ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年11号
ケース
ニチレイ&名糖運輸―― 定温物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2002 42 売り上げ一五〇〇億円の企業連合 今年一〇月、冷凍・冷蔵倉庫大手のニチ レイと定温輸送大手の名糖運輸は業務・資本 提携することで合意した。
ニチレイは名糖運 輸の発行済株式総数の五%を、名糖運輸はニ チレイの一〇〇%出資子会社である日本低温 流通の発行済株式総数の二〇%を取得する。
当面、両社は幹線輸送の共同化や物流インフ ラの相互利用などコスト削減に向けた活動を 中心に進めるが、将来は共同出資による拠点 の新設や共同営業体制の構築なども視野に入 れているという。
もともとニチレイはフローズン食品の物流 で、一方の名糖運輸はチルド食品の物流で強 みを発揮してきた。
今回の提携によって、常 温、チルド、フローズンの三温度帯をカバー できる食品物流の企業連合が新たに誕生した ことになる。
提携発表翌日に記者会見に臨ん だニチレイの楡敏秀取締役専務執行役員と名 糖運輸の滝澤昭社長は「ニチレイは名糖運輸 のチルド物流のノウハウと輸配送のネットワ ーク、名糖運輸はニチレイのフローズン物流 のノウハウと冷凍・冷蔵の物流インフラを活 用することができる。
三温度帯に対応できる 体制が整うことで、両社の顧客企業の利便性 は一段と高まるはずだ」と強調した。
ニチレイの年間売上高は約五六〇〇億円。
このうち低温物流事業の売上高は約一一〇〇 億円に上る。
これに対して、名糖運輸の売上 冷凍とチルドの大手二社が資本提携 食品物流のフルライン化を目指す 水面下で進めてきたトップ同士の交渉が 成立。
今年10月に業務・資本提携を発表し た。
幹線輸送の共同化などでコストを削減 するほか、物流インフラの相互利用で投資 負担の軽減を図る。
常温、チルド、冷凍の 三温度帯をカバーし、川上のメーカーから 川下の小売りに至るまでの物流を一括で請 け負う体制を確立した。
今後は外食チェー ンなど新規顧客の開拓を進めていく。
ニチレイ&名糖運輸 ―― 定温物流 の北見聡運輸担当アナリストは「今回の提携によって定温物流市場の寡占化が進めば、そ れだけ両社の利益率向上が期待できる。
資本 提携にまで踏み込んで責任の所在を明確化し たことも評価したい」と期待を寄せている。
両社によると、今回の提携は共通の取引銀 行が昨年末に開いた、あるパーティーがきっ かけだったという。
ここに出 席していた両社の経営トップ が初対面で意気投合。
「互いに 協力できる部分を探ってみま しょう」という話に発展した。
その後、経営企画部門を中心 としたプロジェクトチームをそ れぞれに発足させ、月数回の ペースで協議。
取締役会で正 式に決議し、今回の発表に漕 ぎ着けた。
実は名糖運輸には数年前か ら銀行や証券会社を通じて、 M&A(企業の買収)の話が 何件か持ち込まれていた。
し かし、いずれも対象は売上高 五〇億円前後の企業で、機能 補完というよりもむしろ、同 業者を名糖が救済するという 色合いが濃かったという。
「買 収のメリットがはっきりしな い案件が多く、話がまとまら なかった。
これに対してニチ 高は約四〇〇億円。
単純に合算すると、売り 上げ規模は一五〇〇億円に達する。
もちろん、 この数字は定温物流業界トップ。
二番手はキ ユーソー流通システムの約八五〇億円で、三 番手は味の素物流の売上高約七〇〇億円。
業 界の勢力図は大きく変わった。
本誌連載陣の一人、野村証券金融研究所 43 NOVEMBER 2002 レイさんは経営規模も大きく、保冷施設や輸 配送ネットワークなど物流機能が充実してい る。
提携先としては申し分のない相手だった」 と名糖運輸の小島邦敏専務は説明する。
?ドライ化〞する定温市場 物流業界ではこうした有力プレーヤー同士 のアライアンス(戦略的提携)が盛んに行わ れてきた。
九九年十一月の日立物流と福山通 運を皮切りに、西濃運輸と山九、佐川急便と 近鉄エクスプレスなど大型提携が相次いだ。
いずれのケースも足りない物流機能を相互に 補完することで、サービスのメニュー拡充と 質の向上を目的としている。
もっとも、物流業界でのアライアンスはこ れまで、いわゆる?ドライ貨物〞の分野が中 心だった。
定温企業同士の大型提携は今回の 「ニチレイ&名糖運輸」が初めてのケースだ。
