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卸売業 VS 物流業

(チェーンストアエイジ 2003年2月15日号掲載分の元原)


 卸売業と物流業の垣根が崩れてきた。2010年までに売上高7兆円を達成し、小売業として売上高で世界10位以内に入ることを目指すイオン・グループは、メーカーとの直接取引によって、いわゆる“卸の中抜き”を進めると同時に、物流業者への大胆なアウトソーシングを実施している。

 同社にとって物流機能の整備は、目標の「グローバル10」入りを実現するための最大の課題の一つとされる。そのため現在、物流インフラの刷新に取り組んでいる。日本全国に120カ所以上あるグループの物流拠点の大部分を2004年までに閉鎖する。並行して全国39カ所に大規模な物流拠点を新設するという壮大な計画だ。投資総額は890億円を予定している。

 ただし、実際に投資をするのはイオンではなく協力物流業者だ。拠点用地の確保、建設からその運営に至るまで、全ての物流業務をイオンに代わって協力物流業者が担う。具体的には常温商品については日立物流が、定温商品は日本最大の冷蔵倉庫業者という顔を持つニチレイが、それぞれメーンのパートナーとなっている。イオンは従来の卸売業者に代えて、これらの物流業者を新たな流通パートナーに選んだのだ。

 同様に家電量販店の“勝ち組”とされるヤマダ電機は物流センターの運営を中堅運送会社の第一貨物に全面的に委託している。現在、ヤマダは同社で「SCM(サプライチェーン・マネジメント)商品」と呼ぶ工場直接仕入れの自社企画商品の拡充に力を入れている。この「SCM商品」の流通では、従来のメーカー系列の販社は中抜きされ、代わって第一貨物が工場と店舗を結んでいる。

 こうして大手小売りチェーンと大手メーカーとの直接取引が日本市場でも確実に進んでいる。そこでは従来の卸売業者に代わり、物流業者が新たなポジションを獲得している。静岡県浜松市に本社を置く中堅物流会社のハマキョウレックスは、93年にイトーヨーカ堂から神奈川センターの運営を委託されたのを機に、チェーンストアやコンビニ向けの流通センター事業を拡大。以来、急成長を続けている。

 とりわけ流通センター事業の売上規模は過去3年で3倍以上に膨らんだ。扱い商品もアパレル・雑貨から食品へと拡がり、現在は定温物流センターへの投資を積極化させている。ちなみに02年3月期の同社の業績は売上高185億円で前年比28.4%増、営業利益13.9億円で同40.3%増。四期連続の増収増益かつ過去最高益を更新している。

 日本に先立ち米国市場では、90年代初頭以降、サードパーティ・ロジスティクス(3PL)と呼ばれる新しいタイプの物流業者が台頭し、中間流通の担い手として既に広く定着している。米国の3PLは輸送や保管、流通加工といった中間流通に必要な物流機能をクライアントの荷主企業に代わって統合管理する。さらに最近では金融決済や与信管理にまで、自らの業務範囲を拡大させている。

 今や3PLは荷主企業の全てのバックヤード機能をカバーしていると言える。3PLを利用することでチェーンストアやメーカーは、物流や決済などの調達先の日々の管理から解放され、本業のマーチャンダイジングに集中できる。日立物流やニチレイ、第一貨物、ハマキョウレックスなどの日本の物流業者は、この3PLを日本市場で展開することを狙っている。既存の日本の卸売業者は今後、物流業者系3PLとの競争を避けられない。実際、チェーンストアの業務委託先の選別では、卸売業と3PLが直接ぶつかるケースも出てきている。

資本の寡占化が進む

 大手加工食品卸・菱食の廣田正社長は、かつて筆者に次のように解説している。「製造業者と小売業者を結ぶ中間流通機能は未来永劫必要だ。ただし、それが卸の役割だとは限らない。小売業者や製造業者、あるいは物流業者が中間流通を担うのかも知れない。要は業態ではない。適切な機能を持つ企業が生き残るだけだ」

 その菱食は過去10年にわたって物流機能の強化を最大の経営課題に置いてきた。手間のかかる1個単位の流通加工を効率的に処理できる物流インフラを全国に整備することで差別化。チェーンストアの元請卸としての地位を確保した。同時に物流オペレーションの生産性を毎年、改善していくことで利益を捻出。16期連続増収増益という成長を実現している。加工食品業界の中間流通は今や同社と業界最大手の国分の二強時代に突入した格好だ。

 一方、日用雑貨品業界でも、ダイカを中心とした「あらた」グループとパルタックという2大卸が90年代以降、物流機能の強化を急ピッチで進めてきた。2社は各地の日雑卸の吸収合併を進めることで、全国化も図った。現在の2社の売上高を合わせると8000億円弱に達する。約2.5兆円と言われる日本の日雑市場のおよそ3割を占める計算だ。

 こうして加食と日雑、いずれの業界でも物流機能を軸に中間流通の寡占化が進んでいる。さらにその背後には国内市場の中間流通分野で新たな覇権を握ろうとする総合商社の姿が見え隠れする。既に食品分野では主だった卸売業者のほとんどが大手総合商社と資本関係もしくは提携関係にある。

 日雑卸のあらたとパルタックは今のところ独立資本だが、大手食品卸に比べれば事業規模や財務基盤が脆弱であるため、今後の状況次第では総合商社や大手食品卸に飲み込まれる可能性を否定できない。財閥系総合商社の担当者は「米国では加食と日雑は同じグロサリーというカテゴリーで括られ、中間流通も一緒に処理されている。いずれ日本も同じことになる」と見ている。

