ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年12号
特集
SCMの現場 米国編 米CLM 年次総会訪問記

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2002 12 『米CLM 年次総会訪問記』 ITバブルの崩壊と「9・11」を経て、米国のロジスティクスはどう 変わったのか。
3PLは、その後も拡大を続けているのか。
SCM(サ プライチェーン・マネジメント)の最前線では今、何が最もホットな テーマになっているのか。
世界最大のロジスティクス研究団体、米 CLMの年次総会を訪ね、最新事情を探った。
本誌編集部  ルールが変わった 今年九月二九日から一〇月二日までの四日間にわ たり、世界中のロジスティクスの専門家が米サンフラ ンシスコに顔を揃えた。
市の中心に位置するモスコー ン・コンベンションセンターでCLM(Council of Logistics Management: 米ロジスティクス管理協会) の年次総会が開催されたからだ。
CLMは世界に一〇〇カ所を超えるラウンドテーブ ルを展開し、実務家、学者、コンサルタントなど、一 万人ほどをメンバーに抱える同分野最大の研究団体だ。
東アジアでは中国、香港、シンガポールにラウンドテ ーブルを設置しているが、残念ながら日本にはまだな い。
それでも今回の年次総会には日本からも二〇人余 りが参加していた。
世界のロジスティクス分野のキーマンと直接、コン タクトできること。
そして期間中、各部屋に分かれて 行われる最先端のテーマセッションの受講が、参加者 たちのお目当てだ。
今年は三九のトピックについて、 延べ三〇〇余りのセッションが実施された。
これと並 行して大人数を収容する中央会場では、著名人の講 演や各種の表彰、夜にはディナーパーティーやアトラ クションが催された。
「ルールは変わる‥‥」。
それが今年の年次総会のテ ーマだった。
テーマに合わせてUPSの会長兼CEO のマイケル・L・エスキュー氏が「ゲームのルールが 変われば、ゲームの本質も変わる」という少々難解な タイトルで、基調講演を行った。
会場をびっしりと埋 め尽くした出席者を前に、氏は景気が下り坂にある時 のマネジメントの可能性と、グローバルなSCMの重 要性を説いた。
この基調講演に象徴されるように今回の総会は、I Tバブル崩壊後の不況と同時多発テロの影響を色濃 く反映したものとなった。
約五〇〇〇人という参加人 数はテロの直後に開催された前回と比較すれば増加し たものの、例年に比べれば低調だ。
それだけロジステ ィクス担当者を送り出す企業側に余裕がなくなってい るようだ。
毎年、日本から同総会に参加している日本 ロジスティクス研究所の藤巻二三年所長は「前回は 参加人数こそ少なかったが、テロ事件を意識して制服 姿で出席する軍人も多く、それなりにテンションは高 かった。
しかし今年は全体的に活気がない。
やはり不 況の影響だろう」と感想を述べる。
昨年まで、大きな注目を集めていたサプライチェー ン・プランニングソフト(SCP)や、eマーケット プレースに対する熱が、今回はすっかり冷めていた。
これに代わり即効性のあるWMS(Warehouse Management System: 倉庫管理システム)やTMS (Transport Managements System: 運行管理システ ム)に参加者の興味は移っていた。
ロジスティクスのセキュリティ機能への関心が高ま っていることも伺えた。
同時テロは、従来のERPシ ステムをベースとしたトップダウン型の組織が、予想 外の事態に直面した時に機能停止に陥るという教訓 を残した。
その反省から、中央集権型に代わる分散処 理型の組織論として「アダプティブ・サプライチェー ン」が脚光を浴びていた。
この組織論は、冷戦後の軍事状況に端を発してい る。
米国をはじめとする西側諸国の主要な仮想敵は今 日、地理的に明確な国家という対象から、地下に潜 伏し、目に見えないテロ活動組織へと移っている。
こ れに伴い従来の軍隊の中央集権型組織とトップダウン の命令系統は機能しなくなりつつある。
テロや奇襲のような突然の変化を最初に感知するの Report 13 DECEMBER 2002 特 集 《米国編》 は最前線の現場だ。
しかし中央集権型の組織では、現 場で感知した異常をいったん中央に情報として送り、 指令が下るまで判断を待たなくてはならない。
また、 中央側でも、まず敵の攻撃による被害を把握し、利用 可能なリソースによる対応策を検討する必要がある。
それだけ初動までの時間がかかり、勝機を逸する可能 性が高い。
これに対してアダプティブ・コンセプトでは、大き く権限が現場に委譲される。
突然の事態に直面した 現場が自律的に判断することで、環境変化に素早く 適応する。
同時に地理的に分散している現場をネット ワーク化することで、全体としても統合された組織を 目指す。
現在、米国と英国の軍隊で、このコンセプト に基づく改革が実施されているという。
キーワードは「ビジビリティ」 アダプティブ・サプライチェーンは、同じコンセプ トを民間に転用しようとするものだ。
