ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年8号
特別レポート
拡大EUのSCM

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2004 54 ■■トヨタ自動車 ――欧州各地に自前のデポを設置 二○○三年の欧州全体の自動車市場の販 売台数は一六七○万台で対前年比一%減だった。
しかし日系メーカー各社は順調に業績 を伸ばしている。
なかでもトヨタ自動車は好 調だ。
二○○四年度三月期の販売台数は八 九万八○○○台で対前年比一五・七%増。
○ 五年度を最終年度とする中期計画目標「八 ○万台」を二年前倒しで達成した。
さらに 今後は年間一二〇万台の販売を当面の目標 に掲げている。
これに伴いアフターセールスのインフラ整 備も急ピッチで進められている。
現在は補修 用部品の?商物分離〞に取り組んでいる。
二 〇〇一年にトヨタは拡大EUを睨んだ?汎 ヨーロッパ・プロジェクト〞に着手。
補修用 部品の物流ネットワークと、情報システムの 再構築に乗り出した。
これまで同社はEUにおける補修用部品 を、国別に置いた販売代理店のデポを経由 して末端のディーラーに供給していた。
デポ の在庫も販売代理店が管理していた。
この 体制を改め、補修用部品の在庫をトヨタ本 体に引き上げ、主なEU市場の在庫を一元 的に管理する体制を整えようとしている。
物流上も販売代理店を経由せずにディー ラーに直送する。
各国の代理店が地元に構 えている合計二十二のデポを廃止し、二〇 〇五年までに新たにトヨタ直営の十三のデ ポを設置して拠点の統廃合を進める考えだ。
既にドイツのケルン、スペインのマドリード、 イギリスのルターワースなど現段階で九カ所 の自社デポを構えている。
今年の一○月に はポーランドに、さらにはギリシャやポルト ガルにもデポを設置する予定だ。
一連の改革の中心にあるのが、ベルギーの トヨタ・パーツ・センター・ヨーロッパ(以 下TPCE)だ。
欧州全域と北アフリカ、ト ルコ、中東地域へのアフターサービス用部品 が、すべてここから供給されている。
同センターでは日本のトヨタ本体を始め、 約六〇〇にのぼるサプライヤーから部品を調 達しており、一日あたりの受け入れは平均二 万件、出荷が四万件となっている。
カタログ 上には一三○万種類が存在するが、TPC Eに常時ストックしているのは二十三万種類だ。
一方、各地の自社デポには売れ筋の三万 から五万種類を在庫している。
比較的回転 の遅い部品は一括してTPCEで保管し、全 体としてスリムな在庫を目指している。
実際、 同センターの平均在庫日数は約二〇日。
数 カ月分はあると言われる他社の在庫水準よ り格段に少ない。
TPCEの勤務シフトは朝の五時五〇分 から夜一〇時までの二交代制。
これはその 日に受けた注文をできるだけその日のうちに 出荷するためで、たとえばドイツ南西部なら 特別レポート EUの統合と拡大によって、現地に進出している日系自 動車メーカーのサプライチェーンにも大きな変化が現れて いる。
域内貿易の自由化と通貨の統合によって、これまで のように国別に在庫を分散させる必要はなくなった。
欧州 全体をひとつの市場に見立てたネットワークの構築が可能 になってきている。
(大矢英樹) アントワープ港(ベルギー)のコンテナヤード多くの自動車部品がここから欧州各地のパーツセンターや倉庫に運ばれる 55 AUGUST 2004 午後六時にまで注文を受ければ、翌日の朝ま でに届けるといった体制になっている。
出荷 先は自社デポ向けが九カ所、各国の総代理店 向けが一六カ所、そして直送しているディー ラーの数が一二○○となっている。
