にしないかたちで売り上げ成長率を向こ う半年で加速することは難しいであろう。
より先に目を転じても、特積みを核とした 輸送事業の成長シナリオは描きにくい。
国内 景気の安定成長を前提としても、在庫リスク 軽減や顧客(着荷主)満足向上に向けた輸 送の多頻度小口化(法人発貨物の非宅配便 から宅配便へのシフト)、大企業の後を追う 中小荷主企業の海外生産移転が続くと見込 まれており、国内の特積み需要の成長性は極 めて低いと予想される。
一方で、特積み輸送 事業者間の競争だけでなく、低コストを武器 とした地域中堅輸送業者との競争にも晒され ており、供給過剰の解消は難しいであろう。
また、サービスの差別 化も大手との間では難 しい状況にある。
第二の要因はロジス ティクス(3PL)事 業である。
収益の三本 柱の一つに掲げている が、現在の売り上げ規 模は、関連する運賃収 入を含めて五〇〜六〇 億円程度と小さい。
日 本通運や日立物流のよ うな大手、あるいは、急 成長を続けるハマキョ ウレックスのような専業 プレーヤーから、事業 展開は大きく遅れている。
3PL事業を拡大するにあたって、重要な 要素であるトラックレコード・ブランドバリ ュー(実績・定評)が必ずしも十分ではない。
自前の海外拠点を縮小した現況下において、 中国関連貨物を中心とした海外関連3PL に強みがあるわけでもない。
労務管理面での 優位性も乏しい。
中期計画において見込まれ ている一一〇億円の売り上げ増は、日本の3 PL市場が急ピッチで広がっていることを考 えても、かなり高いハードルと言えよう。
自動車販売はリスク増 第三の要因は自動車販売業にある。
同社 は、二〇〇一年に持分法適用会社であった 自動車ディーラー(トヨタカローラ岐阜、岐 阜日野自動車)に対する出資比率を引き上 げ、〇四年十一月には更なる再編を発表した。
これにより、〇五年一〇月までに、ディーラ ー子会社四社(トヨタカローラ岐阜、岐阜日 野自動車、ネッツトヨタ岐阜、ネッツセント ロトヨタ岐阜)が、全て完全子会社化(一〇 〇%出資会社化)されることになった。
こうした再編を踏まえて、今回の中期計画 では、自動車販売業で〇八年三月期の営業 利益一八億円、向こう三年間年率十一・五% の営業増益を目指している。
しかし、レクサ ス店のオープン(〇五年八月の予定)効果な どを勘案しても、成熟した国内自動車市場の 下、達成が容易なターゲットとは思われない。
さらに、より本質的な問題は、自動車販売 業を手掛けることが、リスクを増やす反面、 収益性の顕著な向上につながるとは思えない 点にある。
今回、完全子会社化されるディー ラー四社の平均ROA(総資産営業利益率) は二・六%。
西濃の輸送事業の同二・二% (二〇〇四年三月期実績)と大差はないうえ に、シナジー効果は乏しい。
その一方で、経 営資源が分散するリスク、トヨタ車の販売ス ケジュール・新車の競争力といった外部要因 に晒されるリスクが増加することになる。
同社がコアとする特積み輸送を取り巻く収 益環境は厳しさを増していくはずである。
そ うした前提に立てば、今回の中期計画におい て示されている小口貨物輸送の強化、3P L需要への対応、自動車販売業の収益取り 込み策では不十分との印象が強い。
中期計 画からさらに踏み込んだ、事業の再構築、ス ピード感ある事業展開が必要ではなかろうか。
そうでない限り、株価純資産倍率一倍割 れのバリュー株として、景気・内需回復の期 待が高まる際に買われる域を出るまい。
さら に言えば、ネットワーク・資産を活かし切れ ていない物流企業として、昨今ホットな話題 となっているM&A(企業の買収合併)の標 的になるリスクも他人事ではなかろう。
マネ ジメントの手腕に注目、期待をしたい。
くぼ・まさひろ 八八年東京大学法学部卒。
九 一年ジョージタウン大学大学 院(MBA)卒。
大和総研、ク レディスイス信託銀行を経て、 二〇〇〇年よりメリルリンチ 日本証券。
九三年よりアナリ ストとして運輸業界を担当。
著者プロフィール 西濃運輸の過去10年の株価推移

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