ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年11号
特集
卸が描く日本の流通 相鉄ローゼン&菱食の新一括物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2002 16 相鉄ローゼン&菱食の新一括物流 加工食品と日用雑貨品を店舗に一括で納品する。
それが相 鉄ローゼンにとっての長年の夢だった。
今年11月、その要請 に菱食が応える。
過去、菱食はヨークベニマル向け一括物流 で加食と日雑の一括納品で立ち上げ、大混乱に陥った苦い経 験がある。
それを今回はどう乗り越えようとしているのか。
常温七カ所を一カ所に集約 神奈川県を中心に六一店舗を展開する中堅食品ス ーパー、相鉄ローゼンが一括物流システムの再構築に 乗り出す。
現在、商品カテゴリー別に一四カ所用意し ている一括物流センターを、今後数年以内に三〜五 カ所程度に集約する。
それによって、物流センター〜 店舗間の商品供給体制を簡略化し、物流コストの大 幅削減を実現しようという計画を打ち出している。
売り上げの大半を占める加工食品や日用雑貨など の常温商品を対象にした改革から着手する。
もともと 同社は常温商品に関して七つの専用センター(食品 五カ所、日雑品二カ所)からそれぞれ店舗に供給して きた。
これを今月中旬からは新たに開設したセンター から一括で供給する体制に切り替える。
常温商品の 物流を一本化することで、同社では「従来に比べ物流 コストを三〇〜三五%削減できる」(菅野健一郎会長) と算盤を弾いている。
加工食品、菓子、酒類などを「ドライ食品」という カテゴリーでまとめ、物流センターを一本化するのは 珍しいことではない。
ただし、それらに日用雑貨を加 えて「グローサリー」という大きな括りで管理し、店 舗に商品を一括納品している小売業は日本では稀だ。
コンビニチェーンでは実施されているものの、相鉄ロ ーゼンのような中堅スーパーでの事例はまだ数える程 度しかない。
一般に食品スーパーで扱う加工食品は数千アイテム。
日雑品に至っては数万に達すると言われている。
これ を常温商品というカテゴリーでまとめると扱いアイテ ムは膨大な数に上る。
一カ所の物流センターで管理す るのは容易なことでない。
複雑なセンターオペレーシ ョンが必要なうえ、店舗への誤配や不良在庫の発生な どのリスクが高まる。
それでも相鉄ローゼンが常温商品の一括物流にこだ わったのは、配送車両数の削減や店舗での荷受け業 務の簡素化など、集約化によって享受できるコストメ リットが大きいからだ。
「とりわけ当社のように一〇 〇〇億円程度の売り上げ規模で、店舗規模も小さい スーパーでは加工食品と日雑品を一括混載して納品 しないと物流効率が上がらない」と吉田雅夫商品計 画部長は説明する。
通過額二四〇億円の大型拠点 今回、相鉄ローゼンの要請を受けて、常温商品の 一括物流センターを運営することになったのは食品卸 大手の菱食だ。
同社は相鉄ローゼン専用の常温商品 用一括物流センターとして、約五〇億円を投じて「愛 川物流センター」(神奈川県愛甲郡)を新たに建設し た。
施設は敷地面積約二万平方メートル、延べ床面 積一万九〇〇〇平方メートルの三階建て。
現在、菱 食が全国各地で展開している小売業向け一括物流セ ンター(SDC=Specialized Distribution Center ) の中でもトップクラスの規模を誇る。
菱食はこのセンターを通じて相鉄ローゼンの六一店 舗に一日当たり合計で加工食品約二万二〇〇〇ケー ス、日用雑貨五〇〇〇ケースを供給する計画だ。
加 工食品(五五〇〇品目)は在庫型(DC)。
日用雑貨 は通過型(TC)で処理する。
ケース商品、バラ商品を、自社開発した最新鋭のマ テハン機器などを使ってピッキング、店舗別・通路別 に仕分けし、カートラックを使って納品する。
