ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年12号
ケース
アサヒビール―― エコ物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2002 1 大幅に落ちこんだ空びん回収率 ビール各社の環境への取り組みは例外なく 積極的だ。
先を競うかのように工場での廃棄 物の一〇〇%再資源化などに取り組み、その 成果をテレビCMなどで積極的にアピールし てきた。
アサヒビールの環境社会貢献部に所 属する甘田隆司プロデューサーは、同社が環 境に熱心な理由を次のように説明する。
「ビールという商品は、水やホップから作ら れている。
こうした自然の恵みに感謝し、こ れを育んでいる地球の環境を守っていくとい う考え方が一つある。
当社の環境社会部は九 〇年代の前半にできたのだが、最初は企業メ セナなどを中心に活動していた。
ここに環境 部門などが合流して今に至っている」 アサヒが九八年四月に発売した「スーパー ドライ スタイニー」は、消費者の環境意識 の高まりを強く意識した商品である。
新発売 を告げる当時のニュースリリースには、「ビー ルびんはリサイクルの優等生と言われていて、 消費された後、ほぼ一〇〇%が工場に戻って 何回も繰り返し再利用される」、 「環境意識の高まりから、リ ターナブルびんが社会的にも 注目を集めている」といった 文言が並んでいた。
八七年の発売以来、快進撃 を続けていた「スーパードラ イ」の出荷量が、当時は過去 回収率の悪化に悩むスタイニーボトル コンビニのビジネスモデルと齟齬 回収率が100%近いビールびんが“リサイク ルの優等生”と言われて久しい。
しかし、ア サヒビールが98年に市場に新規投入した「ス タイニーボトル」だけは少し事情が異なる。
発売次年度の99年に87.8%あった回収率は、 2001年には78.3%と大幅に悪化してしまった。
アサヒビール ―― エコ物流 アサヒビール・環境社会貢献部の 甘田隆司プロデューサー には七八・三%と大きく落ちこんでしまった。
通常、新びんの投入から回収までには若干 のタイムラグが発生する。
消費者が回収行為 を認知するのに時間がかかるためだ。
このた めリターナブルびんの回収率は、発売して以 降、徐々に上昇するというのがビール業界の 経験則だった。
現に特大びんの回収率はだん だんと高まっている。
ところがスタイニーに ついては、この?常識〞が通用しなかった。
販売ターゲットとのミスマッチ アサヒにとっては、いくつかの誤算があっ た。
スタイニーという名称は陶製ジョッキを 意味する英語「Stein」からとった造語 である。
ビールジョッキのように片手でスタ イニーボトルを持ち、びんから直接飲むスタ イルを新たに世間に広めよういうのがアサヒ の狙いだった。
主要な販売ターゲットは「二 〇代から三〇代を中心とする、カジュアル指 向・ファッション指向が強く情報感度の高い ビールユーザー」に設定された。
アサヒにとっての誤算の一つは、こうした 販売ターゲットと、空びん回収という行為の 間にあるギャップだった。
従来からビール業 界には、リターナブルを後押しする仕掛けと して、空びんを販売店に持ち込めば?びん保 証金〞が支払われるという制度がある。
特大 びん以外は、大びんからスタイニーまで一本 あたり一律五円で、びんを収納する樹脂製ケ ースについても一個あたり二〇〇円が返金さ 二年間で四〇%増とさらに急伸していた時期。
後にアサヒの社員が「スーパードライ以降、 お客様がビールを中身で選ぶ時代になった」 と、誇らしげに語るほどの大ヒットが続いて いた。
こうした状況下でスタイニーを売り出した アサヒは、スーパードライ急伸の余勢を駆っ て、新たな容器による?新しい飲用スタイ ル〞を確立することを狙った。
銘柄への高支 持率と、消費者の環境意識の高まりという市 場環境の変化をフル活用しようという、した たかなマーケティング戦略だった。
だが、現実は厳しかった。
スタイニーは新 びん投入の経済性を大きく左右する回収率を、 思惑通りに伸ばすことができなかった。
発売 次年度の九九年こそ、CMなどでの告知活動 も奏功して八七・八%とそこそこに高い回収 率を記録したが、その後が続かなかった。
翌 二〇〇〇年は微増だったものの、二〇〇一年 2 DECEMBER 2002 れるルールになっている。