九三年にTPCEを稼働する以前は、欧州 二十二カ国に一社ずつあるNMSC (National Marketing & Sales Company) と呼ばれるトヨタ車の総代理店が、部品につ いても独自に調達をしていた。
各国のNMS Cがそれぞれ自前のデポを構えていたため、 時にはリードタイムが二カ月もかかることが あったという。
これをTPCEが日本や欧州 各地域からの調達をとりまとめて在庫し、注 文に応じて各デポへ配送する形に九三年に 改めた。
汎ヨーロッパ・プロジェクトでは、 それをさらに進めてすべての在庫機能と末端 ディーラーに届けるまでTPCEが一元管理することを目指す。
これに伴い現在、前述したような拠点の 統廃合が進められている。
フランスでは、こ れまで現地の代理店がノルマンディー半島北 端の港町であるシェルブールにデポを持ち、 そこからフランス中のディーラーに配送をし ていたが、そのデポを閉鎖した。
フランス北 部であればTPCEのあるベルギーから出し たほうが近いからだ。
そしてパリより南のフランス南部向けには、 シェルブールの代わりにリヨンの南にあるプ ザンというところに自前のデポを設置。
この デポではフランスだけでなく、スペイン東部 のバルセロナ地区までカバーしていて、将来 的には北イタリアやスイスの一部へも供給す る計画だ。
スカンジナビアではノルウェー、スウェー デン、フィンランドの三カ国それぞれにデポ があった。
これが今はノルウェーとフィンラ ンドの二カ所になっている。
閉鎖したスウェ ーデンに関しては、ノルウェーとフィンラン ドから出すだけではなく、南部はデンマーク のデポから出荷する。
担当者は次のように語る。
「こういったオ ペレーションは、従来の体制ではまったく不 可能だった。
われわれ自身が欧州全体の物 流を統括することによって初めて、こうした 戦略的なロジスティクスが可能になった。
国 境にこだわる必要はもはやない。
地理的に最 も条件の良いところから出荷していく」 ■■マツダ ――ディーラーへの直送体制へ トヨタと同様に、マツダも欧州の各国別 販社の在庫をパーツセンターに集約している。
ただし欧州各地に自社デポを設置していく のではなく、センターから全欧の各ディーラ ーへ直送する体制を整えている。
マツダが欧州に進出したのは一九六八年 のことだ。
同年中にベルギーにマツダ・モー ター・ロジスティクス・ヨーロッパ(以下M LE)としてパーツセンターを設置している。
しかし当時は国別に販売会社を順次設立していた段階。
ドイツ・イギリス・オランダと いった市場の大きな国々では、各販社が個 別に日本のマツダから部品を輸入し、自分 たちの倉庫で在庫し、国内の各ディーラーへ 配送するという体制をとっていた。
その後、 顧客サービスの向上と販社の負担減(販売 への資源集中)、欧州総在庫の削減を目的と して徐々に各社の倉庫を閉鎖し、MLEへ の集約を進めていった。
MLEは九五年に、ブリュッセルから北 へ車で三○分ほどのところに位置するウィレ ブルックにパーツセンターを移転した。
自社 TPCEはブリュッセル東郊、人 口5万ほどの町ディーストに位置 する。
その19.5ヘクタールの土 地を、トヨタは91年に取得。
EU 統合が実現した93年にセンター を稼働させた。
96年には隣接地 を5.8ヘクタール買い増して建物 を拡張、現在は、倉庫部分の延床 面積が7万平方メートルとなって いる。
ブリュッセル郊外のこの地を選 んだ理由は、EUの購買力のうち 約6割が500kmの圏内にあり、 欧州で1位、2位の規模であるロ ッテルダム港、アントワープ港に 近く、ブリュッセル国際空港もす ぐそばにあるためだ。
しかもそうした便利な位置にあ りながら交通渋滞の心配がなく、 ジャスト・イン・タイム(JIT) のロジスティクスを標榜するトヨ タにはうってつけだった。
土地の 値段も手頃で、労働力の確保も容 易だったという。