年間取 扱高(出荷ベース)はDC型一七〇億円、TC型で 七〇億円の計二四〇億円に上る。
このセンターは最 大で計四〇〇億円まで処理できる能力を備えていると 第2部 17 NOVEMBER 2002 いう(一九ページ写真参照)。
相鉄ローゼンが一括物流センターの運営を菱食に委 託するのは今回が初めてではない。
九三年には加工食 品を対象とした「厚木グローサリーセンター」、翌九 四年には冷凍食品の「立川低温物流センター」(今年 八月に横浜シーサイド物流センターに移転)、さらに 九五年には弁当など総菜品の「座間総菜センター」の 計三カ所で菱食を指名している。
以来、相鉄ローゼン にとって菱食は一括物流でもっとも信頼できるパート ナーという位置付けだ。
一方、菱食でも相鉄ローゼン向けの一括物流に対 する思い入れは強い。
九三年に始まった「厚木グロー サリーセンター」での一括物流は、菱食がその後全国 でSDCを展開するうえでのモデルケースとなった。
相鉄ローゼンとの取り組みで学んだ一括物流のノウハ ウを横展開する形で、菱食はSDC事業を拡大して きた。
それだけに今回新たに立ち上げる常温商品の一 括物流にも熱が入っている。
「当社と相鉄ローゼンさんの関係は商品を売買する ?取引〞から、互いに知恵を出し合って目の前にある 課題を解決していく?取り組み〞へと進化している。
今回の話は二年前に提案を受け、その後両社でプロジ ェクトチームを組み、基本構想の立案やセンターの設 計などに共同で取り組んできた。
新センターの運営を 成功させることで、相鉄ローゼンさんの発展に貢献す るとともに、当社のノウハウのレベルアップを図りた い」と廣田正社長は意気込んでいる。
乱立する一括物流センター 相鉄ローゼンの一括物流の歴史は九二年にまで遡 る。
この年の四月、パンと卵を除く日配品を対象とし た「綾瀬チルドセンター」(神奈川県綾瀬市)をオー プンさせた。
センター運営の委託先は東京雪販(現・ 雪印アクセス)。
中小零細メーカーが多く、有力な卸 も存在しない日配品の物流を整理・統合することが 目的だった。
続いて翌年には加工食品の物流にメスを入れた。
前 述した通り、この年に相鉄ローゼンは菱食との一括物 流を開始した。
しかし本来は「菱食にセンター運営を 任せるつもりはなかった。
そもそも当時、菱食との (商流での)付き合いはほとんどなかった」(吉田雅夫 商品計画部長)という。
実は当時、相鉄ローゼンが検討していたのは「窓口 問屋制度」を導入することだった。
窓口問屋制度とは 物流機能の充実した卸を店舗配送の窓口として選び、 その卸に同じ商品カテゴリーを扱う他の卸の商品も含 めて一括で店舗配送させる仕組みである。
相鉄ローゼ ンはこの制度の導入で成果を上げつつあったイトーヨ ーカ堂に倣って、商品カテゴリー別や温度帯別に五〜 六カ所の一括物流センターを用意。
そこから店舗に商品を供給する、という青写真を描いていた。
加工食品に関しては菓子や酒などを含めて一カ所に 集約する構想を温めていた。
しかし文字通り、そうは 問屋が卸さなかった。
取引先の卸は皆、窓口問屋制 度の考え方に「総論では賛成するが、各論では反対す る」という姿勢で、相鉄ローゼンの提案をなかなか受 け入れようとはしなかった。
すでにこの頃、流通業界における小売業の発言力は 高まっていたとはいえ、ヨーカ堂クラスの大手と中堅 スーパーの相鉄ローゼンとでは重みが違う。
当の相鉄 ローゼンも「食品卸にはそれぞれ強い分野や商品があ る。
そっぽを向かれてしまうと店頭での品揃えに影響 が出る恐れもあった。
当社の主張を押し切ることはで きなかった」(吉田雅夫商品計画部長)。
グローサリーの一括物流の舞台となる「愛川物流センター」 (神奈川県愛甲郡)。
