ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年9号
ビジネス戦記
契約書問題で悪戦苦闘

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2002 68 EXEテクノロジーズ 津村謙一 社長 分厚い契約書に面食らう 日本で3PLビジネスを展開する上で最初 の障害になったのは、契約書だった。
それま での日本の物流業界では、アウトソーシング の契約書といっても見積もり価格が記載され ている程度だった。
倉庫業や運送業の「標準 約款」は存在していたものの、実際には誰も 読んでいない。
話題に上ることさえないのが 実情だった。
日本のビジネスでは契約書より何より、人 間関係がモノをいう。
「あの営業マンは信頼 できる」とか、「あの会社とはもう何十年のつ き合いだ」という意識が強く、協力業者を変 更することは希だった。
地方へ行くほど、荷 主企業と協力業者の関係は固定化されていた。
荷主と協力業者が折衝するのは単価の問題 だけ。
協力業者から単価の値上げをお願いす る。
もしくは荷主が値下げを要請する。
ある いは、荷主の業績が悪化したので、「協力金」 という名目で協力会社からバックマージンを 徴収するといった具合だ。
契約書などはあっ ても、なきのごとし。
もちろん契約の内容や 条項について、事前に折衝することなどない。
ところが我々の狙った米系荷主向けの3P Lビジネスは、全く勝手が違った。
3PLに アウトソースして、それを活用することにか けて、彼らは日本の荷主よりも格段に上だっ た。
我々にアウトソーシングするに当たって、 彼らは分厚い契約書を用意していた。
まずそ れに面食らった。
3PLの契約書というと、いわゆる提案書 のようなものを想像する方もいるかも知れな いが、提案書と契約書は全く別モノだ。
契約 書に提案の骨格などが書かれていることはな い。
契約書にあるのは、一つは「契約期間」。
これは一般に二年から五年で設定される。
初 回の場合は二〜三年が普通だ。
その後、何回 かの契約更新を経て、信頼が深まるに連れて 契約期間を延長していくというケースが多い。
さらにキャンセル条項。
様々なトラブルが 発生した時を想定して、それに対する取り決 めを一つひとつ明示している。
そのため契約書は必然的に分厚くなる。
といっても彼らが それを案件ごとに一から作り込んでいるわけ ではない。
米国の産業界にはもともと3PL の契約書のひな形がたくさん用意されている。
そこから都合の良いものを選んで、必要に従 ってカスタマイズしているのだ。
そして最後 に顧問弁護士が修正する。
こうして出来上がった契約書は荷主側にと って非常に有利な内容になっている。
例えば 契約期間として仮に三年という数字が明記さ れていたとしても、前提条件として「3PL 側のサービスに不満があればいつでも契約を 解除できる」もしくは「現状よりも安い協力 業者が現れたら、違約金なしに契約を解除で 【第6回】 契約書問題で悪戦苦闘 外資系荷主のコンペは連戦連勝だった。
ところが 受注後、荷主が用意した分厚い契約書を見て仰天し た。
そのままサインすれば、大変なリスクを負うこ とになってしまう。
口約束がまかり通っていた従来 の日本の物流業とは全く勝手の違うビジネスに、我々 は慌てふためいた。
69 SEPTEMBER 2002 きる」など、3PL側にとって一方的に不利 な条項が設定されている。
当社側で初期投資 を必要としないケースならともかく、投資が 発生する場合には、一定期間の契約が保証さ れないと大変なリスクになってしまう。
さらに紛争が起こった場合に、どこの裁判 所で争うのか。
これも一つのポイントだ。
米 系荷主は日本のオペレーションといえども本 社を置く地元の州法を基準にしようとする。
果たして荷主の主張する州法と日本の法律と はどこが違うのか、一から整理する必要に迫 られた。