同じ物流業界でありながら、ドライと定温で 合従連衡の動きに?時差〞が生じたのは何故 か。
その理由を「ドライに比べ、定温企業の 業績はここ数年安定していたからではないか」 と北見アナリストは分析する。
実際、ドライ企業が軒並み減収減益の厳し い決算を余儀なくされる中、定温企業の業績 は比較的堅調に推移してきた。
利益率も高く、 直近のデータ(二〇〇二年三月期)では、株 式上場物流企業大手九社のROA(総資本 営業利益率)と売上高営業利益率の平均は それぞれ三・一%、三・〇%だったのに対し、 住友倉庫 西濃運輸 三菱倉庫 日立物流 日本通運 三井倉庫 ヤマト運輸 上組 ニチレイ ヒューテックノオリン 三井倉庫 12 15 名糖運輸 ヨコレイ キユーソー流通 システム 平均 福山通運 ROA(%) 0 3 6 9 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 売上高営業利益率(%) 図1 ドライ企業に比べ定温各社の利益率は相対的に高い (注) 1. 各社数値は02.3期連結決算数値(キユーソー流通システムは01.11月期連結決算、ヨコレイは01.9期単独決算) 2. ただしニチレイは低温物流部門の数値を、三菱倉庫、三井倉庫、住友倉庫の3社は物流部門の数値を使用 3. ヨコレイは冷蔵部門の営業利益が未公表であり、営業部門を含めた全体の利益率で計算しているため、実際  の冷蔵部門の利益率より低い数値と考えられる 4. ROA=営業利益/2期平均総資産 5. 図中の平均は、全14社の単純平均数値 (出所)野村証券金融研究所 るのは確実だ。
利益の確保も困難になる。
それをにらんで定温各社は現在、コスト削減策 を進めている。
しかし、一社単独で効果を上 げるのにはどうしても限界がある。
当社もニ チレイさんも同業者との提携で経営の効率化 を加速させ、生き残りを図るべきだという認 識を持っていた」と名糖運輸の小島専務はア ライアンスに踏み切った経緯を説明する。
コスト削減策が最優先 実際、今回の提携では幹線便の共同運行や 輸配送拠点の相互利用などコスト削減策にと りわけ重点が置かれている。
提携相手の物流 機能の活用でコストを削減できる部分はない か。
まずはその洗い出し作業に取り掛かると いう。
最初にメスが入れられるのは幹線輸送部分 になる。
既に現時点で名糖運輸と日本低温流 通が日々動かしている幹線輸送トラックの配 車を一括でコントロールするための共同運営 組織(配車センター)を用意することが決定 している。
二社の配車を一カ所で行うことで、 無駄な運行便を減らすと同時に、トラック一 台当たりの積載率を高めるのが狙いだ。
これまでにも両社は個別に配車の適正化に 取り組んできた。
それでも、例えばニチレイ ではある特定荷主向けの貸切便などでトラッ ク三台は満車だが、どうしても残りの一台は 積載率五〇%以下になってしまうという無駄 が生じていたという。
さらに輸配送拠点や保管施設の相互利用の 可能性も探る。
従来、他社に業務委託してい た仕事を優先的に提携相手にまわすことで、 両社が全国に構えている拠点・施設の稼働率 を高めていく。
もともと名糖運輸は北東北や 九州南部の拠点網が手薄。
反対にニチレイは これらの地域に拠点を構えている。
互いの拠 点を活用することで空白地帯を埋め、「投資 を最小限に抑えたうえで全国ネットワークを 完成させる」(名糖運輸の小島専務)という 狙いもある。
ただし、両社とも拠点を構えていない地域 も残っている。
例えば四国。
現在、両社はそ れぞれ大阪と岡山の拠点で対応しているが、 将来は共同出資で新たに四国に拠点を設置す ることも検討しているという。
「これまでは拠 点がなかったり、温度帯対応ができないため にお断りしていた仕事もたくさんあった。
提 携後は名糖さんの物流インフラを利用させて もらうことで三温度帯対応と全国配送が可能 になる。
どんな顧客ニーズにも対応できる体 制が整うことは営業面でとてもプラスだ」と ニチレイの椎橋治男取締役執行役員低温物流 企画部長は説明する。
共同営業は一年後に検討 今回の提携によって三温度帯を一括対応で きるという武器を手中に収めた両社が今後の 営業ターゲットとして注目しているのは外食 チェーンだ。
もともと小売業の分野ではニチ NOVEMBER 2002 44 定温物流企業五社の平均は七・一%と四・ 八%だった(前ページ表参照)。