菱食が約50億円を投じて建設した 菱食の廣田正社長 NOVEMBER 2002 18 それでも相鉄ローゼンではこれを機に、約四〇社あ った加工食品の取引先卸の絞り込みに着手した。
一 般食品ではそれまで取引がほとんどなかった菱食を筆 頭に、味の素系商品に強い伊藤忠食品、輸入品に強 く自社ブランド商品も持つ明治屋、地場卸の一神商 事の四社に集約。
さらにその後、菓子ではサンエスと リョーカジャパンの二社に、酒類では伊藤忠食品、明 治屋、国分、リョーショクリカーの四社に帳合いをま とめた。
ただし、肝心の窓口問屋制度は断念せざるを得なか った。
その結果、加工食品の分野では一般食品で三 カ所(厚木グローサリーセンター=運営・菱食、町田 グローサリーセンター=同・伊藤忠食品、峰沢グロー サリーセンター=同・明治屋)、菓子で一カ所(厚木 第2グローサリーセンター=同・神奈川エスアールセ ンター)、酒類で一カ所(酒類共配センター=同・伊 藤忠食品)の計五カ所のセンターが散在するかたちと なってしまった。
加工食品だけではない。
同じ商品カテゴリーであり ながら、日用雑貨でも在庫型と通過型で二カ所、アイ スクリームでも二カ所の一括物流センターを用意する 羽目になった。
それでも「納品形態など物流のサービ スレベルは揃えてもらうことができた。
ところが、配 送トラックの店着時間がセンターごとにバラバラで、 店舗の作業効率は一向に上がらなかった。
一括物流 といいながら一つのカテゴリーで複数の物流ルートが 残る、おかしな一括物流になってしまった」と吉田雅 夫商品計画部長は述懐する。
九〇年代に取り組んできた一連の一括物流プロジ ェクトを通じて、相鉄ローゼンは物流センター〜店舗 間のノー伝票、ノー検品の実現や、店頭での欠品率を 二%から〇・一%以下に改善するといった、一定の 成果を得ることができた。
ただし、大幅なコストダウ ンを実現するまでには至らなかった。
日雑扱いを受け入れた菱食 冷凍食品や青果物などグローサリー以外の商品カテ ゴリーも含め、合計一四カ所という一括物流センター の数は明らかに多過ぎた。
効率化できる余地はまだま だ残っている――。
業を煮やした経営トップから再び 物流の再構築の指示が下されたのは今から二年前のこ とだった。
今度の要請は前回のものよりもさらに踏み込んだ内 容になっていた。
加工食品、菓子、酒類といったドラ イ食品の物流を一本化したうえで、それに日雑品を載 せる。
より具体的にはドライ食品をDC型で、日雑品 をTC型で管理し、なおかつそのオペレーションを物 流センター一カ所で行う。
両カテゴリーの商品を店舗 別・通路別に仕分けて一括で納品する、というハイレ ベルな注文だった。
これを受けた相鉄ローゼンの物流部隊はまず最初に 伊藤忠食品に話を持ちかけた。
伊藤忠食品にとっては、 一括物流をきっかけに相鉄ローゼンへの販売シェアを 伸ばした菱食から帳合いを奪い返す絶好チャンスだっ た。
ところが、同社は「加工食品を対象にしたDCで あれば、菱食以上の仕組みを提供できると確信してい る。
ただし、経験の少ない日雑品の運営に関しては正 直言って自信がない」と、あっさりと手を引いてしま ったという。
次に相鉄ローゼンが接触したのが菱食だった。
しか し、こちらからも最初は固辞された。
ネックになった のは伊藤忠食品と同様、加工食品と日雑品を一つの センターで一括管理するという点だった。
菱食はかつ て東北地区の中堅食品スーパーであるヨークベニマル 相鉄ローゼンの 吉田雅夫商品計画部長 19 NOVEMBER 2002 向けの加工食品と日雑の一括物流で、立ち上げ直後 に混乱を発生させたという苦い経験をしており、こと のほか日雑品の物流には慎重だった。
廣田社長もなか なか首を縦に振ろうとはしなかった。
その菱食が最終的には重い腰を上げたのは、ベニマ ルがDC型での日雑品扱いだったのに対し、今回はT C型の要請だったからだ。
