ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス

物流新時代への助走

(ロジスティクス クロニクル 創刊準備号 2002年夏に書いた元原)

 「物流二法」(貨物自動車運送事業法、貨物運送取扱事業法)に鉄道事業法を加えた、いわゆる「物流三法」の改正案が成立した。運送事業の営業区域制の撤廃や運賃の事前届け出制の撤廃などが盛り込まれている。いずれも市場の実態を追認したものであり、今回の規制緩和によって運送業者が大きな影響を受けることはないーーそんな見方が業界内では大勢を占めている。

 楽観的過ぎると、私は考えている。規制緩和の影響を軽視する同じような言説は、九〇年の「物流二法」成立時にも耳にした。しかし、実際には「物流二法」を機に日本の物流市場は大きく変化した。新規参入が増加し、十年で事業者数は約三割増加した。同時にダンピングが激化し、運賃水準は下落し続けた。規制緩和で先行した欧米市場と全く同じ現象が起こった。

 結局、「物流二法」は“定石”通りの影響を日本の物流市場に与えることになった。今回の「物流三法」が、こうした動きに拍車をかけることになるだろう。運賃水準はもう一段、下落する。現在の実勢運賃には、各地の給与水準や需給を反映した地域差がある。営業区域が自由化されれば、これが低きに流れる。

 実際、欧州ではEU統一市場の誕生によって国別の敷居が取り払われたことで、人件費の安い国の運送業者が大量に経済先進国に流れ込んだ。これによりドイツなどでは、国内のトラック運送業者が壊滅的な打撃を受けた。日本各地のトラック運送業者もまた、「物流三法」によってドイツの運送業者と同様の“異邦人”との競争を余儀なくされる。

 かつて、「宅急便」の生みの親である小倉昌男ヤマト福祉財団理事長に「日本のトラック運送業者が激しく競争していると考えるのは間違いだ。競争などしていない。競争があるとしても特定の荷主を獲った、盗られたという局地戦だけだ」と教えられたことがある。

 確かに各種の統計資料によると、日本の運送業者の大多数は売り上げのほとんどを、わずか二〜三社の荷主に頼っている。一社でも契約を打ち切られると、経営に致命的な打撃を受ける。ただし、営業区域制があるため、想定すべきライバルの顔は特定できる。そんな状況下の“局地戦”では、戦い方も他社との差別化というより、顧客への隷属に近いものにならざるを得ない。

 しかし、ルールが変われば、競争のスタイルも変わる。新しいライバルが突如として現われ、これまで考えてもみなかったアプローチで荷主を奪っていくという事態に、多くの運送業者が直面する。従来の戦い方は、もはや通用しない。日本の運送業者が、初めて本格的な自由競争に晒される。勝ち負けがハッキリと分かれ、淘汰と再編が急速に進む。

 既にその兆候は現れている。帝国データバンクによると、昨年の運送業界の倒産は負債総額一千万円以上のものだけを数えても五百五十二件に上り、同社が集計を開始した八七年以降では九八年に次いで二番目に高い水準だった。また負債総額の合計は三千四百九十五億五百万円で過去最悪だった。さらに今年は昨年を上回るペースで倒産が続いており、最悪記録を更新することが懸念されている。

 その一方、現在のような不況下でも増収増益を続けているトラック運送業者は確実に存在する。それを株式公開企業の今年三月期決算で見ると、大手ではヤマト運輸、中堅ではハマキョウレックスやトランコムが堅調な業績を示している。特定の荷主に売り上げを依存していないこと、そして既存のトラック運送業者とは異なるビジネスモデルであることが、これらの業者に共通している。

 既に国内の輸送需要は下り坂に入っている。今後、景気が上向いても、輸送需要の拡大は期待できない。いくらリストラに精を出そうと、従来と同じやり方を続ける限り、じり貧を免れない。縮小均衡も維持できない。運送業界の横並び体質を引きずれば、ライバルもろともいずれは沈む。生き残るためには他社とは違う独自のビジネスモデルを開発する必要がある。もちろん容易なことではない。しかし、その産みの苦しみが、物流新時代への助走となる。


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