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一括物流の理想と現実

(日経流通新聞 1999/6/15掲載分の元原)

・一括物流の取り組みが拡がっている。従来のように小売り店舗への納品を調達先卸がバラバラに行うのではなく、中間物流拠点で商品を店舗別に取りまとめて一括して納品することで、流通の効率を改善することが狙いだ。

・一見、理に適っていると思えるこの一括物流が日本の流通市場に大きな歪みを招いている。既存のインフラを維持したまま、小売りが新たに物流センターを設置することで、工場出荷から店舗納品に至る物流が返って多段階化している。

・流通全体を最適化するサプライチェーン・マネジメント(SCM)が求められている。日本企業は自らの置かれた市場環境に適した新たな流通モデルを作り上げなければならない。卸機能の運用がそのカギを握っている。


 近年、チェーンストアによる物流センターの設置が相次いでいる。しかし、その運営費を自分で負担しているところは、ほとんどない。センターの運営費とセンターから各店舗への配送料は「センターフィー」、もしくは物流センター使用料という名目で調達先の卸やメーカーなどに負担させている。各ベンダーとの取引額からセンターフィーを引いた金額をベンダーに支払うことで、商品購入額とセンターフィーを相殺するのである。

 小売業者が物流センターを設置することで一括物流が可能になる。従来、小売りの各店舗に納品していた卸やメーカーは物流センター一ヶ所に納品すれば済むようになる。これによって、納入側の物流コスト負担は下がる。センターフィーはその中から捻出すればいい。それが小売業者の言い分だ。

 しかし、現実は理論通りには動いていない。通常、センターフィーは卸の納入額に対する割合、パーセンテージで設定される。卸最大手の国分で現在、平均三・五%を支払っている。そして、この三・五%とセンター納品までの物流コストを合わせると、店舗納品していた時よりも国分の物流費負担は増加しているという。

 センターフィーが事実上、買い叩きの手段として利用されているケースさえある。某中堅スーパーマーケットでは物流センターの設置に伴うセンターフィーを五%に設定している。しかし、同社が実際のセンター運営を委託している協力業者に支払う費用は約三%。こうしたセンターフィーのピンハネが現実には決して珍くない。しかし、納入側はそれを知りながら、取引を失うのが怖くてフィーを払い続けている。

 さらに、現在の一括物流は構造的な問題も抱えている。これまで日本では、・工場、・メーカーの物流センター、・特約店物流センター、・小売店という商品供給チャネルがメーカー主導で整備されてきた。このインフラを維持したまま、小売りが専用物流センターを設置すれば、工場から店舗までの中継点が一カ所増えることになる。中継点が二カ所から三カ所に増えると、トータルの物流コストは約二五%増加する。そのしわ寄せはセンターフィーという形で取引先卸、そしてメーカーへとサプライチェーンを逆流していく。

 理論的には、複数の工場と複数の店舗の間に、店舗別の仕分けを行う中継拠点を一カ所だけ置いたとき、トータルコストは最小になる。実際に欧米では大手小売業者主導で、そうした形の流通チャネルが形成されている。日本でも一括物流によって、確かに流通の川下部分の効率は上がっている。しかし、チャネル全体で見たときには、返ってコストが増えている。個別最適が全体最適を阻害する「合成の誤謬」が起きているのである。

 この問題を解決するにはまず、同じチャネルを構成するメーカー、卸、小売りの各プレーヤーが最も効率的な流通モデルのビジョンを共有しなければならない。その上で、現在それぞれが抱えている流通資産をどう整理していくか。コストを誰がどういう形で負担するか、という合意をとっていく必要がある。まさにサプライチェーン・マネジメント(SCM)が求められているのである。

 SCMは初めに米国で実践され、そこから日本に輸入された経営コンセプトだ。八〇年代末にウォルマートとP&Gが開始した流通効率化の取り組みが、その代表事例とされる。両社は理想的なサプライチェーンを構築するために、お互いの経営情報を共有し、従来の役割分担を抜本的に見直した。これによって在庫を削減し、かつ品切れのない流通の仕組みを築き上げた。

 その後、P&Gは取り組みの対象を世界の大手小売業者約三〇〇社に拡大した。しかし、米国市場で成功を収めた流通モデルが、そのまま他の市場でも通用するとは限らない。実際、欧米や日本の市場でP&Gは期待されるような成功を収められないでいる。SCMのコンセプトは世界共通でも、世界中で通用する流通モデルの正解などは存在しないからだ。

 サプライチェーンとは一つの社会的な有機体だ。環境に適応できない生物が滅んでしまったの同様の法則がサプライチェーンにも当てはまる。環境が変化すれば当然、サプライチェーンも、その構造を修正しなければならない。日本企業には、その市場環境を反映した自らの流通モデルが必要なのだ。

 実際、米国のモデルを踏襲したSCMの取り組みがいくつか日本市場でも実行に移されているが、明かな成果が挙がっているケースは見られない。むしろ日本市場では米国型とは全く異なる流通モデルのほうが、現状では上手く機能しているのである。

 大手スーパーのユニーは九六年に自社の物流センターを撤去し、店舗納品までの物流を、全て調達先のベンダーに任せる体制にした。卸の集約は行わなかった。現在、調達先の取引口座数は大小合わせて四千にも上っている。この流通モデルは米国のSCMの定石から大きく外れている。

 しかし同社は現在、三〇万〜四〇万種類もの商品を扱っている。その在庫管理を全て自力で行うことは事実上、困難だ。カテゴリーごとのマーチャンダイジング機能も、現状では卸業者のほうが勝る。それならば、自らは店舗開発と運営に特化し、他はベンダーに任せたよい。そう同社は判断した。結果として、現在の消費不況下でも順調な業績を維持している。

 一方、北海道を地盤とする中堅CVSのセイコーマートは、ユニーとは正反対のモデルをとっている。製造から流通に至るサプライチェーンを自らの資本系列で囲い込む垂直統合がその特徴だ。同社の扱う四千程度のアイテムは全て自らコントロールできる。もはや他社のサポートは必要ない。同社はSCMの常套手段であるアウトソーシングや取引先とのパートナーシップとは全く無縁だ。しかし、業績が好調だという点で同社はユニーと共通している。

 また、日本で最も強い小売業者であるイトーヨーカ堂グループは、量販店とコンビニで異なる流通モデルをとっている。指定問屋制によって卸機能の活用する量販店のモデルに対し、コンビニでは卸中抜きによる垂直統合に向けた動きが目立っている。

 ここに挙げた各社は、いずれも商品アイテム数、そして自らのマーチャンダイジング能力を基に流通モデルを構築している。現在の一括物流が機能しないのは、こうした流通モデルの分析を欠いているからだ。米国との市場環境の違いを無視して、形だけを真似でもサプライチェーンは機能しない。日本市場で一括物流を本当に機能させるためには、市場の実態を反映した現実的な流通モデルのビジョンが必要なのだ。

 

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