「当社が日雑品を在庫して ピッキング・仕分けするとなると話は別だが、今回の 取り組みは日雑卸さんがピースピッキングしたケース (オリコン)をTC部分で、店舗別・棚レイアウト別 に仕分けるだけで済む。
当社へのオペレーションの負 担はそれほど掛からない」(市瀬英司常務)と判断し た。
運営コストを一〇〇%開示 今回のグローサリー一括物流では、「愛川物流セン ター」に商品を供給する全卸から相鉄ローゼンがセン ターフィーを徴収し、そのフィーの中から菱食にセン ター運営費を支払うという仕組みになっている。
フィ ーの具体的な金額は未公表だが、取引先別、商品カ テゴリー別、さらに商品アイテム別に細かく算出基準 が設定されているという。
金額は業界平均と比べると 高いほうだが、常識外れの数字ではないという評判だ。
相鉄ローゼン自身も「センター運営に掛かるコストを 一〇〇%開示しており、参加企業すべてに納得しても らっている」(吉田雅夫商品計画部長)と自負してい る。
九三年に菱食を重用したのとは異なり、今回は新 体制への移行に際して、商流の部分にはまったく手を 入れなかった。
センター運営を任された菱食はこれを 機に帳合いのさらなるシェア拡大を期待するが、当の 相鉄ローゼンは「今回の一括物流は卸としての菱食で はなく、あくまでも3PLとしての菱食と付き合いを している」(同)という意識が強い。
一定の距離を保 つことで、取引先卸間に競争原理を働かせたいとの狙 いが込められている。
現在、グローサリー一括物流の舞台となる「愛川物 流センター」では両社によるセンターオペレーション の最終調整が急ピッチで進められている。
同センター には小売業界としては日本初の導入となる、自動倉 庫からケース商品を店舗別・通路別に切り出していく 装置「ファインストッカー」が導入されている。
その処理スピードに問題はないか。
また、本当に定 番商品や特売商品、ファーストムーブやスロームーブ といった商品特性に応じてロケーション管理しなくて も、商品の先入れ先出しを遵守できるのか。
試験運用 を繰り返すことで、DCとTCの併設によって複雑化 したセンターオペレーションに対する不安要素を一つ ひとつ取り除いている。
「センター運営で失敗したら、すべて当社が責任を負う。
菱食に罪をなすりつけたりしない。
これまで小 売りの一括物流センターといえば、卸や3PLにすべ てを委ねる?お任せ型〞が主流だった。
しかし今回は 違う。
センターの設計からマテハン選び、そして情報 システムの開発に至るまで、すべて当社が口を挟んだ。
小売りが店頭で稼ぐための本当の意味での一括物流 センターになるはずだ。
今回の一括物流はセンターフ ィーを徴収することが目的ではない」と吉田部長は力 説する。
果たして、これまで難しいとされてきた加工食品と 日雑品の物流一本化で成功を収めることができるのか。
流通業界の関係者が固唾を呑んで見守る相鉄ローゼ ン&菱食の?新〞一括物流は間もなく始動する。
オリコン自動積み付け機 バラ商品が入ったオリコン をカートラックに積み付け る装置。
2機導入した。
オ ークラ社製 デジタルピッキングシステム アイオイシステム社と菱食で共 同開発した。
特徴は移動式の検 品台を導入することで、作業員 の動線短縮を実現した点。
バラ 商品の1日当たりの出荷量は約 2,000オリコンに上る ファインストッカー ケース自動倉庫に一時保管さ れている商品を店舗別・通路 別に切り出す。
ダイフク社製。
「愛川物流センター」では1日 に約6,000ケースを同装置で 出荷処理する予定 出荷用シュート ケース商品用で11本、オ リコン用で3本の計14本 を用意した 「愛川物流センター」に導入した主なマテハン機器

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