物流センターや 店舗など、サプライチェーンの最前線で発生する様々 な事態を、現場で自律的に処理する形のSCEM(サ プライチェーン・イベント・マネジメント)の実現を 図る。
そこで必要になる機能が「ビジビリティ ( Visibility: 可視性)」だ。
これが今回の総会の最大 のキーワードだった。
これまで比較的地味な分野だったTMSに、にわか にスポットライトが当てられることになったのも、T MSがサプライチェーン計画系ソフトなどに比べ、手 堅く導入効果を得られるということに加え、その貨物 追跡機能などが、ビジビリティの実現に不可欠なもの だという認識があるからだ。
交通トラブルや港湾スト、生産の遅れ、受注ミスと いったサプライチェーン上の突発的なイベントに機敏 に対応するには、今どこで何が起きているのか、常に 把握できる体制が必要だ。
しかも米国企業がSCM の対象とする範囲は年々、拡大している(図1)。
規 模や業態の異なる多様な現場を情報ネットワークで結 ぶにはインターネットが極めて有効なツールになる。
和製WMSベンダー、シーネットの小野崎伸彦社 長は「今回の総会に出席して確かに米国のITブーム が去ったことは痛感した。
しかしインターネットの活 用については、いっそう加速していることも分かった。
恐らく来年中にはソフトウェアベンダー各社が軒並み ビジビリティを全面に打ち出した新製品、つまりロジ スティクス情報をインターネットでリアルタイムに共 有するためのソフトウェアを発売してくるはずだ」と 解説する。
既に日本でも、インターネットによる情報提供は3 PLにとっての重要な機能になっている。
日本通運、 鈴与、センコー、ニチレイなどが、自社開発のインタ ーネット情報提供システムを商品化している。
これに対して米国では、3PLが有力なソフトウェアベンダ ーと手を組み、パッケージをカスタマイズする形で同 様のシステムを提供しているケースが目立つ。
3PLに詳しい経営コンサルタント、アームストロ ング&アソシエイツのエヴァン・P・アームストロン グ副社長は「有力3PLといえども今やソフトウェア を完全に自社開発しているという会社は希だ。
当社の 調査によると、3PLに導入されたWMSとしてはE XEテクノロジーズの実績が突出している。
二番手グ ループがマンハッタンアソシエイツ、アキュプラス ( AccuPlus )、プロビア(Provia )などだ」と説明す る(図2)。
同様に米国では、ネットワーク設計の最適化ソフト を含めたTMSでも3PLとソフトウェアベンダーの 右上/基調講演で熱弁をふ るうUPSのマイケル・L・ エスキュー会長兼CEO。
右下/2002年度の「優秀 サービス賞」を受賞したシ ュナイダー社のドン・シュ ナイダー会長。
大会パンフレット 『The Rules are Changing…』 DECEMBER 2002 14 タッグが目立つようになっている。
メンロ、エクセル、 フェデックスなどの有力3PLが活用するCAPS (BAAN)や、ライダー、エアボーン、UPSに導 入実績を持つロジック・ツール(Logic Tools )など が、その代表格だ(図3)。
九〇年代の中頃まで、これらの3PLの多くは社 内に大量のシステム開発要員を抱え、巨額を投じて自 社ソフトの開発を行っていた。
しかしその後、ERP が普及し、ロジスティクス分野で有力パッケージソフ トベンダーが台頭してきたのに伴い、有力3PLはい ずれもソフトウェア開発をそれらのソフトウェアベン ダーに依存するようになっている。
3PLにとって、ITの重要性が減ったわけではな い。
ビジビリティに注目が集まっているように、むし ろ重要度は増している。
しかし高度に専門化し、かつ 急速に進化しているIT分野で、3PLが専門業者 以上の開発レベルを維持するのは困難だ。
一方、IT の専門業者はソフトウェア開発に必要なロジスティク スのオペレーションとニーズの変化について、間接的 にしか知り得ない。
その結果として3PLとITの分 業とアライアンスが進んでいるようだ。
米国3PL市場の変化 九〇年代初頭に台頭した米国3PL市場は今や新 しい局面に入っている。
年々拡大を続けるその市場規 模は二〇〇一年で六〇八億ドル(約七兆円)と、既 に米国物流市場の一〇%以上を占めるに至っている。
現在、フォーチュン五〇〇社の約半数が3PLと契 約を結んでいる(図4、図5)。
しかし、その内情を見ると、米国の3PLは必ずし も荷主企業の期待に十分応えているとは言い難い。
3 PLを利用しているフォーチュン五〇〇社のうち、過 図1 SCMの対象範囲は拡大している ●米SCM/ITの現状 図3 3PLのネットワーク最適化ソフトTMSパッケージの利用状況 Q. 現在と将来でサプライチェーンの範囲はどう変わる? 100 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 サプライヤーの 3PLs サプライヤー サプライヤー 自 社 顧 客 顧客の 顧客 50 0 現在 将来 (%) 配送 調達 製造 配送 調達 製造 配送 調達 製造 配送 調達 3PLs 3PLs 3PLs CAPS(BAAN) Logic Tool Logility Manhattan Assoc.