現在、同センタ ーでは約500人のスタッフが現 場作業に従事している。
トヨタ・パーツ・センター・ヨーロッパ(TPCE) AUGUST 2004 56 所有の土地面積が一四ヘクタール、倉庫は 増設中のものも合わせて今年の秋には延床 面積で約五万平方メートルになる予定だ。
こ こで三五○人が働いている。
取扱品目は約 三○万種類だが、実際に在庫しているのは そのうちの一○万種類である。
九八年からは、それまで主に販社経由で ディーラーに送っていた体制を改め、ディー ラーへの直送に段階的に移行し始めた。
そ して二○○四年現在、全部で約二三○○社 あるディーラーのうち約二○○○社への直送 化を実現している。
ただしイギリスとオース トリア(主に東欧向け)の二カ所向けだけは 自前のデポを持っている。
その理由を担当者はこう説明する。
「欧州 各地にデポを設ければ、オーダーを受けた翌 日の配達が可能になる。
だがそのためにはデ ポのリース費、在庫費、入出庫費などの費 用がかかる。
一方、MLEのパーツセンター から必ず翌日に配 送するということ になればエアーで の出荷を余儀なく される。
したがっ てMLEからディ ーラーへ直送する か、あるいはデポ を設けるかは、エ アーの費用とデポ を持った場合のコ ストや、求められるサービスレベルなど諸々 の条件を総合的に勘案した上で決定しなけ ればならない」 比較検討した結果、イギリスとオーストリ アには配送用のデポを置き、その他の向け先はMLEから直送するという選択をした。
M LEの平均在庫日数は約三カ月。
今後もデ ポを増やす予定はないという。
■■本田技研工業 ――全製品の物流を統括 完成車を含むホンダの欧州での物流は、ベ ルギーのホンダ・ヨーロッパが中心となって、 欧州各地に六つあるロジスティクス・センタ ーを統括するかたちになっている。
トヨタや マツダとは異なり、ホンダは自動車部品専用 のサプライチェーンは持っていない。
ホンダの製品は自動車だけではなく、バイ クや船外機エンジンなど多岐にわたっている。
ベルギーのゲント港にあるホンダ・ヨーロッ パが、欧州・アフリカ・中東向けのホンダ製 品全ラインナップの物流を統括している。
設 立は一九七八年。
敷地面積は七一ヘクター ルと広大で、そのうちパーツ用倉庫の延床面 積が五・四万平方メートルル。
荷揚げ用の 専用ドックも持つ。
パーツだけをとってみても、自動車用が二 九万種類、バイク用が三一万二○○○種類、 その他汎用製品などを合わせると、全部で 七○万五○○○種類もの膨大な数になる。
入 荷量で見て みると、月 当たり四○ フィートコン テナーが二 七○本、ト レーラーが一 二○台分。
出荷は一日 あたりトレー ラー三○台分で、六、七○○○カ所に配送 を行っている。
注文の数も多く、一日にオー ダー数にして三万五○○○件にものぼる。
部品類はここから各地のディストリビュー ターやロジスティクス・センター、あるいは 末端のディーラーへ直接デリバリーを行う。
ホンダのロジスティクス・センターは、ドイ ツ・スウェーデン・イタリア・イギリス・スペイン・オーストリアの六カ所にあり、そこ からさらに各地域のディーラーへ配送する。
緊急の場合は二四時間以内に対応するが、通 常の在庫補充は三日以内に配送するのが基 本となっている。
同社のハンス・ド・ジーガー マネージャ ーは「EU拡大によって東欧市場も少しず つ伸びてきているが、同地域はまだ物流網が 整っておらず改善する余地が大きい。
オース トリアのロジスティクス・センターの機能を 充実させることを皮切りに、今後の体制を 整えて行きたい」としている。
特別レポート マツダ・モーター・ロジスティクス・ヨーロッパ ホンダ・ヨーロッパ:パーツの自動仕分機

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