定温市場はニッチなうえに、保冷施設・車 両への投資負担が重いという参入障壁がある ため、もともとプレーヤーの数が少ない。
さ らに、厳密な温度管理を必要とするなど付加 価値の高いサービスを提供するため高い運賃 を収受できるという特徴がある。
こうした市 場としての優位性が各社の利益率の高さに結 びついてきた。
その結果、ドライ企業が業界内での生き残 り策として同業他社との提携を進めたのに対 し、定温企業は、チルドに強い企業はフロー ズンを、反対にフローズンに強い企業はチル ドといった具合に自社で足りない物流機能を 拡充するという戦略を打ち出すことができた。
実際、もともとチルドの扱いがメーンだった 名糖運輸も近年はフローズン機能の強化を独 自に進めてきた。
しかし、個々の企業が拡大戦略を続けられ る恵まれた事業環境は長くは続かないという 見方で業界内は一致している。
ここ数年、定 温市場では異業種などからの新規参入が相次 ぎ、事業者間の競争が激しさを増している。
運賃・料金水準は一〇年前に比べ、一五〜 三〇%程度落ち込んでいるのが現状だ。
ニチレイと名糖運輸がアライアンスに動い たのは、こうした環境の変化に対して先手を 打つという意味合いが込められている。
「い ずれ定温市場もドライと同じような状況に陥 レイが量販店、名糖運輸がコンビニエンスス トアに強い。
ただし、両カテゴリーでは既に 完成度の高い物流システムが構築されている。
チェーンごとに物流パートナーも固定されて おり、開拓の余地はほとんど残されていない と見ている。
これに対して、外食チェーンは物流改革が 比較的遅れているうえ、新規参入する企業も 多く、ビジネスチャンスは年々拡大する傾向 にある。
実際、両社とも外食チェーンの一括 物流センターの運営や店舗向け配送などの業 務で実績を上げている。
「今後、定温物流業界の主戦場となるのは 外食産業の分野だ。
ライバル企業も熱い視線 を送っている。
まだまだ受託事例は少ないも のの、着実にノウハウは蓄積できている。
ニ チレイさんと共同で外食産業の物流の囲い込 みを進めたい」(名糖運輸の小島専務)と意 気込んでいる。
もう一つのターゲットはメーカーの共同物 流だ。
これまでこの分野の開拓に力を注いで きたのはニチレイ側。
今年七月には3PL子 会社である「ロジスティクス・プランナー」 を通じて大手洋菓子チェーン三社を対象にし た共同配送事業を中部地区で新たにスタート させるなど経験も豊富だ。
「一社単独ではロ ットがまとまらず非効率だから、他社の商品 と混載して卸や小売りに納品してほしいとい うメーカーが増えてきている。
もともと日本 の食品メーカーは経営規模の小さい企業が多 く、こうしたニーズは今後さらに拡大するは ずだ」とニチレイの椎橋取締役は期待する。
名糖運輸側も着眼点は同じ。
ただし同社に はメーカー共同物流の実績が少ない。
まずは ニチレイや「ロジスティクス・プランナー」 からのノウハウ習得を目指す。
川下では外食産業、川上ではメーカー共 同物流と両社のターゲットは図らずも一致し ている。
共同営業を展開しやすい環境にある。
しかし、当面は敢えてそれぞれの企業で新規 顧客の開拓を進めていく方針だ。
人事交流 なども計画していない。
両社がそれぞれ営業 活動を行い、どうしても自社でカバーできな い機能があれば、それを互いに委託するとい うスタイルでしばらくは様子を見ていくとい う。
今回の提携によってどれだけのコスト削減 効果を生み出すことができるのか。
まずはそ れを一年後に検証する。
そのうえで共同営業 体制の構築など次のステップに進むかどうか 判断を下すつもりだという。
(刈屋大輔) 45 NOVEMBER 2002 ニチレイの椎橋治男取締役執行役 員低温物流企画部長 EXE TECHNOLOGIES 〒279-0012 千葉県浦安市入船1-5-2 明治生命新浦安ビル 企業の収益向上 、売上の拡大に 直接寄与する経営合理化ツール 全世界500社以上に実績を持つベストプラクティスを導入する あらゆる業界で求められているロジスティクス・システムのニーズに適応するエクシード・ソリューション バリューチェーンを構築する ビジビリティー可視性 ベロシティースピード バリュー・アッドー付加価値 これら3つのVを提供することによって、顧客の価 値を創出し、バリューチェーンを経営パフォーマン スの形で、より高いROIを実現。
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