(LogisticsPro) Manugistics Optum Provia(Freight Logic) AmeriCold APL BAX CTI FedEx Airborne Ryder England Logistics ODC USF Logistics FedEx Averitt Menlo Emery England Exel Exel Americas DSC UPS Prof.Services InSite Werner MSAS NFI TNT North America UPDS West Bros Landster Logistics USCO USCO 図2 3PLのWMSパッケージ使用状況 EXE Technoligies AccuPlus Manhattan Provia DSA Irista LogiMax MARC RedPrairie Insight Topex Zethcon Synapse 15 4 4 4 3 3 3 3 3 2 2 2 製 品 3PL/輸送会社 WMSパッケージ 利用会社数 15 DECEMBER 2002 特 集 《米国編》 半数の荷主が複数の3PLを利用している。
フォーチ ュン・ランキングで一〇〇位以上の大手荷主に絞れば、 平均で六社以上の3PLを利用している計算だ(図 6、図7)。
もともと米国の3PLは、コア・コンピタンスへの 資源の集中を図る荷主企業が、本業以外の業務であ るロジスティクスを一括してアウトソーシングするた めの受け皿として登場した。
ところが現実には本来あ るべき姿とは裏腹に、3PLはグローバル展開する大 企業のロジスティクス管理を一社で包括的に請け負う ことができずにいた。
その結果、3PLに屋上屋を重ねる形で複数の3 PLを管理するLLP(Lead Logistics Provider )や 4PL(Fourth Logistics Provider )などの新しい 業態の開発が現在、取り組まれている。
同時にIT 分野では、ロジスティクス分野のソフトウェアベンダ ーが台頭。
さらには物流用不動産や設備などの資産 面で、プロロジスやCBリチャードエリスのような不動産開発業者が積極的な展開を見せている。
LLPが荷主に代わってロジスティクスを設計・管 理し、ソフトウェアベンダーがシステムを整備。
不動 産開発業者が提供するアセットを3PLが運用する。
そんな分業とネットワーク化の進んだ新たな構造のマ ーケットに、米国のロジスティクス業界は変貌しよう としているようだ。
この変化の中で有力企業の激しい合従連衡が今も 続いている。
CLMに参加するロジスティクス専門家 の一人ひとりにとっても、大きな意味を持つ変化だ。
実際、今回の総会で演壇に立った講師には、予め配 布されていたパンフレットと肩書きが変わっている人 も少なくなかった。
米国ではロジスティクス専門家の キャリアもまた「アダプティブ」だっだ。
図4 米国の3PL市場は大きく拡大した 米国の3PL / コントラクト・ロジスティクス市場の規模 3PLセグメント 国内輸送管理ーーアセットベース 国内輸送管理ーーノンアセットベース 国際輸送管理 付加価値倉庫/配送 ソフトウェア 合  計 2001年総売上 83億ドル 175億ドル 157億ドル 153億ドル 40億ドル 608億ドル 成長率 2.5% 3.6% 7.5% 13.3% 7.4% 図5 Fortune500社の約半数が3PLを利用している フォーチュン 500 社ランキング 3PLの利用率 0 88% 56% 46% 35% 21% 1〜100位 101〜200位 201〜300位 301〜400位 401〜500位 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100% 図6 ただし、実際は‥‥ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10以上 39% 15% 15% 7% 2% 2% 1% 7% 6% 6% 5 10 15 20 25 30 35 40 45% Fortune500社 利用している3PL会社数 図7 グローバル企業には対応できていなかった 0 1〜100位 101〜200位 201〜300位 301〜400位 401〜500位 1 2 3 4 5 6 7 Fortune 500社 利用している3PL会社数(ランク別) 図8 3PLを使わない理由 0 コストが削減できない ロジスティクスはアウト ソーシングできないほど重要 自社の専門的知識が 優っている 管理が弱まる ロジスティクスの 管理の手間が減らない サービスレベルを 実現できない 顧客の苦情が増える 10 20 30 40 50 60% 回答率 ●米3PL市場の現状 資料:Armstrong & Associates, Cap Gemini Ernst & Young, ジョージア工科大学、ライダーシステムより 55% 39% 39% 36% 36% 33% 27% (社) 米国の3PL市場を 解説するリチャー ド・D・アームスト ロング氏(写真右) と、クリフォード・ F・リンチ氏

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