 純粋に物流機能だけを比較すると、ケース単位の取引が中心の食品卸よりも、単価が低くピース単位の取引が多い日雑卸のほうが、物流条件の厳しい分だけ勝っていると言われる。実際、菱食が物流のお手本にしたのは米国の大手グロサリー卸、フレミング社の日雑のオペレーションだった。米国の日雑の物流ノウハウを菱食は日本の加食に適用したわけだ。

 高度な物流機能を持つ日雑卸と大手食品卸を資本統合すれば、チェーンストアのニーズにフルラインで対応できる米国型のグロサリー卸が日本に誕生する。この青写真が実際に機能するかどうかについては、異論があるものの、総合商社そして一部の外資系投資会社が、そうした思惑を秘めているのは事実だ。


中小卸は3PLを目指せ

 それでは大資本による中間流通寡占化のシナリオからあぶれた中堅以下の卸売業者は果たしてどうなるのか。今から自力で規模を拡大しようとしても、大手卸に追いつくのは事実上困難だ。足元では物流業者系の3PLが卸売業の商圏に食い込むチャンスを窺っている。何も手を打たずにいれば、じり貧は免れない。

 中堅以下の卸売業者が生き残るためのカギは、やはり物流にある。卸売業者の3PL化が一つの選択肢となる。全国規模の大手卸と物流業者系の3PLを比較すると、提供するサービスに基本的な違いはなくとも、そのモデルは大きく異なっている。菱食や日雑大手卸はいずれも不特定多数のチェーンストアを納品先とする汎用センターを基本としている。これに対して物流業者系3PLの運営するセンターは特定のチェーンストア専用だ。

 「だれもが明確な条件で提供を受けられる商品やサービスの供給を通じて、第三者間の取引を活性化させたり、新しいビジネスを起こす基盤を提供する役割を私的ビジネスとしておこなっている存在(慶応義塾大学ビジネススクール国領二郎教授)」を「プラットフォーム・ビジネス」という。主にeコマースのビジネスモデルの分析に用いられる概念だが、クレジット・カードや宅配便なども、プラットフォーム・ビジネスの例として挙げられる。大手卸の汎用センターも、その一つに数えることができる。

 一般にプラットフォーム・ビジネスはインフラ整備に多額の投資がかかるため、何より規模がモノを言う。利用が増えるほど一件当たりの固定費負担が下がり、コストパフォーマンスは向上する。ただし、どうしてもサービスは画一的にならざるを得ない。一方の3PLは、特定顧客向けが基本になるため、規模の拡大は限定的で生産性の向上に制約がある。その反面、特定顧客のニーズに合わせた柔軟な対応が可能になるという特徴を持っている。

 そしてプラットフォーム・ビジネスと3PLを同じ会社で両立させることは、理論上は可能でも実際には容易ではない。それが3PLを産んだ物流業界の歴史から学ぶことのできる教訓だ。米国市場しかり。日本市場でも物流業界の勝ち組とされる大手宅配業者が3PLビジネスでは中堅以下の物流業者を相手に苦戦を強いられている。

 現在、大手食品卸はインフラのプラットフォーム化を進める一方で、個別のチェーンストアの専用センターも請け負うという二兎を追う形になっている。しかし、これは一時的な現象にとどまるだろう。汎用センターを利用していたチェーンストアが専用の一括物流センターに移行すれば当然、その分だけ汎用センターの稼働率は下がる。プラットフォームの規模が確保できなくなるわけだ。実際、その傾向は既に現れている。

 これに対して、もともと市場規模の小さい日雑業界の大手卸は専用センターには基本的に手を出していない。加食卸の拠点政策もやがては日雑同様の汎用型に収斂していくはずだ。しかし、いくら低コストであってもプラットフォームの汎用的なサービスに満足できない顧客は今後も一定の割合で存在する。彼らのニーズに100%応えるカスタマイズしたサービスを提供すること。それが卸系3PLのドメインになる。

 卸から3PLへの業態転換で成功した会社が既に米国に存在する。大手3PLの一つに数えられるCHロビンソン社がそうだ。生鮮品を扱う老舗の卸売業者だった同社は80年代に物流業の規制緩和が実施されたのを機に3PL事業に参入、急拡大を遂げた。90年代に入ると卸売事業と3PL事業の売上規模は逆転。今では収入の七割以上を3PL事業で売り上げている。

 同様に日本でも、麺を販売する零細卸業者だったグルメンは、首都圏の地域スーパーを対象に、大手食品卸が扱ってことなかった和食系のチルド商品、いわゆる「和日配」の一括物流を提供する食品分野の3PLに転進することで急成長を実現した。02年3月期の売上高は約80億円。過去5年で事業規模は5倍に膨らんだ。

 当初、同社はスーパーの店舗に商品を納入するメーカーを荷主として、その物流を代行する共同物流会社という位置付けだった。その後、チェーンストアが相次いで自社専用のセンターを設置するようになって、顧客の顔ぶれがメーカーから小売りに変わった。扱い商品も和日配のほか、生鮮品や洋日配まで含めた日配品全体に拡大した。

 同社の澤田幸雄社長は「もともと卸は利が薄い。商売を始めたはいいが、麺の販売だけでは全く儲からなかった。何とか生き残りたいと、もがき苦しんだ結果、和日配専門の物流業、そして3PLにたどりついた」という。後ろ向きのコスト削減だけで卸売業者が今日の苦境を乗り切ることは難しい。生き残りをかけたビジネスモデルの再構築が迫られている

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