少額ながらも返金があることは、金銭感覚 の鋭敏な一般家庭に対しては、それなりのイ ンセンティブとして働いてきた。
だが「ファ ッション指向」の強い若者たちにとっては、 さほど魅力的な制度ではない。
発売からまだ 日が浅いこともあるが、いまだにスタイニー ボトルの返却時に一本当たり五円が返金され ることを知らない人すらいるという。
さらに市場で流通する?単位〞にも誤算が あった。
かつての酒販店の?御用聞き営業〞 では、びんビールの流通はケース単位が主流 だった。
この点、スタイニーは事情が違った。
九八年当時、現場で営業に携わっていた甘田 プロデューサーは次のように振り返る。
「大びんや中びんは通常、ケース単位でユ ーザーに配達され、飲み終わった空びんをそ のままユーザーがケースに収納していく。
一 ケース分を飲み終わると新たに注文を出し、 届けられた商品と引き換えでケース単位の空 びんを渡す。
しかし、スタイニーや特大びん を、ケース単位で購入する人はほとんどいな い。
大半は、その日に飲みたい分だけを買っ ていく。
こうしたユーザーは、なかなか空び んを返しにこない傾向がある」 ただでさえ缶ビールが一般化した最近では、 家庭で大びんや中びんが飲まれる機会はめっ きり減っている。
現在、びんビールの主力ユ ーザーは料理飲食店だ。
こうした業態向けの 流通はいまだにケース単位が主流で、商品を 100 90 80 70 97年 98年 99年 00年 01年 (%) アサヒビールのびん回収率の推移 スタイニーの回収率は急速に悪化している ※単純に出荷量と回収量を比較しているため100%を越す  ケースがあり得る 特大びん 大びん 小びん 中びん スタイニー 87.8% 88.9% 78.3% が九割近かったことからも明らかだろう。
すでに回収ルートが確立されていた大びんなど に比べれば見劣りする数値だが、スタイニー と同じような事情を抱えた特大びんに比べれ ば圧倒的に高かった。
もっとも、このスタイニーの高い回収率に は、かなり無理があったようだ。
同製品の主 力販売ターゲットとして想定されていた若者 たちは、従来の酒販店よりスーパーやコンビ ニを利用する傾向が強い。
現にスタイニーが 一番売れたのは、こうした業態だという。
と ころがスーパーやコンビニは、従来の酒販店 とは違って?御用聞き営業〞や、これに伴う 回収業務を積極的には手掛けていない。
それどころかコンビニのなかには、ユーザ ーがスタイニーの空びんを持ち込んだときに、 引き取りを渋る店舗すらあったという。
バラ 単位で持ち込まれる空びんを回収するシステ ムが未整備なことを理由に、ケース単位でな ければ受け取らないとルール化した小売業者 もあった。
大びんや中びんの回収では、あり 得ない話だった。
甘田プロデューサーは、「私が営業所に勤 務していたときにも、一般のお客様から『ス タイニーの空びんを受け取ってくれない』と いうクレームを受けることがあった。
そんな ときはクレームの対象になった小売店さんを 担当する営業マンが出向いて、リターナブル びんだから回収に協力して下さいとお願いす るしかなかった」と述懐する。
よく知られている話だが、 コンビニの店舗には商品を 保管するためのバックヤー ドはほとんどない。
まして 空びんを収納するために樹 脂製ケースを置いておく余 地など、どこにもない。
ア サヒもこうした事情は承知 していたはずだが、不幸に もスタイニーの主力販売チ ャネルは、空びん回収の難 しいコンビニなどになって しまった。
環境重視・経済 性重視のリターナブルという考え方と、若年 層への新たな飲み方提案という商品戦略がミ スマッチを起こした結果だった。
もはや最近では、コンビニやスーパーの店 頭でスタイニーを目にする機会はほとんどな くなった。
ある大手コンビニチェーンでは 「すでに全店舗の一割程度でしか扱っていな い」と言う。
また、都内のある酒販店では 「ビールは、缶よりびんの方がいいという家庭 もまだ中にはある。
そうしたお客様について はスタイニーをケースで届け、そのときに空 びんを回収している。
しかし、こうしたニー ズはごく一部でしかない」と明かす。
実際、「スーパードライ スタイニー」は 九九年こそ約一億三五九六万本を出荷してヒ ット商品と言われたが、その後は急速に売り 上げを落としている。