他にも日本的な感覚で「はい、はい」 とサインしてしまうと、後でえらい目にあい かねない条項が、荷主の提出してきた契約書 にはいくつも列記してある。
そこで当社側でも慌てて弁護士を立てて、 条項の修正を荷主に要求することになる。
そ もそも日本の弁護士は3PLの契約書など見 たこともないのだから、弁護士としても手探 りだ。
やっとの思いで当社側の要望をまとめ て、荷主に提出。
その返事が返ってくると、 また改めて弁護士に相談する。
こうしたやりとりに、受注が決まってから 後の三カ月ぐらいを費やしてしまうことも珍 しくなかった。
外資系企業を相手に3PLを 開始するといえば、格好良く聞こえるものの、 実際に走り始めると目新しいことばかりで面 食らうことの連続だった。
外資は意外に寛容 しかし、やりにくいばかりでもなかった。
日本では誤解されていることも多いが、いっ たん契約を結んでしまえば、その後のつき合 いに関して、外資系企業はむしろ日本企業よ りも融通の利くことが多い。
いくら厳密な契約書を作っても、契約書に記載されていないようなトラブルは必ず起こ る。
その時に3PLと荷主がいかにタイムリ ーに話をして、短時間で解決するか。
それが アウトソーシングを成功させるカギになる。
彼らはそう考えているため、3PLに対して、 言ってみれば驚くほど「寛容」だった。
確かに最初に契約書を作る段階では非常に 厳密で堅苦しい。
ところが実際にオペレーシ ョンが走り出すと、意外にうるさく言わない。
いったい契約時のあの騒ぎは何だったのだと 拍子抜けすることも少なくなかった。
これは物流業に限った話ではなく、製造の 分野でも同じだ。
製造を委託する場合には、 一般に「試作」「試作量産」「量産試作」「量 産」というプロセスを踏む。
このうち「試作」 と「試作量産」のプロセスで、欧米企業はそ れこそ数千頁もある契約書を作成して極めて 厳密に取引を進める。
ところがいったん量産 に入ってしまえば後は「お任せ」だ。
日本企 業のように細かく管理することはない。
そうした寛容さを持つと同時に、情報開示 には極めて積極的だ。
最初に守秘義務契約さ え結べば、ロジスティクスのオペレーション に必要な情報を何も隠すことなく3PL側に 公開する。
しかも日系企業のような、大まか な数字ではなく、詳細な実績データをそのま ま開示してくれる。
そのため3PL側でも事 前に緻密なコストシミュレーションが可能に なる。
単価設定についても日系荷主より合理的だ った。
これもまた物流に限らず製造分野にも あてはまることだが、一般に日本では複数年 にわたる取引の場合、単価を毎年、少しずつ でも下げていくことを要求される。
今年は一 〇〇円で買うけれど、来年は九五円しか払わ ない。
その分、コストダウンして欲しいとい う具合だ。
ところが米系企業は違う。
インフレがある から単価は当然、毎年少しずつ上がっていく という前提に立っている。
そのため物流の単 価も初年度より二年度、二年度より三年度と、 少しずつ値上げすることを了承してくれる。
少なくとも日系企業のようにゴリゴリとコス トダウンを求めてくるようなことはない。
3 PL側にとってはありがたい話であり、現在 のようなデフレ傾向にある時代は例外として、 考えてみればそのほうが合理的だと思う。
しかも、当初の荷主の計画に実際のボリュ ームが達しなかった場合は、その分のプレミ アム料金を3PL側に支払うという理解まで 示す。
もちろんその反対にボリュームが予定 以上に増えた場合には、ディスカウントする 必要が出てくるが、理不尽な話ではない。
相手が何を望んでいるのか。
どうやって関 係を充実させていくか。
そうした認識を3P L側でしっかりと持っていれば、米系企業相 手の3PLは決して儲からない仕事ではなか った。
ただし、プロバイダー側が相手の寛容 さに甘えてしまうと、バッサリと切られるリ スクが常につきまとっていた。

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