スタイニーボトルの出 DECEMBER 2002 3 市場に供給する問屋や酒販店が、帰り便で空 びんを持ち戻るという循環が上手く機能して いる。
いわば?静脈物流〞が営業活動の一環 として根付いている。
ところがバラ単位で購入されることの多い スタイニーでは、ユーザーが飲み終わったと きに収納すべきケースが近くにあることは稀 だ。
それでも特大びんや一升びんくらい大型 になると、簡単に捨てるのは心情的にはばか られるのだが、スタイニー程度のサイズだと、 消費者にとっては使い捨ての醤油びんと感覚 的には変わらない。
こうした事情も回収率が 伸びない一因になったようだ。
小売り業態革新の思わぬ影響 前掲の通りアサヒは、スタイニーを商品化 した根拠の一つとして?環境意識の高まり〞 を掲げていた。
この見方の裏付けの一つにな った「グリーン・コンシューマー意識調査」 (電通リサーチが九七年一〇月に調査を実施) では、確かに回答者の六割以上が「使用後リ サイクルしやすい商品を購入したい」と答え ている。
さらに「環境保全のためなら商品の 価格が上がっても我慢する」と答えた回答者 の比率も、九〇年代前半の五〇%台から、九 七年には七四・三%へと飛躍的に増えている。
実際、九八年にスタイニーを発売した当初 は、派手な広報活動の効果もあってか、かな りのユーザーが回収行為に協力的だったよう だ。
このことは九九年と二〇〇〇年の回収率 すでにコンビニやスーパー では、ほとんどスタイニー ボトルを見かけなくなった 荷本数も、二〇〇一年二月から「アサヒ本 生」のスタイニー版を追加投入したにもかか わらず、二〇〇一年の出荷は約八〇一二万本 に過ぎなかった。
その後もいくつかの銘柄の スタイニー版を投入しているが、いまだに出 荷量は下げ止まっていない。
新びん投入の読めないリスク ビール会社にとって新びんの投入は、かな りの設備投資をともなう行為だ。
新たにびん を製造しなければならない上、ビールをびん 詰めしたり、空びん回収後に洗浄・検査する ための専用ラインも新設しなければならない。
このラインで工場に戻ってきた空びんの全数 検査を施し、損傷したびんを抽出し、その分 だけ新しいびんを投入する。
このサイクルを 繰り返しながら初期投資を回収している。
ビールびんの寿命はかなり長い。
「一般的 なリターナブルのビールびんは、八〜一〇年 くらい使い続ける。
回転率の高い大びんなど では一年間に三、四回転するため、一〇年間では三〇回以上使う計算になる。
このため製 品の売り上げが極端に落ちると、商品が売れ ないためにびん詰めができず、戻ってきた空 びんが工場で山積みになるという状況が生ま れてしまう」(甘田プロデューサー)。
また、回収率が低いために発生してしまう コストもある。
九五年に制定された容器包装 リサイクル法では、ガラスびんなどの容器を 利用する事業者は排出量に応じて「再商品化 コスト」を負担することが決まった。
ただし回収率が一〇〇%近い大びんや中び んなどのビールびんは、メーカーによる自主 回収が認められ、同法にともなうコスト負担 を免除されている。
この自主回収の認定は再 商品化率がおおむね九〇%を超えることが条 件のため、スタイニーについては認められず、 同法で定める再商品化コストを排出量に応じ て支払う必要がある。
こうしたコスト負担が 重なると、リターナブルびんの持つ本来の経 済優位性を発揮できなくなってしまう。
実はアサヒビールには、七一年に業界で初 めてアルミ缶のビールを出荷した実績がある。
その後の小売り業態の変化や、自動販売機の 普及などによって、ビールの消費形態はびん からアルミ缶へと大きくシフトしてきた。
そ してこの容器の変化の波をいちはやく捉えた ことが当時、アサヒがキリンを追撃する追い 風の一つになった。
ある意味でアサヒは、製品の容器を変える ことによるマーケティング効果の大きさを熟 知していた。
だからこそスーパードライの勢 いに乗ってスタイニーボトルを大々的に売り 出し、新たな市場を創出しようとした。
だが現状を見る限り、スタイニーによる ?新しい飲用スタイル〞の確立というアサヒ の目論みは、失敗に終わったとみるのが妥当 だろう。
リターナブルびんでありながら回収 物流を上手く整備できなかったことが、大き な敗因になってしまった。
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